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響かない轟音

短編
あらすじ
社会生活に疲れ、自分の声が誰にも届かないと感じていた青年ケンタは、衝動的に図鑑にはない奇妙なキノコを口にする。翌朝、目が覚めると、彼の体は巨大化していた。

もともと視力が悪く、ぼやけた視界の中で、ケンタは人里に近づいてしまう。彼が村人たちに「俺だ!」と必死に呼びかけた声は、山々に響く轟音となり、村人たちの耳にはただの地鳴りとしてしか届かない。パニックに陥った村人たちは逃げ惑い、一人の悲鳴をきっかけに、SNSには「巨人に襲われ重傷!」という偽情報が拡散されていく。

一方、自衛隊のドローンパイロットであるタケシは、モニター越しにその映像を見ていた。原始人のような巨人の右手の甲に見慣れた小さなほくろ、不安な時に無意識に首をかく癖。そして、映像の片隅に映り込んだ、昔プレゼントした壊れたランタンのキーホルダー。タケシは、その巨人が親友のケンタであると確信する。

しかし、司令部から下されたのは「未確認巨大生物、駆除命令」。上官の冷酷な命令と親友の存在の間で、タケシは葛藤する。タケシはマイクを手に「ケンタ!俺だ!聞こえるか!」と叫ぶが、彼の声はただの電子音となり虚しく響く。

その時、タケシの脳裏に、数年前サバゲーでケンタと喧嘩した日の光景がフラッシュバックする。あの時、ケンタの「やめろ!」という声が自分に届かなかった。今、ケンタの声は轟音となり、タケシの声は電子音となり、互いに届かない。

タケシは涙を流しながら、親友を救うため、ミサイルをケンタに直接ではなく、あえて近くに着弾させる。衝撃波を浴びたケンタの体は、急速に元の大きさに戻っていく。

タケシの叫び声はヘリの轟音にかき消され、ケンタには届かない。しかし、ぼやけた視界の中で、自分を救助しようと近づいてくるヘリと、その中に乗るタケシの姿を認めたケンタは、かすかに微笑んだ。失われた友情が、確かにそこにあった。
Nコード
N5694LC
作者名
Tom Eny
キーワード
残酷な描写あり ESN大賞9 シリアス ダーク 男主人公 人外 現代 ミリタリー ハッピーエンド 青春 超能力 伝奇 ハードボイルド 怪獣 友情 孤独
ジャンル
ヒューマンドラマ〔文芸〕
掲載日
2025年 09月22日 17時30分
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文字数
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