短編
- あらすじ
- 大手芸能事務所は経営危機に瀕していた。もはや打つ手はなく、倒産寸前。社長は最後の賭けとして、片隅の事務部署に集められた三人の事務員に最後の望みを託す。彼らはかつて夢を諦めた人間だった。元ミュージシャンの小野寺、小説家志望の佐藤、デザイナーの田中。彼らは、それぞれの才能を結集させ、この世に存在しない完璧な**「虚像」**、ユリカを作り出すことを決意した。それは、彼らの挫折した夢の残骸を重ねた、壮大な「嘘」だった。
小野寺は、無数の歌声データを編集し、聴く者の心を震わせる「ユリカの歌声」を創り上げた。それは、かつて自分の歌では誰の心も震わせられなかった彼が、ユリカに注ぎ込んだ最後の情熱だった。佐藤は、ファンの心に深く響く「ユリカの人格」を創り出し、物語を紡ぐ喜びを現実世界で取り戻していく。田中は、無名の役者を雇い、光と影の演出で完璧な「ユリカのシルエット」を舞台に立たせた。彼らの緻密な計算によって作られたユリカは、瞬く間に国民的な人気を獲得する。
ユリカの歌はミリオンヒットを記録し、SNSには「ユリカに救われた」というメッセージが溢れた。その成功は彼らに安堵をもたらしたが、同時に葛藤も生んだ。ユリカの人気が上がるにつれ、その正体を疑う声が上がり始める。彼らが作り上げた完璧な虚像に、時折混じる予期せぬ「傷」。それは、ユリカに注ぎ込んだ彼ら自身の「夢の痕跡」なのか。そんな中、ユリカに『紅白歌合戦』のオファーが舞い込む。それは、彼らが作り上げた虚構の最大の試練だった。
彼らはユリカと、そして自分たちの夢を守るため、ある決断を下す。紅白への出演を断念し、ユリカは「伝説」となった。年が明け、彼らはいつもの事務室で、テレビに流れるユリカの映像を静かに見つめる。その笑顔は、彼らの「嘘」が多くの人々の心の中で「真実」となったことの証だった。そしてそれは、かつて追い求めた夢とは違う、新しい夢の始まりだった。
ユリカはどこにもいない。だが、彼女は永遠に人々の心の中で生きている。 - Nコード
- N4153LB
- 作者名
- Tom Eny
- キーワード
- ESN大賞9 シリアス 男主人公 現代 職業もの 群像劇 日常 ハッピーエンド 青春 ハードボイルド 私小説 人工知能 ミステリー ヒューマンドラマ プロデュース
- ジャンル
- ヒューマンドラマ〔文芸〕
- 掲載日
- 2025年 09月13日 22時35分
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