- あらすじ
- 【カクヨムさん・アルファポリスさんでも掲載中】この屋敷は、わたしの居場所じゃない。
薄明かりの差し込む天窓の下、トリノは古びた石床に敷かれた毛布の中で、静かに目を覚ました。肌寒さに身をすくめながら、昨日と変わらぬ粗末な日常が始まる。
かつては伯爵家の令嬢として、それなりに贅沢に暮らしていたはずだった。だけど、実の母が亡くなり、父が再婚してから、すべてが変わった。
「おい、灰かぶり。いつまで寝てんのよ、あんたは召使いのつもり?」
「ごめんなさい、すぐに……」
「ふーん、また寝癖ついてる。魔獣みたいな髪。鏡って知ってる?」
「……すみません」
トリノはペコリと頭を下げる。反論なんて、とうにあきらめた。
この世界は、魔法と剣が支配する王国《エルデラン》の北方領。名門リドグレイ伯爵家の屋敷には、魔道具や召使い、そして“偽りの家族”がそろっている。
彼女――トリノ・リドグレイは、この家の“戸籍上は三女”。けれど実態は、召使い以下の扱いだった。
「キッチン、昨日の灰がそのままだったわよ? ご主人様の食事を用意する手も、まるで泥人形ね」
「今朝の朝食、あなたの分はなし。ねえ、ミレイア? “灰かぶり令嬢”には、灰でも食べさせればいいのよ」
「賛成♪ ちょうど暖炉の掃除があるし、役立ててあげる」
三人がくすくすと笑うなか、トリノはただ小さくうなずいた。
夜。屋敷が静まり、誰もいない納戸で、トリノはひとり、こっそり木箱を開いた。中には小さな布包み。亡き母の形見――古びた銀のペンダントが眠っていた。
それだけが、彼女の“世界でただ一つの宝物”。
「……お母さま。わたし、がんばってるよ。ちゃんと、ひとりでも……」
声が震える。けれど、涙は流さなかった。
屋敷の誰にも必要とされない“灰かぶり令嬢”。
だけど、彼女の心だけは、まだ折れていない。
いつか、この冷たい塔を抜け出して、空の広い場所へ行くんだ。
そう、小さく、けれど確かに誓った。 - Nコード
- N2309KM
- 作者名
- 山田 バルス
- キーワード
- R15 異世界転生 ほのぼの 女主人公 西洋 中世 職業もの チート 魔法 冒険 日常 ハッピーエンド グルメ 青春 ゲーム 音楽隊 旅行
- ジャンル
- ハイファンタジー〔ファンタジー〕
- 掲載日
- 2025年 06月02日 15時20分
- 最終掲載日
- 2025年 08月07日 12時30分
- 感想
- 1件
- レビュー
- 0件
- ブックマーク登録
- 142件
- 総合評価
- 1,160pt
- 評価ポイント
- 876pt
- 感想受付
- 受け付ける
※ログイン必須 - レビュー受付
- 受け付ける
※ログイン必須 - 誤字報告受付
- 受け付ける
※ログイン必須 - 開示設定
- 開示中
- 文字数
- 115,546文字
設定
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄されたトリノは、継母や姉たちや使用人からもいじめられているので、前世の記憶を思い出し、家から脱走して旅にでる!
作品を読む
スマートフォンで読みたい方はQRコードから

同一作者の作品
N9393KH|
作品情報|
連載(全266エピソード)
|
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
【カクヨム様、アルファポリス様にも投稿中】
カールは学園の卒業式を終え、心の中で晴れやかな気持ちを抱えていた。長年の努力が実を結び、婚約者リリスとの結婚式の日が近づいていたからだ。しかし、その期待は一瞬で裏切//
N5270KZ|
作品情報|
完結済(全44エピソード)
|
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
【アルファポリス様にも掲載中】王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。
「ローゼ・フォン・エルンスト//
N5564KW|
作品情報|
完結済(全38エピソード)
|
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
【カクヨムさんにも掲載中】魔法学院の試験に落ちたキルア=レイグラントは、レイグラント伯爵家の跡取り候補からも落ちる。伯爵家を追放された上に、追放先の帝都に向かう馬車に暗殺者が送り込まれ、谷底に落ちていく。途中で、杖ではな//
N3233KW|
作品情報|
完結済(全43エピソード)
|
異世界〔恋愛〕
【アルファポリスさんにも掲載中】『銀のアテネと魔道具の街』――婚約破棄と、さよならの朝――
「……もう、アテネとは結婚できないんだ」
その一言で、アテネ=グレイの世界は静かに壊れた。
魔道具店《星降る歯車亭》の奥、//
N3723KJ|
作品情報|
完結済(全146エピソード)
|
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
【カクヨムさんにも掲載中】 剣士ライン=キルトは、冒険者として名を馳せることを夢見て、血と汗と剣を捧げてきた。
幼い頃から剣を握り、パーティの中堅として名が通るようになったこの頃、ライン=キルトはようやく手応えを感じ始//
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。