- あらすじ
- 「困ってる人を見ても、助けたりしちゃ、いけないんだぜ。自分にとって、命取りになるからね」
夏っぽい夜風を感じると、いつも思い出される言葉だ。
その言葉を耳にした時、俺はまだ八歳で、社宅に住んでいた。マンションの三階。その夜、俺は珍しく度の過ぎた悪戯をして、お仕置としてベランダに閉め出されていた。後にも先にも、そこまでの仕置を受けた事はない。
多分、当時の俺は夏休みを目前にして高揚していたのだ。何を思ったのか、父の部屋から車の鍵を拝借して、運転席に座った。そして、見様見真似で車を走らせたのだ。駐車場の中だけの話だったし、自転車よりもノロノロとした速度だったから、そこまで叱られるとは思わなかった。
叱られる事に慣れていなかった俺は、大きなショックを受けた。十七年経った今でも、よく覚えているくらいに。
あの夜、ベランダで俺がひとり、打ちひしがれていた時、隣の家の網戸がガラガラと鳴った。続いて、蒸し暑い空気を割くような、シュパッという音。目をむけると、向こうもこちらを見ていた。
スッと背の高い、薄い体。少し外国人風の顔立ち。湿った夜に、赤い点のような輝きがくっきりと見えた。独特の香りが鼻をつく。先程の空気を割くような音は、ライターだったのだと知った。淡い煙が夏に溶けていくのがキレイだった。 - Nコード
- N2230II
- 作者名
- 上田秋人
- キーワード
- 日常 短編
- ジャンル
- ヒューマンドラマ〔文芸〕
- 掲載日
- 2023年 07月20日 13時05分
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