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「天国・地獄・大地獄」-序章-  作者: 瀬良浩介


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07

「天国・地獄・大地獄」-序章-

ただいま毎日〈月〜金のみ〉鋭意連載中!!

「こんな短時間に次がくるなんて初じゃない?」


「確認しましょう」


 俺を置き去りにして、得心顔(とくしんがお)でやりとりしてないか?ちょっと待ってくれよ。


「接続ってなんだよ!?」


 置いてきぼり感に憤慨(ふんがい)して語尾が荒くなった俺の問いに、山吹(やまぶき)サチは少し困ったような顔になって、高遠(たかとお)アキハを見た。

 視線を感じたのか、高遠アキハが鼻をならす。


「新しい誰かさんが、私たちがいる空間に接続した音。

 そうすると新しいポータルがどっかにできんの」


 言いながら、高遠アキハはカラオケルームの扉を開けて通路へと出ていってしまう。


「行きましょう」


 山吹サチもすでに立ち上がっていて、俺をうながす。


 山吹サチに続いてルームを出ながら、次から次へ舞い込んでくる情報を頭で整理する。今度は『接続』?

 つまり、目覚めた部屋で感じた衝撃(しょうげき)は、俺の空間と二人がいた空間が『接続』したときのものだったわけか。


 ここに(とら)われた者たちは、最初からひとつの空間にいるわけじゃなく、自分たちの空間同士が『接続』することで初めて出会えるということになる。

 なんて大掛かりな仕組みだ。巨大コンテナみたいなものの中に閉じ込められてるってのか。


 その刹那、首筋に冷たいものが当たった。

 びくんとして手をやると、うっすら湿っている。

 はっと天井を見ると、天井のクロスに大きなシミができており、そこから次々と水滴が生まれているのが見えた。


 さっきの衝撃で排水管から水漏(みずも)れ?

 いや、まさかこれも『(わな)』の続きなんじゃないか?


 下腹部がきゅうっと締め付けられる感覚に襲われる。

 いま目にしているのは、どこにでもあるようなカラオケ屋の内装だ。

 しかし、いざここに立つとわかる。

 目に映るもの全てが、俺に敵意を向けている。敵意を塗り固めてでき上がっている。


 そんな中に俺は立たされている。


 恐怖に背中を押されるように走り、二人に追いつく。

 二人は通路の先、右に曲がった先の死角で立ち止まっていた。


「これ、さっき電源入ってなかったよね」


 高遠アキハの視線の先には、エレベーターの扉があった。

 電光式の表示板には『4』の数字が光って表示されている。


「押してみますか?」


「ん、どうしよう」


 何を迷ってるんだ。早く行かないと、水が。


「そこは、ポータル?」


 俺が尋ねると、山吹サチが振り返る。


「私たちが(とお)ってきたものじゃないんです。さっきはそっちから出てきたので」


 山吹サチが指し示したのは、トイレの扉だった。てか、またトイレか。


「で、どっちに行くの」


「考えてる。二人も同時に接続するのなんて初めてだから」


「いやでも、早くしないと」


「ちょっと黙っ……」


 (あせ)る俺をにらみ返した高遠アキハは、俺の背後で天井から(したたり)り続ける水が目に入ったらしく、さっと顔色を変えた。


「水、来てんじゃん」


「ここもですか」


 状況を飲み込んだらしい山吹サチは、振り返りざまにエレベーターの『上』ボタンを押した。

 即座に扉が反応し、左から右へゆっくりと開いていく。


「開きます」


 扉の先は、エレベーターの箱内ではなかった。

 規則正しく並ぶのは事務机。それぞれの机上には書類やパソコンが置かれているのが見える。

 小規模なオフィスといったところだろうか。


「私たちが通ってきたエリアに、水を(しの)げそうなものはありませんでした。

 いったん、新しいエリアに逃げてみませんか」


「ああ、なるほどね」


 高遠アキハはこめかみに二本指をあてて考え込んでいたが、吹っ切れたようにエレベーターに向き直った。


「そうしよう。やむを得ん」


 それを聞いた山吹サチは、俺に目配せをしてエレベーターの扉をくぐり抜ける。

 俺もそれにならってオフィスの方へと入った。

 さらにそのあとから高遠アキハが部屋に入ると、エレベーターの扉が静かに閉まっていく。このポータルはこちら側から見てもエレベーターだ。


 しんと静まり返ったオフィスは、天井の白色照明に照らされて無機質(むきしつ)に目に映る。

 窓にはブラインドがかかっていて外の様子は(うかが)えないが、どうせ壁なんだろう。

 初めて訪れた場所で感じる、身が(ちぢ)こまるようなアウェー感がある。俺の記憶にはない場所のようだ。


「これが、新しい誰かのエリア?」


 俺は絞り出すような声でつぶやいていた。

 頭の中で処理し切れず()まった、汚泥(おでい)のような混乱を吐き出して、誰かに任せてしまいたかった。


「しっ」


 山吹サチが人差し指を口元に当てた。


「誰か、います」

08 へつづく


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