06
「天国・地獄・大地獄」-序章-
ただいま毎日〈月〜金のみ〉鋭意連載中!!
一体どこのどいつがそんな悪趣味な罠を。
聞いたところで、ここにいる誰もそれを知るはずがないことは判っていた。
「私は急いで部屋を出ようとしましたが、出口のドアノブも」
「ポータルね」
高遠アキハが口を挟む。
「はい、ポータルのドアノブも、L字のものだったんですが、やはり鋭利でした。へりに触れないよう、なんとか開けて脱出したんです」
誰の仕業かは謎のままだが、俺が陥った状況や山吹サチの話から、『罠』の意図しているところは理解できた。
「つまりここは、俺たちに危害を加えるための施設、ってことですか」
「危害どころか」
俺の不安をわざと煽るように、高遠アキハは片手をひらひらさせて言った。
「殺しにかかってきてんじゃん?」
「なんで……」
俺は言葉が続かなかった。殺されるような理由がどこに。
「だから、さっき水の話を聞いて危険だと思ったんです。
あの水は、きっとお兄さんの『罠』です」
「俺の『罠』。それから逃げながら、出口を探す……」
そう言ったとき、二人に出会ったときの会話を、ふいに思い出した。
「そういえば、山吹さん言ってましたね、外に出られないって」
それを聞いた山吹サチは、明確に顔を曇らせた。
「今のところ、出口の手がかりは見つかってません。
どこへ行ってもあるのはポータルばかりで、屋外に出られないんです。けれど」
山吹サチは一拍置いて、俺と高遠アキハを交互に見やった。
「ポータルの先にはあなたたちがいた。一人ではないことが判ったんです」
山吹サチの目は穏やかな光をたたえていた。
わけのわからない異空間に放り込まれて、孤独を感じないわけがない。この人は俺と同じ境遇だ。いい人だ、会えてよかった。
「上出来じゃん」
高遠アキハが腕組みをしながら言い放った。
「一体どこまでが本心か、読めなかった」
比べてこいつは協調性のカケラもない。どういう性格だったら、こんな善人に悪態がつけるというのだろう。
山吹サチを擁護しようと口を開く前に、本人が言葉を返した。
「褒めてるのか、けなしてるのかわからないですが。事実をお伝えできていると思います」
よし、ここで援護射撃だ。
「そういう君は、どんな状況だったって言うんだ」
二人からの視線を浴びた高遠アキハは、鬱陶しそうに顔をそむける。
「なんで言わなきゃなんないわけ」
ああ、本当に協調性がない。
「ここから脱出すんなら、協力し合った方がメリット高いだろ」
「協力はする。けどプライバシーは晒す必要ない」
「プライバシーって……」
ふと、自分の目覚めた部屋を思い出す。
そこからカラオケルームに至るまで、俺に関わりのある場所ばかりが出てくる。
確かに、この情報はプライバシーに抵触する恐れはある。くやしいが、一理あるか。
見たところ年頃の女子ではあるし、自分のことをさらけ出すのは苦手なのかも知れない。
しかし、言いたくないの一点張りではこちらに猜疑心も生まれる。まして人を小馬鹿にするような性格だ。
言いたくない理由を疑ってしまう。
「それでも、なんかこう、言えることないのかよ」
ちょっと意地が悪いような気もしたが、山吹さんがあそこまで語ってくれたのに対して、もうちょっと敬意というか、バランスを考えろよという思いが強い。
俺の言葉の棘に少し顔をしかめて、高遠アキハはぽつりと呟いた。
「アッシが見たのは、罠なんかよりもっと怖いもの」
今、『アッシ』と聞こえたが、『アタシ』が舌足らずでそう聞こえるのか?
いやそんなことより、はじめて何かを語ろうとしている。怖いものって言ったか?
「それって、何?」
高遠アキハはうつむいて、組まれた両腕に力を込めている。少し、震えている?
その時だ。轟音とともに部屋が揺れた。扉がびりびりと振動している。
俺の目覚めた部屋で感じたあの衝撃だ。山吹サチが咄嗟にテーブルを押さえながら言った。
「これは」
「接続したね」
高遠アキハがまた意味深なことを言う。
『接続』だって?
07 へつづく
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