02
「天国・地獄・大地獄」-序章-
ただいま毎日〈月〜金のみ〉鋭意連載中!!
ワンルームの玄関のドアを開けたら、普通の感覚だったら廊下や通路に出ると思うよな。
それが建物内の廊下なら、他の部屋の玄関やらが並んでいるだろうし、外通路なら何かしら外の風景が目に入るはずだ。
しかし、いま俺の目に映っているのは、どこからどう見ても飲食店の店内だった。
コの字に配置された客のためのカウンターテーブル、左手には厨房スペース、積み重ねられた丼。
どこにでもあるような、丼物を提供するファストフードの店内にしか見えない。
振り返ってドアの向こうを確認するが、間違いなく先程までいたワンルームだ。
ゆっくりとドアを閉めると、こちら側にはトイレの表示。
もう一度、勢いよくドアを開けてみるが、変わりなく水浸しになったワンルームのキッチンがそこにはある。
再度、振り返ればやはりそこは牛丼チェーン店。
俺はわけも判らぬまま後ろ手でドアを閉めた。
何がどうなっている?
誰が何のために牛丼屋のトイレにワンルームを作った?
たちの悪いイタズラなのか、それともまだ夢の中なのか。
俺は店の入口に目をやった。一面に張られたガラス窓から外の景色が見える。車道が見えるが、動くものは見えない。車も、通行人も、何も。
カウンターを大回りして入口に近づき、自動ドアの前に立つがドアは動かない。
無理やり開けようとするがびくともせず、俺は大声を上げて窓ガラスを掌で叩いた。
「おい、開けてくれ!誰かいないのか、おい!」
そのとき、ガラスに顔を近づけたことで、大いなる違和感に気がついた。
ガラスから見える外の景色は、動くものが見えないのではなく、完全に静止している。
景色だと思っていたものは、ガラスに貼り付けられた高精細な写真だったのだ。
とんでもない解像度で、静止した風景がガラスに貼り付けられている。
間違いなくこれはイタズラだ。何者かが悪意をもって俺をここに閉じ込めている。
膨らんできた怒りが恐怖を塗りつぶしていくのを感じながら、店内を見渡す。
しかし店の内装にはどこか見覚えがあった。
ありふれた牛丼店ではあるのだが、ここは――。
そのとき再び頭痛に襲われた。
そしてフラッシュバックする記憶。
カウンターの内側や厨房の配置、戸棚の中身まで、記憶の中にすべて揃っている。
俺は、ここで働いていたことがある?
一緒に働いていた同僚たちの姿や声が浮かんでは消える。
顔はぼんやりとして判らない。だが確かに自分はここにいたことがある。
俺の部屋と、俺の職場を模した空間。
これが現実なら、一体どんな奴が、どれほどの酔狂でその二つをつなげたというのだ。
理解が及ばない。やはりこれは夢なんだろう。
胸の奥で、胃液が沸騰するかのような苛立ちを覚える。
夢だろうと現実だろうと、とにかくここには居たくない。
俺は記憶を頼りに、可動式になっている客席スツール(背もたれのない椅子)を探す。
はたして、厨房へ続く通路付近にそれはあった。
俺はスツールを持ち上げ、勢いをつけて入口のガラス戸に向けて放り投げた。
派手な音を立ててスツールが跳ね返るが、ガラス戸には傷ひとつつかない。
「くそ!俺をここから出せ!」
俺は再度スツールに手を伸ばし、持ち上げようとする。
そのとき、背後から女の声がした。
「開かないということは、そこは『壁』ですから、無駄ですよ」
あわてて振り返ると、厨房の奥から二人の女が歩いてくるのが見えた。
二人にははっきりした身長差があった。
こちらをまっすぐ見据えている高身長と、その肩あたりまでしかない低身長の凸凹コンビ。
高身長の方が口を開く。
「外の景色はすべて偽物です。屋外には出られないような造りになってるんです」
最初に声をかけたのも高身長の方らしい。
低身長の方は、時折こちらに目を向けるものの、すぐに別のところへ視線を移してしまう。
「あんたら……。他にも人がいたんだな」
俺は無意識に安堵の声を上げていた。
03 へつづく
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