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殴った

 外にいたのだ。

 緑木は外にいた。

 ふいにヒヨドリの鳴く声が視界の外を掠め自分の意識が帰ってくるのを感じた。

「ギャ!?」

 そして、悲しいことにその意識が宿りし肉体は全くの初見。

 それは『緑木西次郎』でなく、それどころかヒトですらない。

「、、、ニャ???」

 どちらかと言うとネコ寄りだ。

 緑木の意識を宿したそれは前足で顔を洗った。その姿を至近距離で眺める一対の目があった。

「コジロー!!!」

 事態の把握に忙しい緑木の脳内に新しい感触が襲う。

 人間に抱きかかえられたのだ。

 足が地面から離れ、自分の安全が自分より巨大な別の動物にコントロールされる恐怖が襲う。

「探してたんだよ、、、。もう、心配させて」

 恐らく優しい声で喋りかけてきているのだろうが捕捉されている恐怖が勝つ。この女は誰だ。声帯はすでにネコのものであるため言葉は出てこない。

 白黒の視界で大きな顔面が迫る。

「ギャ、」

 知って、、いる顔だった。

 佐藤ひよ子は瞬きを繰り返すと音を置き去りにする速度で緑を見た。

 木だ。

 記憶が流れ込み佐藤にとって知らない映像が流れた。


(この犬公に人間の素晴らしき習性、恩返しというもの、)


「きゃあ」

 思わず手を放してしまった。

 ネコは驚き難なく着地したあと逃げて見えなくなった。

「ああ、コジ、」

 佐藤はネコを追いかけた。

 公園を通り過ぎ、路地裏に入った。東京都新秋津駅近くで巨大な大木がコンクリートから発生した。

 違った。

 佐藤は手で口を抑えた。

「わあ」

 佐藤とは別の、近くを通った主婦が叫んだ。

 大木ではなかったのだ。

 自転車が倒れる音が響いた。主婦が乗っていた自転車だ。

 ステゴザウルスだ。

_現実にステゴザウルスを見たことがないことは、これがステゴザウルスではないとする決め手にはならなかった。サイではない。ゾウではない。現存する哺乳類が当てはまらない。

 赤い皮膚が丸くせり上がり均等に並んだ背ビレをたたえている。前方の小さな頭部と反対側に凶悪なとげをこしらえた太い尻尾が伸びている。

 恐竜だ。そして絶対にこれはステゴザウルスという種だ。尻尾を持ち上げたモーションが周りに絶望を与える。巨大な生物が、周りに与える威圧は古今東西で不変なようだ。あまりに異常な存在が東京の大地を揺らしている現状に、確かな疑問が浮かぶはずだがそれは身の安全を確保してからでよさそうだ。

 佐藤は振り上げた拳をステゴザウルスの頭部に当てた。

 眼前で特大の非日常、ステゴザウルスを目に収めながら主婦は追加でトッピングされた異常を目にする。

 構図として凄まじい。

 女子大生がステゴザウルスを殴った。

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