ネコヨリ
かけがえのないものは何だろう。
彼はそんな自問自答をしてみる。
彼は、緑木西次郎は部屋の窓を開けため息を秋に放った。腐った木にたかるアリの群れはこの前けりをつけたから安心してこの体勢をとれる。
バイトまではまだ時間がある。
窓から見える公園の阿修羅像のようなものに気を取られているその時だ。
影が覆った。
4階の部屋の窓、そんな高い場所に近づいて来たものはなんだろう。
「ちょっ、、、と待て」
がさ、と頭上でものが当たる音がした。
ヒゲだ。
「っわああああああああ!!!」
全容を確認しようともせず彼は走り出していた。何かにつまずいて転んだ。
(にゃ〜)
そこにネコがいるはずがない、という思いとネコどころではない、という反射でそこに視線はあてなかった。
名前を呼ばれた。
「緑木西次郎」
そして、
「、、、え?」
そして、それは彼の知る場所ではなかった。
オレンジの空と紫の海。そう、開かれたまなこが写したのは見知らぬ浜辺。緑木は名前を呼ばれた方向に振り返った。静かに潮の音が鼓膜を打つ。
カメだった。確かに言語として聞き取れたのでこのカメから発せられた声だとは思えなかった。
「緑木西次郎。お前を待っていた」
まずい。カメ以外に発声源が見当たらない。カメが喋りかけているという事実を認めざるを得なくなる。
「お前に頼みがある」
身動きが取れない。驚きに叫びをあげる前に、恐怖から走り出す前に、魂が上げ続ける警報に今とるべき行動が見つからない。
「今からお前を元の時代に戻す。これまで通りの日常を送ってくれて構わない。ただ、」
カメの、黒い大型のウミガメの手前、砂中から何かが飛び出した。
「お前に拒否権は無い。新種のオレンジ、お前らの言葉でいう動物が発見された。恵比寿、、、恐竜と、鬼女、、、ネコ、、、だったか?を掛け合わせた生物だ。お前への頼みというのは、」
ダイヤモンドが肉をえぐるナイフのような形状で緑木の顎下に迫っていた。その動きは止まっている。
潮の音が鼓膜を打つ。
「この生物を恐竜寄りではなくネコ寄りにして欲しい」
ネコヨリ




