有紗
2、3日は資料整理などに覆われていた。転移を使用し、有紗を連れた会長が現れた。
「有紗。」
悠は、3日間は働きっぱなしでろくな休息も取れずにいた。そのため、有紗という癒しに会えたことがとても疲れ切った体を癒してくれた。
皆もありさに興味があり周りに集まってきた。
「有紗、挨拶できる?」
悠は、まだ本人が数日しか有紗と会っていないのに既に有紗の親としての自覚があった。
有紗は恥ずかしがり誰かの方へ隠れようとしていた。 ただ、有紗と仲が深いものはおらず、仕方なく悠の後ろに隠れていた。
「有紗です。」
恥ずかしがりながら、か細い声を出し挨拶していた。
この仕草に皆は心を掴まれてしまっていた。
「君たちの中でお子さんがいる方は?」
会長は有紗を連れてきてくれたのは良いが、今現状は有紗に構っている余裕はなかった。その為、日中はこの会社で面倒を見て貰えば良いが、夜は有紗を預かってもらいたかった。
一人の女性が手を挙げてくれたので、一旦お任せすることに決めた。
その職員には、夜の面倒も見てもらうため臨時報酬として300万で有紗を1週間以上見てもらうことに決めた。
300万という数字に彼女はすんなり受け入れてくれた。確かに、会っていきなり他の人に預けることは最低かもしれないが、この会社の復興を図るには1ヶ月以内に基盤を作らなくてはいけなかった。それは、北海道や東北にある自分たちの支部がある地域の人を助けることに繋がるからだ。
魔法協会の会長に彼女を匿うという意味での任務をこちらで引き受けたからには、しっかりと守っていくことを決めた。
悠と会長は社長室に2人で今後の状況を話し始めた。
議題は大量にあった。先行してやらなければならない事は、A級隊員やS級隊員の穴埋めであった。
この国の法律でいくら才能がある子供でも16歳以上の魔法協会に登録してある者でないと門への派遣は出来ない。しかも、1年に1度開催される魔法協会主導のクラン「会社」への就職会議は半年前に終わってしまっている。
16歳~25歳までで新たに魔法の会社に所属したい者たちのために、就職説明会が行われる。そこは、全ての魔法会社が新たな人手を探すために良い条件や良い給与などを提示する場となっている。その条件が合えば新卒はその時からから採用となっていく。
就職説明会が終わっているため、現在フリーの魔法士を探すほかはなかった。
フリーの魔法士でS級はおろかA級ですら数は少ない。
彼女がこちらに伺いたいことは、この落ちた会社を立ち直すことは出来る目処はあるのかという事だった。
悠の答えは、人手足りなくて殆ど何も始められていないという状況だった。 とりあえず信用できる仲間を早く集める必要があった。
「悠さん無所属で誰かいませんか?」
他の組織から引っ張ってくることは他の組織との対立に成りかねない。
「知っての通り、無所属で強い者は殆どいない。」
無所属のものが少ないのは、給与の面と保証の面が大きい。やはり魔法協会が認めている会社に入ると給与は跳ね上がる。さらに、仕事も確保されているから安定している。そのため、無所属で行っている奴は何かしらの事情を抱えている者だけだった。
「私たちも協力したいのですが、繋がりは悠さんの方が多いと思うので、手助けしてあげられることは少ないかと、、」
― 誰か引っ張って来れないかしら?
会長のその言葉が悠の直感にきた。
「引退した、メンバーを集めれば良い。」
この世界は、30歳になると稼ぎ終え危険な仕事だからと引退する者が続出する。
一度引退したものを引っ張っていくのは大変だが、あえて引退したばかりの30代ではなく、50以降元Sランクを集めるのは面白いと思った。50過ぎてもAランク以上の力を発揮する者はいる。これで大幅な人員確保の可能性はあった。
悠は、直ぐに連絡先を知っている元ロジックのメンバーに電話をかけ始めた。話に興味を持ってくれたメンバーは数名だった。ただ、久々の悠の電話で北海道まで来てくれるというメンバーが多くいた。
殆ど連絡は取っていなかったが、久々に昔のメンバーと同窓会をするのも面白いと思った。悠は、ロジック以外も時代を作ってきた仲の良かったメンバーに声をかけ、盛大に同窓会をすることにした。 悠自体は、そこまで人と関わることが好きではないが何年も生きていると、久々に会いたいと思うこともある。
Zion復活も含め盛大に盛り上げることにした。人を集めるには時間がないから、日時は1週間後。場所は、北海道のZion本社。何百年生きていて大きなイベントを開いたことのない悠にとって初めてのことだった。
同窓会の準備をする暇なく、会社を引き継ぐ準備を一週間続けていた。
会社の運営には、本社とは別の建物で行なっている。その為、必要事項があるときはこちらの建物に来て報告してもらうようになっていた。
この一週間で変化したことはZion魔法士のメンバーが復帰し始めていることだった。
そのまま辞職した社員が大半を占めていたが、A級隊員10名B級隊員40名C級隊員100名が残ってくれた。
A級隊員は、堤、更科、佐々木、松本、日吉、田中、山口、三上、高橋、前島であった。
A級隊員は、10名以上が顔を見せていない状況だった。
S級隊員は、3名在籍しているが悠が来てから彼らは1度も顔を見せたことがなかった。
彼らは、ここに残ってくれると言っていた。恐怖はあるがやはり自分にできることを行っていきたいという事があるのであった。
「S級隊員とA級隊員」「B級隊員とC級隊員」によって仕事が変化してくる。その為、本社には基本的にA級隊員とS級隊員が勤務するようになっており、B級隊員とC級隊員の棟は別になっている。これは、大きく仕事の違いがあるからだ。S級A級は、基本的にゲートを駆け回ることが多い。B級やC級はゲートの対応もするがゲートの処理や市民誘導結界の発動などの業務が多くなる。また、事務作業などの内容も異なってくるので建物を変えていた。
悠が本社に訪れた時に人が少なかったのはそういう理由だった。
B級以下のメンバーも確認したところ半分以上がいなくなってしまっていた。彼らが今まで出勤しなかったことに悠は、特には攻めなかった。彼らのことは、特別休暇という扱いにしていた。ただ、ゲートの事件が起こってから2週間以上が経ち人でも必要となってくる。その為、今後戻る意思があるものには籍を与えるが、戻る意思がないものに関しては除籍させてもらうことにした。これは、A級以上のものに関しても同様な事にした。
多少なりともA級以上が戻ってくれることで、作業効率は格段と上がっていった。流石自分たちの会社ではあるため、知っていることは多かった。
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