献花
悠は、病室のベッドで目を覚ました。洞爺湖でS級のモンスターと戦ったことだけは覚えていた。ただ、その後がどうなったか全くわからない状態だった。
― コン
悠の病室に見たことのない女性が入ってきた。メイド服が印象的なその女性は、ベッドの近くの椅子に座りこちらに語り始めた。
「悠様お目覚めでしたか。」
「あんたは、何者だ?」
「魔法協会会長の秘書です。」
悠は、その言葉に少し耳を疑った。会長とは長い付き合いだが一度も秘書を連れているのを見た事がなく、秘書がいるということを聞いたこともなかった。
「そうか。」
最近忙しくなってしまって秘書を雇い始めたのだろうと勝手に思っていた。
「それより、戦いの結果はどうなった。」
悠は、体を起こしながらに質問していた。悠は、それほどまでに戦いの結果が気になっていた。
「聞いていいか。 あの戦いはどうなった?」
「はい。S級モンスターを全部倒して終わりました。魔力が観測されていた範囲で助けられたのは若干100名。今回のゲートの異常により、2000名以上亡くなられました。 そして、Zionのメンバーも全員の死亡が確認されました。」
悠は、絶望に追い立たされた。Zionのメンバーには仲の良い友が多くいた。それだけではなく、2000名以上の死者を出してしまったことに、魔法士としての責任を強く感じていた。
悠は、心が砕けてしまったかのようになっていた。
「悠様、貴方様のおかげで救われた命もあります。 皆、貴方に感謝をしたいはずです。」
悠は、彼女の言葉に少し救われた。自分が危険な目に遭いながらも助けた甲斐があったということだ。
「あと、会長が貴方にお会いしたいそうなので、会合日を後日メールで送らせていただきます。」
翌日、悠は彼らの献花に出席した。この地を命がけで救った魔法士として、悠一人が出席を許された。Zion所属のメンバーは、遺族の都合により出席をすることはかなわなかった。
悠は、命を懸けて戦った者達が一緒に弔われない寂しさがあった。魔法士は、市民を守るという義務があるからこそ、守りきれなかった市民に顔を見せられないという状況であった。
大規模な献花は、亡くなった者たちを弔うものと、Zion社員などを弔う2回に分けて行われた。
その献花には、取材のカメラが多く来ていた。「魔法士に対する反感」「悠という伝説の存在」「Zionの正否」などの情報が欲しくて、多くの取材陣が待ち構えていた。
特に、悠はこの地のヒーローとして扱われてテレビにも連日取り上げられていた。ただ、その素顔は不明という扱いになっている。この国の魔法士の中で一番名を馳せている悠は、顔を出しているわけではない。彼の素顔を知る者はごく僅か。彼の漆黒の仮面の下の素顔を皆が知りたがっていた。
亡くなった市民の葬儀は滞りなく行われていった。悠は、顔色一つ変えず、彼らを送り出すことになった。
ただ、魔法士の葬儀は簡単には進まなかった。献花は、Zion本社で行われ市民がZion本社を取り囲む状態になっていた。魔法協会会長やZion社員などが来訪していた。
悠が一般市民を宥める役割をし、何とか喧嘩が行える状況を作ることができた。
Zion社員と関わりが多いものが参加したが、魔法士の参加はほとんど見られなかった。
魔法士は、毎日担当する必要がある門が決まっており、魔法士の死はこの世界において付き物である。そのため、哀悼の気持ちはあるが現地まで行き送り出すことはできない寂しさである。
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