決勝戦
決勝の相手は、予測通りロジックとなった。
ロジックのメンバーは全員S級上位という、作戦のどうこうで勝利をつかむことは出来ないほどレベル差がある。彼ら全員が超攻撃型の魔法士軍団だった。
悠が本気で挑み、2人倒すのがやっとというレベルである。由香ですら互角に戦えたら良い方だ。Zionのメンバーは1v1では絶対に勝つことは出来ない。そのため、チームを組んで挑む必要があった。悠は、あっさり彼らが倒されるようなそんなに軟に育ててきてはいなかった。
負けることは確定していても不甲斐ない負け方をするより、メンバーの成長につなげたかった。今回の作戦は、自身で立てるのではなく皆に考えさせ、導き出してもらうように決めた。
「凜、作戦を立ててみろ。」
唐突に凜を名指しし、リーダーに指名した。
「私が作戦を立てるんですか?」
悠が直感で凛を指名したのには彼女の持っている計画実行力と、臨機応変に対応できる力があった。それは、魔法士の代表として最も必要な能力であり彼女にはその能力が存在する。
「そうだ、今回の大会で一番成長したお前の考えが知りたい。」
「分かりました。」
凜は、少々時間を貰い作戦を練っていた。
「相手は、S級上位しかいません。私たちの力では、まっとうに戦い勝てることはないでしょう。 私と悠さん。咲奈さん謙吾君由香さんのペア。 拓海さんは、両方の背後が取れる位置で待機。 私の能力を使い視界を奪います。その隙を使い拓海さんが攻撃を続けてください。他の者は、相手を倒すことを考えるのではなく自身が脱落しないように防御を固めてください。この作戦のカギは、拓海さんです。」
凜は、上手く作戦を考えていた。悠も色々考えていたがこの作戦が1番良いと思うようになってきた。
彼女のシナリオ通りに行けば、勝てずとも引き分けに持ち込める可能性を少し感じてしまった。
「いいだろう。 作戦はこの案で行く。凜この作戦において皆に伝えたいことは、これで全てか?」
「あとは、個人の動きを指導するだけなので大丈夫です。」
「了解した。じゃあ、解散」
決勝までの休憩時間は、1時間以上あり全員が心を休ませられるような状況だった。
悠も先の試合で疲労がたまっていたので、少しくつろぐことにした。人の目に着く場所では休めないと思い、裏影のような場所で、椅子を用意し少し休むことにした。
試合開始まで、4分というアナウンスが流れ、悠はとっさに起床した。
完全に寝てしまっていた。誰も起こしてくれず、一人取り残されていた。すでに、メンバーは会場内に入っており、悠は急いで荷物を整え、森に入っていった。
悠は、凜を探しに森を巡った。
試合開始1分前に凜を見つけることに成功し、凜の元にたどり着いた。
「すまんな、遅れて。」
「探しても見当たらなかったので、悠さんは先に会場に入っていると思っていました」
「俺は、何をすれば良い?」
「悠さんは、私の援護をお願いいたします。」
簡単な仕事だった。
「分かった。」
俺たちは、試合開始の合図があるまで、息を整え、心を落ち着かせていた。
「試合開始」
アナウンスと共に団体戦決勝戦がはじまった。会場の声援はこちらまで届くほどの盛り上がりを見せていた。お互い試合の始まりは静かで、仕掛ける様子がなかった。
「凜どうする?」
「こっそり様子を伺いに行きましょう。」
悠は、頷き凜の後をついて動くようにしていた。
相手を探すこと3分でロジックのメンバーの一人を見つけた。
あいつは、特殊能力者の飛行能力を持つ男。 風魔法でも空は飛べるが、持続時間は短いし、上空に行こうと思うと何度も風魔法の使用をしなければならない。ただ、飛行魔法は余り疲労がなく飛び続けることが出来る。高さ制限もないため、上空を制されるから戦いとしても指揮官としても多様なことが出来る。
あいつは、弓使いであり、上空から弓が飛んでくる。もともと弓道をやっていたため弓の腕も一流である。弓の方が長距離と短距離のバランスよく上空から撃つことが出来る。ただ、彼は、魔法で矢を造形し複数属性を使用できる。魔法で矢を作るから数の制限がない。ただ、魔力の矢も魔力を消費するからこそ、魔力切れを狙うのが手であった。
悠と凜は40メートル離れた場所に隠れており、まだ敵には見つかっていなかった。
「どうする?」
「私が、魔法でここら一体を煙で埋め尽くします。」
上空からの戦いだからこそ、地上が見えなくなったら彼は戦いにくくなる。
「戦うのか?」
「いいえ、 視界を奪うようにするだけで十分でしょう。」
悠は、煙が濃くなるまで待機をしていた。 相手は、違和感に気づいていたようだが、周囲全体を囲うように煙を発生させていたから、こちらの居場所は掴めないだろう。
ある程度煙が発生したところでもう一人ぐらいの動きを確認しておきたく、再度動き出した。 動いている最中も少しずつ凛に煙を発生させていた。 彼女の特殊能力の結構疲労度は少ないものだった。特殊能力は、魔力を必要としないため魔力量は関係ないが体力的な疲労は溜まっていく。悠は、永遠に死ぬことはないが50回近く再生したら気絶してしまうだろう。そういう制限が特殊能力には必ず存在する。そのため、自身の体力などを鑑みて動く必要がある。
森を進むこと再度ロジックのメンバーが一人でいることを確認した。2人を発見したが、こちらが攻めてくるのを待っている様子だった。
彼女は、ロジック3位の実力者の梓であった。 彼女は、魔法と近接戦闘が得意な、トールと同様のタイプだった。近接戦闘を行いながら魔法攻撃の同時並行を行うようにできるものは日本に3名ほどしかいない。トールが出来ることを知り、4名に増えた。ただ、彼女の近接格闘術は、トールのような単発魔法を大振りの攻撃ではなく、武道仕込みの格闘術に複数魔法の使用も可能である。近接魔法格闘術を使用する者の中で彼女がNo1の存在である。
正直、凜を庇うことが出来るかどうかが怪しいレベルである。1v1の形となれば長時間で倒すことは可能であるが、誰かを庇いながら相手をできるような存在ではない。
「悠さん、彼女を倒すことは出来ますか?」
「倒すことは可能だが、お前を守りながらだと厳しい。」
「誰か1人は倒しておきたい状況ですが、一旦引きましょう。」
悠と、凜はいったん彼らから離れた。作戦会議をするために、炎魔法を撃ちあげ集合の合図を上げた。
5分経ってもメンバーは誰も現れる様子がなかった。
これが意味することは、俺たち以外は脱落したか身動きが取れなくなっているかのどちらかであった。
大規模な魔法が使用された音は、一度も聞こえてこなかった。そう考えると、彼らが現状身動きを取れない可能性が大きかった。
そんなことを考えていると、大規模な爆発が遠くで発生した。
悠と凜はお互いに顔を見合わせ、爆発が起こった方向へ向かうことを決めた。
悠と凜が爆発の地に着いたときには、決着はついていた。
「悠、すまんね。 君たちのメンバーを2人倒し終わったところだよ。」
そこの場所にいたのは、ロジックのメンバー3名だった。 ロジック1位と2位と5位だった。ロジック1位 誠司 2位 百葉 5位 ロイ
見る限り由香が1人ギリギリ耐えている状態だった。ただ、咲奈と謙吾は結界魔法が発動しておりリタイアとなっていた。
咲奈と謙吾は、気絶をしてその場で倒れ込んでいた。
「悠さん、ごめんなさい。」
由香は、ボロボロの体で立っていることすら厳しい状態だった。彼女の脱落はそう遠くないだろう。この試合で由香は戦えないと理解した。
この状態では、明らかに分が悪かった。咲奈と謙吾が脱落したという事は、拓海の生存もかなり難しい状態だった。
「凜、煙を一気に発生させてくれ。」
悠は、退避することが大切だと判断した。拓海は、残っていて援護してくれると信じ、とりあえず疲弊している由香をこの場から連れ出すことが先決だった。
煙の発生をさせ、逃げ場を作った。
ただ、相手3人みすみす由香を逃してくれる訳がない。悠が、代わりに標的になるしかなかった。
「凜、由香を連れ出してくれ。」
彼女は、頷きこちらの意図を察してくれたようだった。
悠は、勢いよく3人の元へ走っていき、手に持っている魔法銃を撃った。
相手は、全員その場から数歩動き少しの隙が出来た。凜はその瞬間由香の元に行き、彼女を背負いその場から走って逃げようとした。
ただ、相手もそう簡単に逃してくれるわけは無く、魔法で凜の足を凍らせた。こちらにも拓海の援護があり相手の魔法を発動と同時に射抜いてくれた。そのお陰で、魔法が解除され由香と凜はその場を離れていった。 周囲は煙で何も見えず、敵も由香と凜を探すのは厳しかった。
ロジックのメンバーは本気で後追いする様子が伺えなかった。さらに、こちらの様子を伺っており攻撃を仕掛けようとしなかった。
「悠さん、やっとあなたに勝てる日が来ました。 今日あなたを倒します。」
柳は、薄気味悪い笑みを浮かべていた。
No1の実力は本物である。ただ、今までは同じロジックに所属だったからこそ、団体戦で相手になる事はなく1v1でしか戦ったことはない。公平な1v1で悠に勝てる存在はいないため、ロジックNo1の実力でも悠に1勝もしたことがなかった。
悠は、たった一人そこに残り彼らを追撃させないように全力をかけて、ここで食い止めることを決めた。
「そうか。 それならこっちも本気で行かせてもらう。」
悠は、自分が育って上げてきた弟子たちと戦うからか武者震いが起こっていた。心の底から勝ちたいという感情と早くあいつらの実力を知りたいという2つの感情が入り混じって湧き上がってきた。
悠は、腰に添えていた剣を2つ取り出し双剣の形をとった。攻撃を仕掛ける準備は完了していた。ただ、相手は3人いるため誰に攻撃を仕掛けるかが難しい点であった。
悠が一番相手をしなければならないメンバーは、日本No1の実力者でもある柳 誠司であった。
彼は、魔法攻撃も威力が高く武術の腕もかなり凄く、出来ない事がない完璧な男だった。例えるなら、以前戦った咲夜の上位互換にあたる。魔力量は咲夜の方が上だが、攻撃の練度、魔法の精度、魔法の威力は咲夜を上回る。それに、思考力が高くリーダーとしての才能も凄い。彼は、昨日の個人戦も優勝し名実ともに日本最強と呼ばれる存在であった。
2人目は、ロジックの2位の百葉。彼女は、念力を使うことが出来る。
自分の力が及ぶ範囲で物の状態を変化させることもできる。彼の念力は、力の無い物を手も使わず相手をひねり潰すことも可能である。ただ、力のある者には屈せずに堪えることが出来る。さらに念力の力は物を扱うこともできるので、手を使わずナイフを20本飛ばすなどのことも可能である。念力の力の有効性は幅広く、この国の特殊能力のなかで一番憧れられる能力である。
彼女の弱点としては、物が何もない場所だと力を発揮しにくい。今回のようなこの森は、葉っぱや木、土などを使ってくると容易に想定できる。
3人目は、ロジック5位の毒使いロイ。 彼の能力は、周囲に液体の毒を発生させるという強力な能力であった。また、ロイ自身は毒耐性があり、素手で攻撃してくるときに毒を発生させて、拳に毒が着いた状態で攻撃を繰り返す。彼の毒は強力であり、数滴触れるだけで相手が気絶するほどの強力さを持つ。彼の毒に多く触れてしまうと、死に至る危険性もある。
彼は、戦闘能力も高く、誰と戦っても近接戦は彼が圧倒的な優位を取れる。彼と戦う時は、遠距離の攻撃が良い。近距離で戦って拳を避けても、拳についている毒が不意についてしまう可能性が高い。
悠は、最初に柳を相手にすることに決めた。彼が本気で追いかければすぐに凛たちは捕まってしまう。さらに、この場で戦うとなった際も、魔法で後方支援をされるのが厄介だった。
悠は、剣に魔法を通し柳の方に向け走り込んでいった。ただ、百葉が念力で悠の全身を封じあげた。悠の動きを封じている隙を使い柳が魔法を唱え始めた。
「最上級氷魔法・・」
悠は、凍らされるのを感じ、全力で右手のみに力を注ぎ、持っていたナイフを振り投げた。
百葉は、全力で悠を抑えているので、避けることが出来なかった。
百葉に当たる直前で柳が簡単に防いでしまった。 ただ、百葉は驚きのあまり、少し念力を弱めてしまった。悠は、彼女の念力を解くことができた。そのまま柳に向け走り、もう一つの剣で柳に対し切りつけた。
ナイフを左右で入れ替えながら連続で攻撃を繰り出していった。柳は、体術の心得があるため、躱されることも多く、あまりダメージを与えられなかった。
悠の攻撃が柳に向いている隙を狙い、再度百葉は念力を使って悠を縛り上げようとしてきた。悠は、彼女の念力で徐々に縛られていったがギリギリ腰に仕込んでいた銃を取り出すことに成功した。悠は、百葉に向かって数発魔法銃を放った。
「おとなしくしておいてくれ。」
そう百葉に言い、連続で魔法銃を撃ちこんだ。ただ、ロイが魔法を使用し、彼女を守り切った。夕の魔法中で百葉を倒し切ることは出来なかった。
悠は十分に時間を稼ぐ事ができ、凛や由香は逃げ切れた頃であろう。自身もそろそろ逃げることを考えるべきであったが、戦いへの高揚感がこの場から退くということ頭から排除した。
「上級炎魔法 爆炎」
悠は、彼らに対して魔法を放った。
「土魔法 土壁」柳の魔法で完全に防がれてしまった。誰にもダメージを与える事ができなかった。
悠は地味だが魔法銃で攻撃を繰り返すことで相手の魔力切れを狙った。ただ相手は3人で掛かってきているので防御魔法、攻撃魔法を連携して攻撃をしてきた。
「氷魔法 絶対零度」
「風魔法 暴風」
悠は、ロイと柳の攻撃を上手く避け続けていた。
流石に、S級上位を3人も相手にすると、守備することに手を焼き、攻撃する隙が生まれなかった。
悠は、少し距離をとることにした。ただ、相手もこちらを自由にさせず、ロイはこちらに向かって突っ込んできた。
悠は、ロイとの近接格闘に移らざる得なく、上手く彼の攻撃を躱わしながら戦っていた。
彼の手には、毒が付着しているためロイの攻撃を拳で受けるのではなく、腕に当てて避けていた。ただ、悠の手にはロイの毒が付着し、激しい痛みを感じていた。
ただ、瞬間的に痛みは消えるので一時一時の我慢で耐えられるものだった。
悠は、反撃を重ねていたが柳と百葉は、こちらの近距離戦闘を邪魔する形で悠に複数の魔法が放たれていった。
もう再生している回数は、25を超えているだろう。再生がなかったら、25回は倒されていたことになる。
―はぁ はぁ
悠の体力にも限界が近づいてきていた。このまま戦ったらじり貧になるだろう。
悠は、最後の勝負に出た。
― う、お ―
今までやった事はないが全身に魔力を流し、全身から魔法を発動した。血管がはち切れそうなほどの痛みを感じていた。悠は、全身に炎魔法と雷魔法を纏い、ロイとの戦闘を再開した。
ここにきて、新たな戦闘のスタイルを悠は生み出すことになった。先ほど戦っていた、No2やトールの戦いと類似していた。ただ、悠は魔法を身に纏っているので戦いながら魔法を発動するスピードは必要なかった。常時発動している状態だった。
ただ、魔力を垂れ流しにしてしまう事や全身が破壊されていくことが欠点であった。普通の人間だと1秒と持つ事はないだろう。悠のみにしか使えないオリジナルの新技を作った。
悠は、雷魔法を使い相手に電気を流し、炎魔法を使用し相手の肌を焼いた。ロイは、防御しきれなく魔法を完全に食らってしまっていた。ロイ自身は、魔法耐性が強いわけではなく悠の魔法を食らい、完全に優位性を悠に取られてしまっていた。
悠は、かなりロイに体を近づけていた為、百葉と柳は援護出来ないでいた。ロイは、近接格闘術は悠より劣るため、悠の攻撃を何度も喰らってしまった。悠は、体が激痛に苛まれている為ロイの毒を感じる暇もなかった。
悠は、追撃を辞めず魔法を込めた拳でロイを数十回殴り飛ばし、そのまま気絶させることが出来た。
あとは2人を倒すことだった。悠は、百葉を倒す方が容易だと感じ百葉の方に突っ込みそのまま魔力を込めた拳で殴り飛ばそうかとした。ただ、柳は「中級炎魔法の火の玉」を発現し、そのまま悠に向かって放った。悠は、柳の攻撃を避ける事ができず、百葉に拳を入る前に倒されてしまった。百葉は、そのまま念力で悠のことを封じ込め、悠は再度身動きが取れなくなった。
柳は、そのまま魔法を複数放ち、悠が気絶するまで撃ち込んだ。
およそ20発魔法弾を悠に打ち込んだところで、悠は完全に動かなくなった。
百葉は、悠の敗北が分かり地面に下ろすことにした。悠は、そのまま地面に仰向けに倒れた。
悠は、彼らの方を見てニヤリと笑い自身の敗北を認めた。
「強くなったな。」
彼らにそう語り掛け、悠はそのまま気絶をしてしまった。悠の気絶と同時刻にアナウンスが流れた。
「試合終了―」
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