イベント準備
悠は、魔法競技祭の準備に向けて動いていた。 今いるS級とA級上位の中でZionを代表して戦ってくれる者たちを集める必要があった。さらに、勝ち上がるためには、あと3週間で個人の能力を高める必要があった。
魔法競技祭は、個人戦、団体戦の2つがトーナメント形式で行われる。個人戦は、ステージの上で400名前後が戦い、残った32名によるシードの1対1を行う。
ルールは、相手を死に至らしめる可能性がある魔法や技の禁止。そして、相手が負けを宣言した時点で試合終了となる。
違反した場合は重い罰金が課されてしまう。
今回参加するメンバーのS級は、悠 由香 咲奈 楓馬 謙吾 凛 隼人
A級メンバーは、 拓海 宗次郎 瞬 紬 奈緒 楓花 の中から選出して選ぶ事に決めた。これは、悠の独断でありまだまだ変更の余地はあった。
このメンバーは基本的なゲートの発生時以外の時間はトレーニングを行うことになる。
今日はS級メンバーとA級メンバーをミックスしての
6v6の戦いをいろいろ試しながら行っていく。
1回目は、Aチーム 悠 咲奈 凛 拓海 瞬 奈緒 のチームとなった。相手のBチームは 萌、隼人、由香、楓馬、健吾、紬となった。
Aチームは、代表である悠がリーダーとなり指示を出していった。まず彼らの得意分野ですら知らないから、適当な配置を行い適宜対応していくようにする必要があった。
今回は、特殊能力者(回復)を持つ者がいる。彼女は、協会員所属で回復魔法では治癒できない範囲外まで直すことが出来る。それは、死以外の部分である。ただし、傷を受けてから体が回復魔法で再生を始めようとする30分以内が制限である。彼女の力を持ってすれば、片腕を戻すことくらいは簡単だった。
悠は、今回は短剣を使用する。 ショットガンは死に至らせる可能性があるからだ。短剣では手加減ができ、即死は起こりにくい。
他の者は、咲奈が純粋な魔法のみ 凛が特殊能力持ち「煙」 拓海はスナイパー 瞬は、双剣 奈緒 は 基本的に魔法と剣両方の使用だった。
布陣として 前衛に悠 旬 奈緒
後衛に 凛 拓海 咲奈という形が良い。
練習試合とはいえ皆負けたくない気持ちが募っている。それは、この中から選出されたメンバーを連れて東京まで行くからである。メンバー入りをするのには、悠にアピールをすることが一番大切な事だった。
試合開始の合図とともに、始まった。
1戦目は、互いに均衡した試合になっていた。
基本的に、悠と旬で相手を掻き乱し拓実、咲奈が後方からに支援そして、凛と奈緒は前後衛の援護だった。
この試合は悠の近接格闘術と凛の特殊能力である「煙」が相手にダメージを大きく与えた。
凛の煙魔法は大規模では無いながらも周囲300メートルほどを煙で埋め尽くすことができた。その煙を使い悠が敵に近づくという布陣が出来ていた。
悠は、最初に隼人と楓馬を瞬殺で倒した。
そのまま謙吾に向け短刀を振り翳したが彼の硬化の能力で防がれてしまった。
さらに、謙吾の反撃の拳が悠に直撃した。 悠は、殴り飛ばされてしまった。悠が健吾を侮っていた結果だった。再度気合を入れ謙吾に向け走り込んだ。
由香は、状況が良く無いと思い悠に長距離戦の戦いを仕掛けた。複数魔法を悠に向け放ち、夕へのダメージを蓄積していった。
ただ、拓実は悠の援護に入り、狙撃で友香を攻撃していった。 由香は、狙撃のダメージはあまり受けていなかったが、近距離と長距離のトップレベル2人を相手にするのには、中々荷が重かった。
咲奈の魔法が相手に向け放たれた。咲奈は、上級魔法を使用しその範囲は周囲100メートル以上を一瞬で凍り尽くした。当然の如く悠もその場で凍らされてしまった。
ただ、氷は、身動きが取れないように足に絡みつくぐらいだったため、自身で魔法を発動し氷を溶かすことができた。
ただ、それは相手も同様に魔法を簡単に壊すことができていた。
ただ、咲奈の魔法は終わってはいなかった。「上級水魔法 水龍」「上級雷魔法 雷鳥」
咲奈は、氷魔法を最初に発動したのには理由があった。 相手が逃げにくくするために、氷の足場を作っていた。 そのまま、俺を含めた敵は彼女の水魔法をくらい、雷魔法で広範囲に漏電した雷で謙吾が脱落した。ただ、他の紬、由香、萌は自身の周りを魔法で囲み突然の攻撃を防ぐことができていた。
ただ、形勢は、6v3という形となり圧倒的に相手は不利な状況であった。
由香は、近距離で悠に近づいたときに、悠の反撃を食らってしまった。一瞬気を逸らした時にやられてしまう。そのため、由香が、自身の傷を確認している最中に悠の短刀による連続攻撃を受けてしまった。
由香は、反撃をしようと試みたところで時間制限となり1回戦目が終了となった。
1回戦目は、悠率いるAチームの勝利となった。
団体戦には制限時間が設けられているため、その時間内で生き残っている者が多い方が勝者となる。
1回戦目を終えて、由香の実力は一番高いことが分かった。他にも、咲奈は魔法力が高く頭の回転が良いためS級上位に入ってきても良い実力だった。凛の能力は、まだまだ改良の余地があると思った。今の状態では、風魔法を使用されたら意味がなくなってしまうため、他の有効性を見出す必要があった。
謙吾の能力の硬化は、中々面白い使い方ができる。魔法攻撃を受けることはあまり得意としていないが、物理攻撃は肌身で防いでいた。
拓海は、遠距離という珍しい役割であるからこそそこまで対策されていなく、自由にやれている感じがした。しかも、近距離でもある程度は対処できていた。元S級上位は伊達じゃない。
他の者達は、あまり大きな活躍をできた訳ではなかった。正直このレベルについて来られないならば、大会本番で恥をかくのは目に見えていた。
その後も、2戦目、3戦目、4戦目はメンバーを入れ替えて戦った。
4戦を戦ったところで、Zionメンバーの実力や戦い方などがある程度把握できた。
その日は、最後に個人戦の練習をする事にした。個人戦は、サバイバルで勝ち抜いた者が本選に進出できる仕組みである。個人戦出場しない悠を除く他メンバーで、この場でのサバイバル・バトルを行うことにした。
流石に、ここに居る全員でバトルを行うと、特殊能力者の2人が圧倒的に優位だった。
どこからでも攻撃を受け続ける環境のため、自分位置を分からなくする煙と、どこからの物理攻撃も防ぐ硬化はなかなかに優位だった。だが性格が悪い部分が出ているのか、強いからこそ先に倒すべき相手を理解しているのか、由香は最初から魔法攻撃で謙吾を狙っていた。
始まって早々脱落したのが、拓海だった。 流石に、スナイパーでは分が悪すぎた。個人戦にスナイパーラーフルを持っていく奴を初めてみた。
次が、楓花、奈緒、宗次郎と続き凛、瞬となった。
凜は、S級ながら魔法があまり得意ではないため、特殊能力をもっと強化する必要があった。彼女の煙の能力は、濃度が変えられる。ただ、密閉していないとそのまま風に流されてしまっていた。一番良い友好方法として、相手を結界魔法で閉じ込め、そこに煙を流し込み窒息させるのが一番良いと思った。それに、自分の居場所を見えなくするとしても結界張って煙が逃げていかないようにすることが重要だった。
楓馬、謙吾、紬、咲奈、由香の順で生き残った。
これは、楓馬、謙吾を順に由香が倒していったからであった。A級の中では、紬が一番長く残っていた。彼女は常に魔法を自分の周りに発動しており、誰も近づかせないようにしていた。魔法の技量はA級上位に値する物だった。
楓馬はかなり由香と戦うことが出来ていた。まだまだ、彼が成長する可能性を感じさせられた。魔法の発動のタイミングや近接格闘や空間把握能力は素晴らしいものだった。
ただ腑に落ちないところが一つだけあった。試合展開が拮抗している状況で、由香が多重の魔法を発動すると直ぐに楓馬は負けの宣言をしてしまった。彼の実力なら、由香に勝つことは出来なくとも、傷一つくらいは付けられそうだった。
練習試合とはいえ、少し簡単に彼が負けの宣言をしたのが意外だった。
最後まで勝ち筋がないことを読み切ったのか、あまり勝気が少なかったのかは分からないが、その真反対な二つは大きく彼の評価を変えることとなる。
最後まで残った咲奈と由香の試合は魔法攻撃の応酬だった。咲奈が上級魔法を得意としているので、由香は、発動まで時間のかかる上級魔法ではなく中級魔法を連発していた。
咲奈は、意外に戦えており由香の魔法攻撃を魔法で撃ち返すことで防いでいた。
これは、相手の魔法攻撃の軌道を読む技術が必要なのでかなり戦闘経験に長けていることを表していた。
ただ、由香の戦略は咲奈の魔法を凌駕していた。由香の中級魔法の連発スピードは早く、咲奈は魔法を防ぐ事で精一杯であった。そのため、力で押し切られてしまった。今は、結界魔法の用意ができていないため、結界魔法無しでの練習となっている。
基本的に、団体戦本番は結界魔法の使用が可能である。そしたら、咲奈の魔法がかなり効果的になってくるだろう。
結界魔法は、本人の能力により発動するものではなく、特殊な道具を魔法士に配られているため、その道具に魔力を通すことで発動できる。魔力の供給量で強さと規模が変わり魔法や物理技を防御できる優れものである。ただ、常に使用していると魔力消費も大きくなるため、相手の攻撃を喰らってしまう瞬間を狙うと良い。
ちなみに、モンスターは防御魔法を使うことはない。 結界魔法は、特殊魔法であるからだ。それを道具として生み出す事に成功し、魔法師は使用できている。
試合終了となり、悠は一番の疑問であった楓馬のところに寄った。
「楓馬、なんでそんな早くギブアップ宣言した?」
「・・」
少し楓馬の沈黙が続いていた。彼は、悠が真剣な眼差しで質問していることに気づき声を小さくしながら語り始めた。
「悠さん、僕は勝てない試合には挑みません。」
悠は、少しの間黙りこけ、深く考えていた。
「という事は、勝てない魔物の討伐時は真っ先に逃げるという事か?」
「勝てない敵がいるなら、そうなります。」
彼の言葉には、ここにいるメンバー達を驚かせた。
魔法士は、命を張る職業であるからこそ高い報酬が支払われる。 自分の命を大切にすることも大切だが、勝てるか分からない時に他の大勢の命を救うために自分の命を懸ける者が大勢の命を救えたりする。特に、S級のゲートになると様々な事態が起こりうる可能性がある。その際に、市民を置いて逃げるような奴は魔法士として失格の烙印を押されてもおかしくは無かった。
決して彼の考えも悪いわけではない。ただ、市民は戦う力がないからこそ自分たちに多額のお金を払い最後の望みとして自分たちに託している。Zionのメンバーが亡くなった事件もそうだが、彼らのお陰で助かった者たちがいることを忘れてはいけない。
「S級だか何だか知らねえけど、託されているんだから命かけろよ。」
宗次郎は、怒りをあらわにしていた。宗一郎がここまでの正義感を持っていると初めて知った。これは彼に対して好感が上がった。
「宗次郎、それは個人の自由だ。どう生きたいかは、好きにすれば良い。」
「ただ、楓馬。すまんが君をS級として認めることは出来なくなってしまった。S級は会社ごと人数が決まっているから、S級ゲートに行けない者をS級として扱う余裕はない。 A級以下に降格してもZionに居たいというのだったら、こちらは喜んで受け入れよう。」
楓馬は、少し暗い表情で涙を数的こぼしていた。
「僕は、今までの会社でS級として戦えないならここには必要ないと言われてきました。僕の考えを少しでも受け入れてくれる人がいるなんて思ってもいませんでした。悠さん、あなたの元で働かせてください。僕は、A級以下の降格でも構いません。」
彼は、最後には笑ってこちらを見つめていた。悠は、彼みたいな者たちが居ることは今まで知らなかった。これからは、一人一人としっかり向き合う必要があると再認識させられた。
彼のこの発言に不満を持っている者も多くいた。ただ、S級の実力者を野放しにしておく方が国としても勿体ない。
「お前の意思を受け入れよう。 楓馬をA級に降格。 今回の魔法競技祭には出さない。基本的にA級以下のゲート対応をしてもらう。」
「ここに居る者達に告げる、彼を不当に扱うことは俺が許さん。」
悠が初めてリーダーとしての人格を表した時だったのかもしれない。この悠の発言に誰も彼に対して否定的な心は持たなくなった。
面白ければ、高評価、ブックマークお願いします