デカいヤマの誘い
コレに関しては銃器の類は使わずに書いてみたいのよね
「3人を殺した後に1人を救うってどんな気分?」
黒衣とも言える全身を覆い隠す黒いローブに身を包んだ顔の無い。無貌の女の姿から問われると、マリィは紫煙と共に呆れ混じりに返す。
「すぅぅ……ふぅぅ……久しぶりにツラ見せたと思ったらくだらない事を聞くのね」
くだらない。
そう一蹴するかの様にマリィが吐き棄てれば、無貌の魔女は気にする事無く言う。
「あら?てっきり、自嘲するかと思ったのに」
意外そうにする無貌の魔女にマリィはまたも紫煙混じりに吐き棄てた。
「すぅぅ……ふぅぅ……アンタがどんな答えを期待してたのか?知ったこっちゃないし、どうでも良いけどさ……死人が生者を苛つかせんじゃねぇっての」
マリィが吐き棄てた通り、無貌の魔女は既に死んでいる存在。
一言で言うならば、マリィに取り憑く悪霊と言えた。
そんな己に取り憑く悪霊に対し、辛辣に吐き棄てたマリィに無貌の魔女は哀しそうに言う。
「酷い言い草ね。私って貴女の恩人な筈なのに……」
無貌の魔女の言葉に嘘は無かった。
今のマリィがあるのは、幼き頃から取り憑き続ける無貌の魔女があったからこそであった。
そんな恩人とも言える無貌の魔女にマリィはその点だけは素直に認めた。
「えぇ、今の私があるのは貴女のお陰よ。其処は変えようの無い事実よ。でも、恩人だからって不愉快な事を聞かれたら、不愉快に返すのが人間なのも当たり前よね?」
素直に認めた上で不愉快な事を聞くな。
そうハッキリと釘を刺せば、無貌の魔女は気にする事無く涼しい顔で返す。
「それもそうね」
「すぅぅ……ふぅぅ……それで?生前は色々とヤラかした凄い魔女様は私を苛つかせる為だけにツラ出しただけかしら?」
マリィが嫌味と紫煙混じりに要件を問えば、無貌の魔女は答える。
「貴女の手術が見事だったから褒めに来たのよ。後、ついでに煙草を吸いたくなった」
無貌の魔女がアッケラカンに要件を答えれば、マリィは益々呆れてしまう。
「煙草が吸いたいならそう言えし……」
マリィは呆れ混じりにそう言うと、咥え煙草のまま胸ポケットから煙草を1本抜き取るや無貌の魔女へと差し出した。
「ありがとう」
差し出された1本の煙草を感謝の言葉と共に受け取った無貌の魔女は口と思しき場所へ煙草を差し込むと、煙草の先に人差し指を翳して火を点す。
煙草に火が点れば、無貌の魔女は美味そうに煙草を燻らせて紫煙を吐き出していく。
「すぅぅ……ふぅぅ……死んだ後に吸っても煙草は美味いわね」
不健康極まりない言葉にマリィは嫌味をぶつけた。
「ソレが理由でくたばってたら笑ってやる」
マリィの嫌味に今度は無貌の魔女が呆れてしまう。
「魔女がそんな理由で死ぬわけないでしょ」
「だったら、凄腕で恐いモノ無しの魔女様は何でくたばったのよ?」
マリィから死の理由を問われると、無貌の魔女は紫煙と共に口元に微笑みを見せて答えた。
「すぅぅ……ふぅぅ……ソレは秘密。でも、私としては概ね満足な生だったし、こんな面白い体験も出来てるから気にしてないわ」
己の死を嘆かず、後悔も無い。
そう言い切った無貌の魔女にマリィは「ホントかよ?」そうボヤくと、無貌の魔女は言う。
「貴女も後悔しない様に生を謳歌し、愉しみなさい。人生は愉しんだもの勝ちよ」
「その点は認めるわ」
マリィがそう返すと、部屋の外から慌ただしい足音が近付いて来るのが聞こえて来た。
無貌の魔女は暢気に煙草を燻らせながらマリィに足音の主を教える。
「この足音はガルシアね」
「だと思った」
そう返しながら灰皿に短くなった煙草を押し付けると同時。
部屋の扉が乱暴に勢い良く開けられると、其処には自分やトレモアと同年代の剣を背負った軽装の青年がズカズカと入って来た。
「よぉ!マリィ!生きてて良かったぜ!」
喧しい青年にマリィは溜息混じりに返す。
「ハァァ……ノックして入りなさいよ。このボケナスが」
「いやぁ、悪い悪い。暫くお前さんが居なかったもんだからよ……ついな……」
申し訳無さそうに返した青年。
ガルシアは早速と言わんばかりに要件を切り出して来た。
「マリィ。俺とデカいヤマ踏んでくれねぇか?」
ガルシアの要件にマリィは益々呆れながら問う。
「デカいヤマが具体的に何か?言わなきゃ解らないんだけど?」
マリィの問いにガルシアは落ち着くと共に徐ろに1冊の古びた手帳を取り出すと、ソレを開いてマリィに見せながら言う。
「コイツを見てくれ!ある迷宮に関して書かれてる」
ガルシアの言う通り、ガルシアが見せた手帳には或る迷宮に関する内容が記されていた。
そんな手帳のページを見ると、マリィは更に尋ねる。
「それで?どの迷宮なの?」
「ベルデバルだ」
ベルデバル。
ソレは最近になって発見されたばかりの迷宮であり、未だに誰も踏破に成功してない未知なる迷宮でもあった。
そんな未知なる迷宮に関する事がガルシアの持つ古びた手帳に記されている。
そう聞いたマリィは訝しむと、思った事をそのまま口にしてしまう。
「何で未だ誰も踏破してない迷宮の事が記されてる手帳があるのよ?」
「半月前に古書店で投げ売りされてたのを俺が見付けたんだ。で、お前さんが居ない間にベルデバルに入った事ある奴等に聞いて回ったら、今の段階で探索済の階層の内容と手帳の内容が一致したんだ」
ガルシアが矢継ぎ早に手帳を手に入れた経緯と手帳の内容の信憑性がある事を語れば、マリィは考える。
そんなマリィを説得する様にガルシアは手帳を捲り、あるページを見せて言う。
「此処を見ろ。奥深くには見たことも無い程の金銀財宝があるって書いてある!」
その言葉を聞いたマリィはガルシアの見せたページに目を通していく。
ページに目を通し終えたのだろう。
マリィはガルシアにジト目を向けて言う。
「その金銀財宝をヤバいドラゴンが守護してるって書いてあるんだけど?イラスト付きで……」
マリィの言う通り、見せられたページには金銀財宝を守護するモンスターの事がイラスト付きで記されていた。
そんなマリィの言葉にガルシアは畳み掛ける様に矢継ぎ早に話す。
「あぁ、書いてあるな。でもよ、部屋一面の金銀財宝だぜ?危険を犯して挑む価値はあるだろ?な?やろうぜ?」
ガルシアの誘いにマリィは真剣に考える。
10秒ほど考えると、どうするか?決めたのだろう。
マリィはガルシアの誘いに答える。
「やるわ。ちょっと大金欲しかった所だし……」
「うっしゃ!お前なら乗ってくれると思ったぜ!」
デカいヤマを踏む誘いにマリィが乗ってくれた事にガルシアは喜ぶ。
だが、次に放たれたマリィの言葉でゲンナリとしてしまった。
「分け前は8対2。私が8で、アンタが2よ」
暴利過ぎる分け前要求にガルシアはゲンナリとしながらも反論する。
「ふざけんな!儲けは折半だろ!!?」
当然とも呼べるガルシアの反論に対し、マリィは淡々と告げる。
「アンタに先月貸した金貨20枚……未だ返して貰ってないし、利息も貰ってないんだけど?」
「このヤマの儲けでチャラにしろよ。デカいヤマ見付けてきたのは俺なんだからさぁ……」
先程と打って変わって情けない声と共に勘弁して欲しい事をガルシアが告げれば、マリィは淡々と容赦無く請求する
「今この場で利息合わせた金貨24枚を払えるんだったら、折半でも良いわよ」
「払えるんだったら、こうしてデカいヤマをお前に教えねぇんだわ……つーか、半年後には同じ学舎で 学ぶ事になる学友になるだろう相手に酷くね?」
ガルシアもマリィと同様に、この国の最高学府に入学する事になっていた。
本人は嫌がった。
だが、育ての親でもある恩師の勧めで入学がなし崩し的に決まり、結果的に学費を稼ぐ羽目になっていた。
そんなガルシアにマリィは恩情を与えた。
「仕方ないわね。6対4……ソレでアンタに貸した金貨、チャラにして良いわよ」
マリィの恩情にガルシアは益々ゲンナリとしながら嘆いてしまう。
「あぁ!クソ!コレだったら誘うんじゃなかった……」
「その間、請求しねぇでやるんだから文句言うんじゃねぇ」
マリィが容赦無く切り捨てると、ガルシアは「まぁ、8:2じゃないだけ良しとしとこ……」そう前向きに捉える様に自信に言い聞かせた。
そうして気を取り直したガルシアはマリィに手帳のページを見せながら語る。
「ベルデバルは手帳の内容通りなら、30階層で構成されていて、12階層までが現段階に於いて最高記録になってる」
「その12階層以降に進めない理由は?」
マリィが冒険者として問えば、ガルシアはページを捲ってその理由を見せながら答える。
「コレだ。12階層目には床が無く、あっても遠くに浮かんでいる物しか無いとある……コレはベルデバルを管区にしてる冒険者ギルド支部に足運んで確認したが、キッチリ記録にも残ってた」
手帳のページには12階層目のフロアに関して記されており、その内容はガルシアが語った通りのモノであった。
そんな内容にマリィは思った事をそのまま口にする。
「それなのに踏破した奴が居るの?ソイツ、本当に人間?」
マリィの疑問に今まで我関せず。
そう言わんばかりに沈黙と共に煙草を燻らせていた無貌の魔女はさも当然の様に言う。
「空を飛べる魔法なり、虚空に足場を作れる魔法が使える奴なら問題無く行けるわよ……てか、私は貴女に其れ等を教えてたと思うんだけど?」
無貌の魔女の言葉にマリィは納得するしか無かった。
しかし、何処か釈然としない様子でもあった。
「それはそうだけどさ……人間で其処まで高等なの使える奴が居るの?って疑問があるのよ。だって、今の普通の魔導に於いて空を飛ぶとか、足場を魔力で構築するってのは夢物語でしかない訳だし……」
この世界の魔導を無貌の魔女から学ぶ様に指導されていたからこそ、マリィは無貌の魔女がさも当然の様に言った事が出来るのか?疑問に感じていた。
そんなマリィの疑問に答える様にガルシアは手帳の最後のページを捲ると、其処に記された名前を指して見せながら言う。
「手帳の持ち主の名前を見てみ」
「手帳の持ち主の名前?えーと……アンジェラ、マクダウェ……ル」
手帳の持ち主であろう記された名前をマリィが戸惑った様子で読み上げて困惑すると、ガルシアは肯定する。
「そう。アンジェラ・マクダウェルだ」
ガルシアが肯定すると、否定して欲しい様子でマリィはオウム返しに確認する。
「あのアンジェラ・マクダウェル?」
「多分、そのアンジェラ・マクダウェルだ」
その確認にガルシアが改めて肯定すると、マリィは項垂れながら嘆いてしまう。
「何で、伝説の賞金首の名前が出るのよ!?」
アンジェラ・マクダウェル。
その名は数百年前から悪名を轟かせ続ける伝説の賞金首であった。
そんな超大物が手帳の持ち主なのか?
大いに困惑するマリィにガルシアは暢気に宣う。
「だとしても、伝説の賞金首にして真祖の吸血鬼様が俺達に福音を齎してくれたのは事実だろ?もしかしたら、守護してるドラゴンも殺しててくれてるかもしれんし……」
考えようによってはそう捉えても良いだろう。
莫大な財宝の手に入れ方を記したマニュアルを与えてくれた。
更に財宝を護るドラゴンも殺してくれている可能性もあるならば、そう言う意味で福音と言えるかもしれない。
だが、マリィは違った。
「財宝が全て持ってかれてる。その可能性の方が高く感じるんだけど?」
マリィは当然の様に考えられる可能性を呈した。
踏破した者。即ち、アンジェラ・マクダウェルが全ての財宝を運び出し、もぬけの殻にしている可能性を……
しかし、ガルシアは気にする事無くページを捲ると、そのページを見せながら言う。
「此処に記された言葉通りなら、財宝はあるさ」
「えー……"全ての財宝を運び出すのは私でも難しい。それ程までに金銀財宝が満ち溢れていた。それ故に私は私が持ち帰れる分だけを持ち帰る事にした。もし、この手帳を手に入れ、その記された言葉を信じる物好きが居るならば、残りの全てを物好きな者が得たまえ"……ね」
ページに記されていたアンジェラ・マクダウェルの言葉をマリィが読み上げると、ガルシアは改めて問うた。
「そう言う事だ。さて、改めてお前はどうする?俺はやるぞ」
ガルシアから改めて乗るか?反るか?問われたマリィは改めて答えた。
「やるわ」
「よっしゃ!」
喜ぶガルシアに対し、マリィは少しだけ申し訳無さそうに告げる。
「でも、悪いんだけどさ……急患の相手したし、デカいヤマ踏んで帰ってきた所でもあるから具体的な事に関しては明日からでも良い?」
申し訳無さそうにするマリィにガルシアは笑顔で認め、受け入れた。
「それじゃ、しゃーねーわな……良いぜ。具体的な打ち合わせと準備は明日からだ。俺も調べ回ってたから疲れてるし」
ガルシアはそう返すと、マリィに「また明日な」そう言い残して部屋を去った。
残されたマリィは何時の間にか無貌の魔女が姿を消して居た事に呆れると、2本目の煙草を咥えて火を点すのであった。