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タタキ《強盗》は問答無用で殺して良い


 血に染まって鉄錆臭い立つローブと黒の上下。

 それに革鎧と一対の篭手を綺麗に洗って己の保有するアパルトマンの屋上に干した後。

 下着の替えを含めた着替えを用意したマリィはラフな船の帆に用いられる生地で作られた藍色のズボンを履き、上は麻で作られた半袖のシャツに着替えると、腰には使い古された手斧を差してアパルトマンにある自室を後にしていた。

 バンリューの薄汚れた道を歩んで行くと、今はフリータイムであろう歳の近い娼婦がにこやかに声を掛けて来る。


 「あら?マリィじゃない」


 「ハイ。ウルスラ……仕事上がり?」


 マリィからウルスラと呼ばれた若い娼婦は辟易としながら肯定する。


 「えぇ……昨日はねちっこい客が居てウンザリだったわ」


 そんなウルスラにマリィは他人事の様に返した。


 「良いじゃん。贔屓にしてくれてるんでしょ?おカネを沢山落としてくれると思えばさ?」


 「確かにそうなんだけどね……それでもやっぱ、ウンザリするわよ。で?ここ最近は姿を見てなかったけど、何してたのよ?」


 ウルスラに何をしていたのか?尋ねられると、マリィは素っ気無く答える。


 「ヤマを踏んでたのよ」


 ヤマを踏んでいた。

 そう返されれば、ウルスラはボヤく様に言う。


 「そっちは景気良さそうね。私も冒険者(ハンター)になろうかしら?股開いておぜぜ(カネ)を稼ぐよりは楽そうだし……」


 少しだけ本気で言うウルスラに対し、マリィは呆れ混じりに返した。


 「私が言うのも何だけどさ、冒険者(ハンター)も大概クソよ?危険と見合うカネが常に稼げるとは限らないから生命が幾つ有ったって足りないし、迷宮(ダンジョン)内だとクソな同業から強姦された後に殺される危険すらあるし……」


 冒険者(ハンター)間にも絶対的に尊守すべき掟はある。

 その1つが迷宮(ダンジョン)内で同業に手を出すな……である。

 だが、中には掟を破って迷宮(ダンジョン)内で同業者である他の冒険者(ハンター)を襲い、身包みを剥いだり、異性ならば強姦する不届者が居る。

 身包みを剥がれた後は、口封じも兼ねて確実に殺される。

 死人に口なし……とは、よく言ったモノだ。

 そんな危険をマリィから聞かされれば、ウルスラはゲンナリとしながら思った事をそのまま口にしてしまう。


 「冒険者(ハンター)もやっぱ、碌でもないクソなのね」


 「でしょ?だったらさ、同じヤラれる(セックスする)でもキチンとカネ貰える方がマシじゃない?あ、一応言っておくけど極一部のクソがそう言う事をするんであって、大半の連中は掟を守ってるからね?」


 冒険者(ハンター)と言う人種を弁護する様に言うマリィにウルスラは呆れ混じりに言う。


 「そう言う事にしといてあげるわ。でも、貴女ならそう言う奴等を逆にブチ殺してるんでしょ?」


 ウルスラはマリィとは古い付き合いがある。

 それ故、マリィがそうした掟を破る不届者を殺してる。

 そんな確信を持って尋ねれば、マリィはアッケラカンに肯定した。


 「当たり前じゃない。掟を蔑ろにするクソはブチ殺して、有り金全部巻き上げても良いんだから殺らない理由が無いわ」


 アッケラカンに肯定し、いけしゃあしゃあと返り討ちにする事の正当性を語るマリィにウルスラは益々呆れる事しか出来なかった。

 

 「だと思った。まぁ、喧嘩っ早いアンタらしいけどね」


 「酷いわ。嘗められたらお終いだから、嘗められない様にキッチリ仕返しをしてるだけなのに……」


 バンリューの様なスラム街に限らず、人間や組織は周りに嘗められたら生活を成り立たせるのが難しくなる。

 ヤラれたらヤラれっぱなしにせず、キッチリと報復しなければ生きてく事すら出来なくなる。

 だからこそ、マリィは嘗めた真似をして来る奴をキッチリ縊り殺す。

 例えば、こんな具合に……


 「ようかわいい嬢ちゃん。俺達にカネ恵んでくれねぇか?偶には良いもん喰いてぇんだ」


 正面から来た手にナイフや棍棒を持ったガラの悪い3人のチンピラがヘラヘラと薄っぺらい笑みを浮かべ、マリィとウルスラに対してタタキ(強盗)をカマそうとして来た。

 そんな3人に対し、ウルスラは辞める様に頼み込む。


 「御願いだから辞めなさい。アンタ達……私は一応は店で働いてるから後で消されるわよ」


 娼館。または売春宿に属するウルティは売春宿に於いて立派な商品。

 そんな商品に対して商売抜きに手を出したりすれば、売春宿の背後に居るヤクザがケジメを付けに来る。

 それ故に辞めろ。

 そう、ウルスラが言えばチンピラ達は吐き捨てる。


 「は!ヤクザが恐くてタタキ(強盗)が出来るかよ!!」


 そんなチンピラ達へウルスラは憐れむ目を向けると、マリィは静かに右手を手斧へと伸ばして掴んだ。

 それから笑みを浮かべると、マリィの笑みを見たウルスラは溜息を漏らすと共に後ろへ下がった。

 まるで、コレから起こる事を知ってるかの様だった。

 マリィは笑顔のまま3人のチンピラへ歩み寄ると、先頭に立つリーダー格であろうチンピラの頭を容赦も躊躇いも無く振り上げていた手斧で振り下ろす。


 「な!?」


 唐突に獲物であった小娘から牙を向かれた。

 それどころか、目の前でリーダー格のチンピラのカチ割られて脳漿等をブチ撒けながらドサッと倒れた。

 そんな状況に驚き、チンピラ達は思考が追い付かずに硬直してしまう。

 マリィは間髪入れる事無く瞬時に2人目のチンピラの目と鼻の先に立つや、そのチンピラがナイフを握る右手首を掴んで横に軽く引っ張る。


 「え?」


 チンピラが間抜けな声と共に蹌踉めくと同時。

 マリィは既に振り上げていた手斧を躊躇う事無く勢い良く振り下ろし、首の付け根近くをザックリと切断。

 手斧で裂かれた頸動脈から血飛沫が勢い良く噴き上がれば、瞬時に頭を血塗れの手斧で躊躇う事無く叩き割る。

 そうして2人目のチンピラが無残な死体と化せば、3人目のチンピラは両足をガクガクと震わせながら歯をガチガチと鳴らしてしまう。

 そんな3人目のチンピラを侮蔑的に見つめるマリィはウンザリとした様子でボヤきを漏らす様に問うた。


 「雑魚ほど詰められた時の動きが(トロ)いし、仲間の死を目の当たりにしたら恐怖で動けなくなるのって何でかしら?」


 マリィの問いに対し、答えが与えられる事は無かった。

 最後の生き残ったチンピラはマリィに背を向け、脱兎の如く駆け出して逃げられたが故に。

 そんなチンピラの背を見詰めるマリィは大きな溜息を漏らすと、死臭染み付く血塗れの手斧を腰を捻りながら振り上げて投げた。

 投げられた手斧は勢い良く回転しながら吸い込まれる様に逃げるチンピラの後頭部へと飛び、見事に頭をカチ割ってチンピラはドサッと倒れて動かなくなる。

 3人のタタキ(強盗)を躊躇う事無く殺害したマリィは涼しい顔でウルスラの方を見る。


 「ねぇ?コイツ等って新顔かしら?」


 殺した後に尋ねるマリィにウルスラは呆れ混じりに返す。


 「アンタにタタキ(強盗)をカマすバカって滅多に居ないから新顔なんじゃないの?」


 バンリュー内でそれなりの年月を過ごしているなら、マリィを知らない者は居ない。

 無論、マリィにタタキ(強盗)をカマそうとする奴も居ない。

 何せ過去の話とは言え、ヤクザとしてシカリオ(テッポー弾)をしていたのだ。

 ヤクザに嘗めた真似をしたら、どうなるか?

 後でどんなエゲツない返し(報復)が齎されるか?

 地元民ならば、その恐怖を知るが故に決してマリィに手を出そうとはしない。

 今みたいに手斧で頭をカチ割られて殺されるのが目に見えてるが故に……

 そんな恐怖の代名詞とも言えるマリィは思い出した様にボヤく。


 「そう言えば、コイツ等って嘗めた事を言ってたわね……あの言い草を考えるなら流れて来たばっかの"お上りさん"って所かしら?」


 「どうでも良いわよ。もう死んでんだから」


 目の前で殺しが行われても平然とするウルスラが面倒臭そうに漏らせば、マリィは「それもそうね」と、返して死臭と血の臭いのする手斧を死体の纏う服で拭き始めた。

 手斧を拭き終えたマリィは腰に手斧を刺すと、胸ポケットにしまっていた煙草を1本抜き取って咥えながらウルスラに「どうする?」そう問えば、ウルスラは質問で返す。


 「アンタはどうすんのよ?どーせ、ヤマ踏んだ後だからテルマエ(公衆浴場)に行くんでしょ?」


 「うん。此処ずっと風呂に入ってなかったから臭くて気持ち悪いのよね」


 「なら、私も一緒に行くわよ。仕事明けの風呂気持ち良いし……」


 そう返したマリィは煙草の先を指先から灯した仄かな火で炙りながら提案する。


 「すぅぅ……ふぅぅ……だったら、私と一緒に行かない?私が居れば、バカが嘗めた真似して来る事は無いわよ」


 マリィから紫煙と共に誘われれば、ウルスラが断る事は無かった。


 「アンタが一緒ってほど安全なのは無いわね。アンタ殺って名を挙げようとするバカが来なければだけど」


 マリィはこの界隈では名が売れてる。

 それ故、マリィを殺して名を挙げようとするバカも過去には居た。

 だが……


 「あ、大丈夫。そう言うのは抜ける前に皆殺しにしたから」


 ヤクザを抜ける前にそう言う連中を軒並み殺した。

 ソレをサラッと言ってのけるマリィの言葉をウルスラが疑う事は無かった。

 こう言う暴力絡みでマリィは嘘を吐いた事は無い。

 それ以前に、幼き頃からマリィの暴力を目の当たりにして来た。

 それ故、ウルスラは呆れてしまう。


 「カタギの言い草じゃないわね」


 「すぅぅ……ふぅぅ……元ヤクザだからね。仕方ないわ」


 マリィは紫煙と共に返すと、ウルスラと共に3つの死体が転がるその場を悠々と後にする。

 2人が立ち去ると、残された3つの死体には何人かのバンリューの住民が歩み寄り始めた。

 それから程無くして、住民達は死体を漁って服や靴を剥ぎ取っていく。

 程無くして3つの死体から住民達が離れると共に3つの死体が裸となれば、3つの死体は用済みと言わんばかりに放置された。

 そして、最後にはハエやカラスがポツポツと群がり始める。

 ソレは路上に転がる死体を焼く行政の連中に使われる穢多非人の様な者達が回収するまでの間、群がり続けるのであった。




バンリューの治安はクソ

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