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40 ジークムントの騎士の誓い 上

 皇宮に戻る馬車の中で、私は久しぶりに皇帝と二人きりになった。

 何を話そうかと考えていると、エッカルト皇帝が思い出したように口を開く。

「カティア、君が古代遺跡に入り込んだのは、鉱山で宝石拾いをしている最中だと聞いた。十分な宝石が拾えなかったのであれば、私の方で用意しよう」


 未だ私の片腕は包帯でぐるぐる巻きにされていたため、私自身で宝石を拾うのは難しいと判断されたようだ。

 確かに鉱山では小さな宝石を一つ拾っただけで、早々に古代遺跡に迷い込んでしまった。

 けれど、古代遺跡で魔女の使用人たちからピンク色の宝石をたくさんもらったことを思い出し、十分だわと首を横に振った。

「いいえ、十分な宝石を収集できたので大丈夫です」

「……そうか。何か困ったことがあったら、私に言いなさい」


 皇帝が最後に付け足した一言を聞いて、私はふっと小さく微笑む。

「どうした?」

「いえ、優しい言葉をかけてもらったわ、と嬉しくなっただけです。陛下がお優しいので、私たちは仲のいい夫婦になれそうですね」


 忘れていたけど、私はエッカルト皇帝と仲良し大作戦を決行中だったわ、と笑みを浮かべる。

 すると、皇帝は少し考えた後、ぽつりと同意した。

「そうかもしれないな」



 その日の夜、眠ろうとしたところで、窓越しに遠くの部屋がびかびかと光ったのが見えた。

 一体何かしらと眺めていたけれど、その部屋はびかびかと光り続けている。

 気になったので、私は夜着の上からきっちり厚手のガウンを着用すると、自室から廊下に出て、光が見えた方向に歩いていった。


 獣人族は個人の自由を大切にする種族だからなのか、それとも皇宮に危険はないと自信があるのか、廊下を守る兵士たちは私を見ても後を付いてこなかった。

 そのため、一人でペタペタとスリッパの音を立てながら廊下を歩く。


 部屋の窓から見えた光の方向を計算し、ここだと思う部屋の扉を開くと、中から誰何の声が上がった。

「誰だ!」


 まさか人がいるとは思わなかったため、私はびっくりして謝罪する。

「その声はジークムントかしら? ごめんなさい。東翼の部屋は使われていないと聞いていたから、誰もいないと思ったの」


 発せられた声がジークムントのものに聞こえたため、当てずっぽうで名前を呼んだところ、実際に上半身裸のジークムントが驚いた様子で部屋の奥から走ってきた。

「お姫様、どうされました?」


「い、いえ」

 どうかしたのは上半身裸のジークムントじゃないかしらと思ったけれど、エッカルト皇帝が上半身裸で眠っていたことを思い出し、もしかして獣人族は半裸で眠る習慣があるのかしらと、言いかけた言葉を呑み込む。


 というか、どう見てもジークムントはこの部屋で眠ろうとしていたようだから、邪魔をしたのは私だわ。

「こちら東翼の部屋は使われていないと聞いていたのに明かりが見えたから、何事かしらと見に来たの」


 ジークムントは顔をしかめた。

「危険があるかもしれないと思ったのに、自ら飛び込んできたのですか? お姫様、母国では誰もお姫様の無鉄砲な行動を注意しなかったんですか」


 母国では誰もが私を最強だと思っていたから、注意されることなんてまずなかったわね。

 そう思ったけれど、私は脆弱な人間族を演じている最中だったため、曖昧な笑みを浮かべてごまかす。

「ほら、暗闇の中で見る光は特別で、魅力的なのよ。昆虫だって、よく光に魅かれて寄ってくるじゃない」


「『飛んで火にいる夏の虫』というやつですか。それであれば、『明るさに誘われてきた虫が、火の中に飛び込んで焼け死んでしまう』という話ですよね。またとんでもないたとえを持ち出してきましたね」


 ああー、確かにたとえが悪かったわ。

 よし、ジークムントを褒めることではぐらかしてしまおう。

「ジークムントったら、難しい言葉を知っているのね」

「お姫様はオレのことを生粋の阿呆だと思っていますよね」


 じとりとした目で見つめられたため、無害そうな笑みを浮かべる。

「まさかそんな。というか、ジークムントは灯りを点けて眠るのね。それに、いつもと違う部屋で眠ろうとするなんて、気分転換かしら」


 ジークムントはなぜそんなことを尋ねてきたのだと訝し気な顔をしたけれど、律儀に答えてくれた。

「オレは昨日まで領地に戻っていましたよね。そのため、しばらくは皇宮に戻らないだろうと侍女たちに判断されて、専用の部屋を大掃除されている最中なんです。数日間は使用できないということだったので、今夜はこの部屋を借りたんです」


「そうなのね」

 納得して頷いていると、ジークムントは少しだけ開いている扉の先で、びかびかと光っている部屋の灯りに視線を向けた。


「それから、灯りですが……この部屋の灯りは消えないんです」

「そんなことがあるものかしら?」

 消えない灯りというのがあるのかしら、と不思議に思ったところで、ああ、と言葉を続ける。

「そうだったわ、この部屋の灯りは消すのに少しコツがいるのよね」


 私はジークムントの許可を取って部屋に入ると、灯りに顔を近付けた。

「あー、確かにこの部屋に慣れていない人には、ここの灯りを消すのは難しいでしょうね」

 灯りに顔を近付け過ぎて眩しくなったため、私は目を細めながら作業する。


「この灯りはねじの締め具合が難しいの。締めすぎても緩め過ぎてもいけないから、なかなか大変なのよね。限界まで緩めてから……2回半締めると……ほら消えたわ」


「すっげえですね!」

 ジークムントが驚きで目を丸くしたので、ふふんと胸を張った。

「そうでしょう! ……と言いたいところだけど、大袈裟だわ。灯りが消えただけじゃない」


 たいした話じゃないわと苦笑したけれど、ジークムントは真顔のまま大きく頷く。

「いや、本当にすっげえです。お姫様以外、誰もその明かりを消せる者はいませんよ。ここは、先代魔女が時々使っていた部屋なんです。そして、……聞いたことがあります。魔女は個人が獲得した情報を、種として次世代に継承することが可能だと。そんな夢のような話があるもんかと思っていましたが、目の当たりにしたことで、事実だと理解しました」


「いや、そんなものすごい話じゃないから。私はただ灯りを消しただけで、大したことはしていないわ」

 そう答えたものの、確かに私はどうして特別なテクニックがいる灯りの消し方を知っていたのかしら、と不思議に思う。


 小首を傾げていると、ジークムントが首を横に振った。

「大した内容じゃないからこそ、種として継承した情報だと信じられるんですよ。こんなどうでもいいこと、わざわざ200年前の魔女が口伝なり文書なりで、他の誰かに伝えようとするはずがありませんから」

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