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34 魔女の植物 1

 エッカルト皇帝の決断により、その日から数日間、私は狼城で絶対安静にして過ごすことになった。

 その間、皇帝やルッツ、ジークムントも狼城に滞在し、私の体調回復を待って、全員で皇宮に戻ることで話がまとまる。


 新たな古代遺跡が発見されたというのは大事件らしく、エッカルト皇帝が狼領に留まる間は、皇帝が自ら遺跡探索の陣頭指揮を執ることになった。

 というよりも、皇帝は自ら古代遺跡に潜って色々と探りたがったけれど、至尊なる皇帝に何かあってはいけないと大反対され、望みが叶わなかったという経緯がある。

 代わりに、皇帝直属軍の精鋭部隊による先兵隊が組織され、古代遺跡の探索が始まった。


 皇帝は毎日、探索隊の活動報告をそわそわしながら待っているらしい。

 魔女を崇拝しているエッカルト皇帝らしい行動だ。


 ちなみに、私の希望的観測通り、ジークムントは私が魔女であることを黙秘してくれていた。

 そのため、私は地下遺跡で魔女の使用人から怪我をさせられた怪我人として、注目を集めることなく過ごすことができた。


 注目されないのをいいことに、逆に周りの人たちを観察していて気付いたのだけれど、エッカルト皇帝の影響力は大したものだった。

 彼がいるだけで、いつだってその場の雰囲気が一変するのだ。


 それは、私に無礼な口をきいていた前公爵夫妻も例外ではないようで、夫妻は借りてきた猫のようにおとなしくなり、皇帝の言葉に「はい」か「イエス」とだけ言う、全肯定人間に変わってしまった。


「ジークムントと前公爵夫妻の関係改善を、エッカルト陛下に丸投げした私は正しかったわ」

 エッカルト皇帝が狼領を訪問するのは初めてらしく、前公爵夫妻は皇帝がジークムントに接する場面を見たことがなかったらしい。

 そのため、皇帝がジークムントを信頼し、尊重する姿を見て、夫妻はジークムントを見直したようなのだ。

『偉大なるエッカルト皇帝陛下が尊重するのであれば、ジークムントは立派な人物に違いない』と。


 前公爵夫妻がジークムントを実の息子だと認めたわけではないけれど、明らかに以前よりも丁寧に、思いやりをもって接している。

 親子関係の証明ができない以上、これが限界だろうし、ジークムントも嬉しそうだから十分よね、と私は皇帝の手腕に感心した。


 エッカルト皇帝は一度も狼領主の親子関係に問題があると言ったわけではないし、関係を改善しろと命じたわけでもない。

 自然にそうなるよう誘導して成功し、その結果、前公爵夫妻だけでなく、狼一族の全てがジークムントを尊重し始めたのだ。


 誰もが『偉大なるエッカルト皇帝が』と受け入れたのは、皇帝が常日頃から、皆の尊敬と憧憬を集めていたからこそだろう。

 本当に立派な為政者だわ。

 ザルデイン帝国の国民たちは、エッカルト皇帝を戴くことができて幸せね。


 そんな風に皇帝の素晴らしさを再確認していると、あっという間に狼領を発つ日になった。

 数時間後には皇宮に戻っているのね、とベッドの上で狼領での最後の時間を楽しんでいると、ノックの音に続いて、見たこともない使用人が3人入ってきた。

 彼らは一様に揃いのお仕着せを着用し、男女の違いはあるものの、全員が同じ顔をしていた。


 初めて見た顔だというのに、彼らが発する魔力から、皆が誰なのかが分かってしまう。

「……魔女の使用人?」


 小首を傾げて尋ねると、彼らは嬉しそうな笑みを浮かべた。

「はい、魔女様! その通りです!!」

「お気付きいただきありがとうございます!!」


 その時、たまたまジークムントが私の部屋に入ってきたのだけれど、魔女の使用人たちを見てぎょっとしたように目を見開く。

 それから、彼はすぐに私のもとまで走ってくると、庇うように前に立ちふさがった。

「お前たちは一体何者で、どこから入ってきた!? お姫様に何の用だ!!」


 彼らは魔女の使用人なので、元々魔女の一族に仕えていたはずだ。

 そうであれば、魔女である私に対して敵意はないだろうし、同じように私の仲間であるジークムントにも敵意はないだろう。


 そう考えた私は間違っていなかったようで、魔女の使用人たちはジークムントの質問に素直に答える。

「「「向こうにある塀から入ってきた」」」


 魔女の使用人たちが指差したのは、狼領が誇る立派な高塀だったため、ジークムントは動揺した様子で再び質問した。

「は? どうやって侵入したんだ? あの塀はお前たちの身長の3倍はあるし、庭には大勢の見張りがいる。この部屋だって、城の中の一番奥まったところにあるから、辿り着くこと自体が難しいはずだ」


「あれしきの塀、ジャンプすれば飛び越えられる」

「庭にいた見張りも隙ばかりだったから、侵入するのは簡単だ」

「魔女様のもとに辿り着くことなんて、ちっとも難しくない」


 ジークムントは苦虫を噛み潰したような顔で、魔女の使用人たちを見つめる。

 悔しそうな声を漏らしながら私を見たことから、ジークムントは、初めて狼城を見た時に私と交わした会話を思い出したようだった。


『攻め入るのが難しそうなお城ね』

『攻め入るのが難しそうですって? 馬鹿言っちゃ困ります! この城は代々、狼一族が受け継いできたもので、難攻不落ですよ! 攻め入るのは不可能だ、と言い直してください!!』

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