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29 最弱虚弱な人間族(に意外と優しい? エッカルト皇帝)

 体が熱い。


 ああ、熱が上がってきたみたいねと考えながら、私は久しぶりの火照りと倦怠感に身をよじった。

 というか、暑くて我慢できなかったので、体にかけてあったブランケットをとおっ! と蹴って、遠くにはねのけた。


「カティア」

 その途端、ほとんど眠っていた私を強制的に目覚めさせるような美声が響く。

 反射的に目を開けると、絵画の中から抜け出てきたような美貌の主がベッドの縁に腰かけていた。


 まあ、こんな美形はエッカルト皇帝しか知らないけど、彼がこんな風に私の名前を呼ぶはずはないから夢ね。

 そう思っていると、皇帝の手が伸びてきて、慎重な手付きで私の額に触れた。

 エッカルト皇帝からふわりとものすごくいい香りが漂ってきて、夢なのにどうして触れられた感触や香りがするのかしらと不思議になる。


 うーん、これはまずいわね。これまでどれほど大怪我をしても、夢と現実がごっちゃになることはなかったのに、今日はごっちゃになっているわよ。

 思ったよりも腕の怪我が酷くて、意識が混濁しているのかしら。


 眉根を寄せて考えていると、エッカルト皇帝が覆いかぶさるように私の上に体を倒してきた。

 それから、至近距離でじっと私を見つめてくる。


 まあ、美形は近くで見ても美形なのねと感心していると、不思議なことにエッカルト皇帝の黒い瞳に金の斑点が混じり始めた。

 それはとても神秘的な光景だったため、魅入られたように見つめていると、いつの間にか彼の瞳が金色に変わってしまう。

「……お星さまみたいできれいね」


 ぽつりと呟くと、エッカルト皇帝は驚いたように目を見張った。

「星だと?」


 そうね、瞳を見て星にたとえるなんておかしなことよね。

 そう思いながら、ぼんやりと皇帝を見ていると、イケメンを目の当たりにしたことで興奮したのか、さらに体温が上がったかのようにぽかぽかしてくる。


 私の顔が赤くなったことに気付いたエッカルト皇帝は、もう一度私の額に触れると、ため息をついた。

「はあ、これでも変化なしか。というよりも、さらに熱が上がったようじゃないか。君はどれだけ虚弱なんだ」


 わざわざ言われなくても分かっているわ。私が虚弱なことについては、母国の騎士たち全員の折り紙付きよ。

 そう考えていると、皇帝が言い聞かせるような声を出した。

「君に回復魔法が効かないことは、ルッツが実地で確認済みだ。あの後、医師を呼んで処置をさせたが、全治1か月とのことだ。縫合して数時間が経過したから、そろそろ痛み止めを飲んだ方がいい」


 まあ、夢の中だというのに、エッカルト皇帝は事細かに説明してくれるのね、と感心しながら右腕を見下ろすと、包帯でぐるぐる巻きにされていた。

 意識したことで痛みがぶり返したのか、ずきんずきんと鈍い痛みを感じ始める。

 腕を見つめたままでいると、皇帝が確認するかのように尋ねてきた。

「薬を飲むんだ。体を起こせるか?」


 もちろん、体を起こすことはできるけど、起こしたくないわ。面倒だからこのまま横になっていたいのよね、とぼんやり皇帝を見つめると、彼は何を思ったのか、サイドテーブルの上に載っていた薬の瓶らしきものを手に取った。

 それから、躊躇うことなく瓶の中身を口に含むと、体を傾けてきて私の唇に彼のそれを付ける。


「えっ?」

 いくら夢でも衝撃的過ぎるわ、と思わず声を出すと、開いた口の隙間からとろりとした液体が入り込んできた。


「んぐっ」

 想像とは違って、飲まされた薬が苦かったため、皇帝から離れようとしたけれど、絶妙に抑え込まれていて動くことができない。

 そのため、私は怨めしそうに皇帝を見つめたまま、ごくりと薬を飲み込んだ。


 私が薬を嚥下したことを確認すると、エッカルト皇帝は体を離す。

 それから、もう一度サイドテーブルに手を伸ばすと、色とりどりのキャンディーが詰められた瓶を手に取った。

「このキャンディーは色ごとに味が異なるが、君はどれが好みかな?」


 瓶の中のキャンディーは、オレンジにグレープ、ストロベリーと様々な味があって、どれを食べようかと選ぶことが楽しみではあった。

 けれど、エッカルト皇帝にとっては味の違いなどどうでもいいことだろう。

 少なくとも大帝国の皇帝が興味を持つようなことではないわと思ったけれど、エッカルト皇帝は私の表情を見ながら、私が食べたいキャンディーを的確に選ぶと、私の口元まで運んでくれた。


「なるほど、私の未来の妃はストロベリーをお望みか」

 口にした赤いキャンディーは甘く、口の中の苦みを消し去ってくれた。


 先ほど飲んだ薬の影響か、それとも元々眠っていたところを目覚めたからか、とろりと瞼が下がってくる。

 うとうとしかけたところで、エッカルト皇帝が跳ねのけていたブランケットを被せてきたため、暑いわ、と私はもう一度、ブランケットを蹴り飛ばした。


「カティア、……君は見かけによらずお転婆だな」

 エッカルト皇帝の呆れたような声が降ってきたかと思ったら、もう一度ブランケットを掛けられ、さらには何かが私の隣に横たわった後、その一部が腰に巻き付いてきた。


 まあ、ブランケットを跳ねのけることができないように重しを乗せられたわ。

 頭では、隣に横たわったのはエッカルト皇帝で、私の腰に巻き付いているのは皇帝の腕だと理解しており、どうして皇帝がこんなことをするのかしらと疑問が浮かんだけれど、夢の中だから細かいことまで気にしなくてもいいわよねと思考を放棄する。


 ああ、でも、エッカルト皇帝の素敵な香りを嗅いでいると落ち着くわね。

 ブランケットが体にかかっていたため、暑くはあったけれど、心地よい香りのおかげなのか、もはや蹴ってはねのけたいと思わなかった。


 そのため、私はそのまま眠りについたのだけど……その夜、なぜか私の夢の中に、幼い皇帝が現れたのだった。

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