表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/47

26 狼公爵領の古代遺跡 4

「ひ、姫君? どちらですか!?」


 私の姿を見失ったジークムントの焦った声が、隣室から聞こえる。

「ここよ、隣の部屋にいるわ」


 声をかけると、ジークムントはどかどかと足音荒く小部屋に入ってきた。

「姫君、お水です! 不思議なことに、廊下で行き合わせた魔女の使用人が、オレに水入りのグラスをくれたんです……ぎゃー!!」


 ジークムントは大事そうにグラスを差し出してきたけれど、私と目が合った途端、大声を上げてグラスを床に落とした。


 その途端、グラスは粉々に砕け、中の水が四方八方に飛び散る。

 けれど、ジークムントはグラスが割れたことにも気付かない様子で、目を丸くして私を見ていた。


「ジークムント?」

 微動だにせず立ち尽くす彼を見て、息をしているのか心配になり名前を呼ぶと、まるで乙女のように膝をくっつけてぺたりと床に座り込む。

 そこはたった今ジークムントが零した水でべちょべちょに濡れていたけれど、彼は気にする様子もなく、頬を染めて私を見上げた。


「ま、魔女様……」

 ああ、やっぱり、私は魔女に見えるみたいね。


「ええと、ジークムント」

 なぜか分からないけど、私の瞳の色は変わってしまった。

 この大陸では、ピンク色の髪に赤い瞳を持つ者を魔女と言うらしいから、私は魔女になってしまったのかしらと尋ねるより早く、ジークムントが確信を持って発言する。


「な、何てことだ! お姫様は魔女だったんですね! あああ、これまでの無礼を死んでお詫びします!!」

 本気で言っているように聞こえたため、私はぎょっとして大きな声を上げた。


「えっ、止めてちょうだい! 冗談でもそんなことを言ってはいけないわ」

「冗談ではないので言わせてください! そして、実行させてください!!」

「ますます悪いわ。お願いだから、もう二度とそんなこと言わないでね」

「うぐっ、ま、魔女のお願い! 何と言う強制力だ!! はい、分かりました! 魔女のご命令であれば、全て従います! 二度と言いません!!」


 ジークムントの素直過ぎる言葉を聞いて、何だか面倒なことになりそうだわと思った私は、話を変えようと彼の背後を指差す。

「ジークムント、あなたの後ろに魔女の使用人がいっぱいいるわ」


 私が発言した通り、リスだけでなく、猫やうさぎまでもが扉から顔を覗かせると、二足歩行でひょこひょこと歩きながら近付いてきた。

 ただし、先ほどまでと異なり、全ての魔女の使用人から殺気が失われているようだ。

 もちろんジークムントが一切身構えていないことから、彼もそのことに気付いているのだろう。


「どうやら私たちを攻撃する気はなくなったようね」

 ジークムントは酷い怪我をしているから、これ以上争わなくて済むのならよかったわと笑みを浮かべると、彼は当然だとばかりに大きく頷いた。


「もちろん、攻撃なんてされるはずがありません! だって、お姫様は魔女だったんですよ! 魔女の使用人たちが長年待ち続けてきた魔女が復活したんです!! 大歓迎する以外に、何をしろというんですか!!」


「そ、そうなのかしら……」

 ジークムントの勢いに怯んでしまい、考えるかのように片手を頬に当てたところで、彼が顔を引きつらせる。

「ひっ! お、お姫様、腕から大量出血しています! 何てことだ、先ほどの怪我はそんなに深かったんですか!!」


 どうやら手を上げたため、腕の怪我がジークムントの目に入ってしまったようだ。

「ジークムントの怪我に比べたら、大したことないわ。あなたが医師を呼ぶのであれば、ついでに私も診てもらいたいのだけど、いいかしら?」


「ダ、ダメです! お姫様は今すぐ、誰よりも早く手当てをしなければいけません!!」

 ジークムントはそう言うと、テーブルの上にかかっていた洒落たクロスを手に取り、私の体にぐるぐると巻き付けた。


「えっ?」

 何をする気かしらと、されるがままになっていると、ジークムントは「失礼します」と言って私を抱き上げ、扉に向かった。


「ジ、ジークムント、下ろしてちょうだい! 大した傷ではないから、自分で歩けるわ。あなたの方が酷い傷を負っているのだから、私を抱き上げたら傷が開いてしまうわ」

 当然のことを言ったというのに、ジークムントはじわりと目に涙を浮かべる。


「ううう、オレのような不心得者の心配までしてくれるなんて、お姫様は女神か! いや、魔女だった。さすがは全ての者に祝福を与えるご存在だ、何と慈悲深い」

 ジークムントは大袈裟なことを言うと、ぼろぼろと男泣きに泣き出したので、私は渋い顔をする。


 まずいわね。もしも私が魔女だとバレたら……と想像した全ての悪い予想が、現実になってしまったじゃないの。

 ジークムントは口が悪いから、これまで散々悪口を言われていたのに、手のひらを返しておべんちゃらを言い始めたわよ。

 さらには、魔女が現れたと歓喜されているし、猫なで声でしゃべりかけられているし、崇め奉られているわ。


 ああー、私はジークムントの見たくなかった姿を全て見ているわね。

 いくら彼がチョロいにしても、酷過ぎるんじゃないかしら。

 

 私は渋い表情をすると、感激した様子でぼろぼろと泣き続けるジークムントを見上げたのだった。


いつも読んでいただきありがとうございます!

本作品は今年中に完結予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★Xやっています
★作品公式Xです

ノベル発売中です!
ノベル1巻
「【SIDEヒューバート】手放した運命の幸福を願う」を書下ろしました。
カティアを帝国に嫁がせた際、彼女の母国と元婚約者は何を思っていたのか……アンサー編です。

漫画試し読み
イラスト担当のセレンさんによる試し読み漫画です

どうぞよろしくお願いします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ