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25 狼公爵領の古代遺跡 3

「ひゃあっ、怖っ! こ、こんな可愛い姿をしているのに、にまりと凶悪に笑ったわよ!!」

 恐ろしさを共有しようとジークムントに訴えたけれど、彼は返事をすることなく、真っ青な顔で見つめてきただけだった。


 それから、口を開いたかと思ったら、自分が言いたいことだけを口にする。

「ひ……姫君……い、今の魔法は一体何ですか? オレはこんなすごい魔法、これまで一度も見たことがありません!!」

 いや、氷魔法は不得意なので、褒められても恥ずかしいだけだわ。


「ええと、今の魔法は大したことなかったわ。恥ずかしいから褒めないでちょうだい」

 正直な心情を口にしたというのに、ジークムントは何か閃いた様子で目を見開いた。


「これほどの魔法を大したことないって……はっ! なるほど、これが人間族の謙遜か!! 恐らく、大陸でも五本の指に入る魔法だろうに何てことだ!!」


 や、もうホントに止めてちょうだい。ジークムントは何か閃いた表情を浮かべているけど、何も閃いていないからね。

 そんな私の心の声が届くはずもなく、ジークムントは感心した様子で拍手をした。

「姫君はものすごい魔法使いだったんですね! 『破滅の魔女』……確かに冠された称号に負けない、最高の魔法使いです!!」


 ジークムントが手放しで褒めてきたため、私は恥ずかしくなって俯く。

 ああ、そう言えば、獣人族は強い者を尊ぶ一族だって本で読んだわね。

 もしかしたらジークムントは一切魔法が使えないから、魔法の強弱の判断ができないんじゃないかしら。

 だから、これっぽっちの魔法をすごいものだと誤認しているのだわ……と思ったところで、ぐらりと体が傾く。


「お、お姫様!?」

 慌てた様子でジークムントが走り寄ってきたけれど、私にも何が起こったのか分からない。


 腕に傷を負ったけれど、命にかかわるようなものではないはずだ。

 これっぽっちの魔法を使っただけで魔力切れを起こすはずもないし、なぜ体がふらふらするのかしら。


 ジークムントは私を長椅子の上に座らせると、慌てて部屋を出ていこうとした。

「み、水を探してきます!」


「ジークムント、あなたは酷い怪我をしているのだから、動いては……」

 ジークムントを止めようと、よろよろと立ち上がったけれど、既に彼は扉から飛び出してしまっていた。


 困ったわ、と壁に手をついたところで、その壁がぱたりと倒れる。

「えっ、隠し部屋?」


 壁を触っただけで新たな部屋が現れるなんて、何て雑な造りかしら。

 興味を引かれて覗いてみると、そこは小さな部屋で、室内には鏡台が置かれているだけだった。


 見たところ普通の鏡台だけど、どうしてわざわざ隠してあったのかしらと不思議に思い、ふらふらしながら近づいてみる。

 何か面白いものでも映るのかしら、と覗いてみたところ、もちんそんなことはなく、ただ私自身が映り込んだだけだった。けれど……。


「えっ、赤い瞳?」

 私は鏡に映った自分の姿をまじまじと見つめた。

 驚くべきことに、青いはずの私の瞳が赤色に見える。というか、私の瞳は完全に赤い色に変わっていた。


「嘘でしょう? ピンクの髪に赤い瞳だなんて……最上位種の『魔女』じゃないの!」

 なぜか分からないけど、何度見返しても、私の瞳は赤色に変色していて、薄暗い部屋の中できらきらと輝いている。


 赤い瞳を見たことで、この国に来てから散々聞かされた魔女についての言い伝えが頭に浮かんだ。

『「魔女」はピンク色の髪に赤い瞳を持つ「はじまりの種族」で、全てに祝福を与える存在なり』


 それから、私の脳裏に、いつだって私を馬鹿にする、帝国皇帝の側近である『八聖公家』の当主たちの声が蘇ってきた。

『魔女はオレたちにとって、神聖で不可侵なるご存在だ! オレたちが今ここにあるのは、全て魔女のおかげだからな!!』

『魔女は最古の種族であり、始まりの種族なのです。その御恩は僕たちの血と肉に刻み込まれています』


 さらに、私の婚約者であるエッカルト皇帝の声が。

『私は生まれた瞬間から、魔女に心臓を捧げている。彼女が死ねと言ったら死ぬし、彼女が現れたら全てを捧げるだろう』


「待って、待って! 帝国の全員から敵視されている私が、その復活を希われている魔女だなんて悪い冗談よね? だって、私の瞳は青のはずなのに。ああー、でも、どこからどう見ても赤い瞳だわ。いつの間に変化したのかしら。ううう、どうしよう、バレたら全員から跪かれるのかしら」


 嫌だ、嫌だ。

 あれほど毎日、顔を合わせるたびに嫌味を言ってくる連中が、ころっと手のひらを返しておべんちゃらを言い始めるなんて、考えただけで耐えられないわ。


 皆だって、今さら私を崇め奉るなんて屈辱でしょうし。

 それとも、魔女が現れたと歓喜するのかしら。

 あー、普段の魔女への傾倒具合を考えたら、歓喜しそうよね。


「ううう、いつだって私を蔑んでくる公爵たちが、猫なで声でしゃべってくる姿なんて見たくないわ」

 そもそも、彼らのそんな姿を想像することができない。


「下手したら、私のことを嫌っている皇帝ですら、私に執着して愛を囁いてくるのかしら」


 いや、さすがにそれはないわよね。

 あれだけ私を嫌っているのだから、今さらそんな恥ずかしい真似はできないはずよ。

 それとも、屈辱的な気持ちを抑え込んで、私に愛を囁くのかしら。

 思わず私の前に跪く皇帝の姿を想像してしまい、顔が真っ赤になる。


「ぎゃあ、これは想像してはいけないやつだったわ!」

 そうだった、皇帝は類を見ないほどのイケメンなのだ。

 あれほどのイケメンが私に触れ、切なそうに言い寄ってきたとしたら、私の心臓がもたないわ。


 私はふるふると大きく首を振ると、頭の中からイケメン皇帝の姿を追い出す。

 それから、大きなため息をついた。


「はあ、どうしてこんなことになったのかしら?」

 そう言いながら、鏡台の前にある椅子に座ったところで、ジークムントが戻ってきた。


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