23 狼公爵領の古代遺跡 1
「言いたかないですけど、お姫様は箱入りの王女様なんです! 発言の全てが、夢見がちで幻想混じりなんです! 遊びでは済みませんから、古代遺跡で陛下の探し物を探そうとしないでください!!」
真剣な表情で言い募るジークムントを前に、私は頭を抱えた。
ああー、繊細でか弱い令嬢を装おうとしたことが裏目に出たわね。
やっぱり私は私のままでいるべきだわ。ずっとおとなしくしていることは我慢できないみたいだから。
「ジークムントの言うことはもっともだけど、古代遺跡はエッカルト陛下にとって大切な場所だから、こんな機会でもない限り、私は二度と入らせてもらえないはずよ。だから、滅多にないチャンスを逃すつもりはないわ。忘れているようだけど、私は『破滅の魔女』の称号を冠する、最強の魔法使いなのよ」
ジークムントは苛立たし気に顔を歪めた。
恐らく、彼はどうにかして私を守ろうとしているのに、私がちっとも言うことを聞かないからイライラしているのだろう。
「人間族のままごと遊びなど、ザルデイン帝国では通用しないんですよ!」
腹立たし気に吐き捨てるジークムントに対し、私はにこやかな笑みを浮かべる。
「じゃあ、出口を探すついでに、エッカルト陛下の探し物を見つけるくらいはいいわよね? 私が勝手にすることだから、あなたに落ち度はないわ。ほら、いけ好かない人間族を痛い目に遭わせるチャンスよ」
ジークムントはぷいと顔をそむけた。
「……もういけ好かない相手だとは思っていません。たとえそうだとしても、女性を積極的に傷付けることはしません」
うーん、ジークムントはこんな性格で、よく粗野なタイプを演じようと思ったわね。
無理があり過ぎるんじゃないかしら。
呆れてじとりと見つめたところ、ジークムントは頬を赤らめながら歩き出した。
そのため、私も後に続く。
しばらくはまっすぐな廊下が続き、左右にちらほらと何らかの部屋に続く扉らしきものが見えたけれど、ジークムントは全ての扉を無視していた。
「エッカルト陛下の探し物がこの遺跡で見つかるといいわね」
私は下手なことを言わないようにと気を付けながら、探索を諦めていないことを匂わせる。
すると、私の言葉がジークムントの何かに触れたようで、彼は顔を歪ませた。
「皇宮の地下にある古代遺跡のものは、だいたい取り尽くしてしまったので、最近の陛下は体調が悪そうですから」
それは私も感じていた。
エッカルト皇帝は私のことを敵だと思っているから、決して弱みを見せようとしないけれど、時々乱れる呼吸や、不自然に滲む汗から、どこか体調が悪いのだろうと思っていた。
この話の流れで、ジークムントが皇帝の体調を話題にしたということは、古代遺跡の探し物が皇帝の体調改善に役に立つということだろう。
「つまり、この古代遺跡は発見されたばかりで手つかずだから、エッカルト陛下の体調を改善させるアイテムが眠っている可能性が高いということね?」
「……そうですが、皇帝陛下は今すぐどうにかなりそうなほどではありません。今日のところは、お姫様を無事に地上に連れて行くのがオレの役目です」
うーん、ジークムントは本当に騎士道精神に溢れているわね。
でも、彼がエッカルト皇帝を大好きなことも分かっているわ。
私は片手を頬に当てると、従順そうな表情を作る。
「病める時も健やかなる時も、支え合うのが本物の夫婦だと思うのよね。たとえ陛下が今すぐどうにかなるわけではないとしても、少しでも苦しんでほしくはないわ」
「…………」
ジークムントが迷う様子を見せたため、もう一押しだと言葉を重ねる。
「実のところ、エッカルト陛下は時々、とても苦しそうにしているのよ。多分、あなたの前では強がっていて、そんな姿を見せないでしょうけど」
実際には、エッカルト皇帝は私の前でも弱っている姿を見せないけど、これくらい言わないとジークムントは決断しないでしょうね、と大袈裟に言ってみる。
すると、ジークムントは泣きそうな表情を浮かべた。
「オレは陛下のためなら何でもします! 姫君はオレの一族を見たから理解できるでしょうが、当主を交代する際、オレはチェンジリングだから、傍系に当たる従兄を公爵に据えようという動きがあったんです。けれど、エッカルト陛下が『次の当主はジークムントだ』と言い切って、狼一族を説得してくれたんです」
皇帝を唯一の王と戴いてはいるものの、獣人族は各種族の自治を大事にしていると本で読んだ。
だから、エッカルト皇帝の行動は、通常の行動から逸脱しているのじゃないかしら、と考えた私は間違っていなかったようで、ジークムントが説明を続ける。
「通常、皇帝陛下が他の一族の当主争いに口出しすることはありません。いらぬ軋轢を生みますから。しかし、陛下はそのリスクを分かっていながら、オレを指名してくれました。その恩を、オレは決して忘れません」
ジークムントは実直なタイプだから、受けた恩義を絶対に忘れないのね。
そして、確かにエッカルト皇帝も、ジークムントに慕われるような立派な行動をしているわ。
「ご存じの通り、皇帝陛下は定期的に魔女に関するものを体内に取り入れないと、健康を保っていられません」
ジークムントが何気なく口にした言葉は、驚くような内容だったため、思わず立ち止まると目を丸くする。
すると、私の表情を見たジークムントが訝し気な表情を浮かべた。
「どうしてそんな表情をするんですか?」






