22 鉱山での宝石拾い 5
そこは細長い通路らしき場所で、足元には綺麗な色の石畳が整然と敷き詰められていた。
天井は高く、通路幅も広く、等間隔で飾り柱が設置されている。
それらを目にした途端、ジークムントは緊張した様子で息を呑んだ。
「姫君、オレはこの場所を知っています! ここは廊下で、等間隔にランプが設置されていますよね。オレはあのランプを見たことがあるんです!」
「……そうなのね」
ジークムントが指さした先には、飾り柱からぶら下がった洒落たランプがあったのだけど、そのランプはピンク色のガラスで覆われていた。
その色を見たことで、私にもここがどこだか分かった気になる。
果たしてジークムントは、私が想像した通りの言葉を口にした。
「王都の皇宮の下にある古代遺跡です! ここは古代遺跡と同じ造りをしています!!」
「……でも、私たちは鉱山からまっすぐ下に落ちたわよね。だから、ここが皇宮の地下のはずないわ」
転移門をくぐった感覚は一切しなかったのだから、私たちが今いるのは狼領のはずだ。
私の言葉を聞いたジークムントは、さらなる緊張で顔を強張らせた。
「……その通りです。何てことだ! もしかしたらオレたちは、新たな古代遺跡を発見したのかもしれません!!」
それはあり得ることねと思いながら、私は彼に自分の発言を思い出させる。
「ジークムント、あなたは言ったわよね。『古代遺跡があるのは力がある場所ばかりですから、その上に重要な建物を建てるんです』って」
「言いましたが……」
ジークムントは同意しかけた後、私が何を言おうとしているかに思い至ったようで、ぴたりと口を噤んだ。
けれど、私は口を噤むことなく、思ったことを声に出す。
「ここは狼城の真下という話だったわよね。偉大なる狼公爵が住む城なのだから、その地下に古代遺跡があったとしても不思議はないわ」
ジークムントは真っ青になって震え始めた。
「いや、しかし、『八聖公家』に名を連ねてはいますが、狼一族は序列No.7です。我が国ではこれまで、古代遺跡は2つしか見つかっていないのに」
ということは、皇宮の地下の他に、もう一つ古代遺跡があるのねと考えていると、ジークムントは突然、我に返った様子で声を上げた。
「い、いや、それよりも!」
ジークムントは青ざめた顔のまま、きょろきょろと周りを見回す。
「ここが古代遺跡であれば、魔女の使用人がいるはずです! 彼らは躊躇なく侵入者を攻撃してきますから、使用人たちと遭遇する前に出口を探さなければなりません」
「そうね」
返事をしたことで、先日、エッカルト皇帝が魔女の使用人に攻撃され、額から血を流していた姿を思い出す。
実際にエッカルト皇帝が戦った姿を見たことはないけれど、立ち姿や体付きから判断するに、彼は相当強いと思う。
そんな皇帝に怪我をさせることができた魔女の使用人は、やっぱり強いのだろう。
「だからと言って、魔女の使用人を攻撃し返したら、本格的にエッカルト陛下から嫌われるのでしょうね」
穏やかに話をしてくれるものの、彼が心の底では私を嫌っているのは分かっている。
私の兄のように嫌いな者を嫌いと感情のまま表明するのではなく、エッカルト皇帝は嫌いな相手の喉元に噛みつく最も効果的なタイミングを狙って、表面上穏やかに接することができるタイプなのだ。
「彼は最も気を付けなければいけない種類の人間ね」
ぼそりと呟くと、ジークムントが私を後ろに庇うようにしながら、注意喚起を促した。
「お姫様、先ほどから勇ましいことを言われていますが、決して魔女の使用人を攻撃しようなんて思わないでくださいね! そんな細い腕じゃ、何のダメージも与えられませんから。あああ、それよりもヒールを引っ掛けて転ばないでくださいよ」
まあ、どうやら私はお荷物と思われているようだわ。自分の身くらい自分で守れるし、せっかく古代遺跡に来たのだから、何なりと役に立ちたいわよね。
先日、怪我をしたエッカルト皇帝に遭遇した時からずっと、疑問に思っていたことがある。
それは、皇帝は古代遺跡で何をしていたのかしら、ということだ。
ジークムントは皇帝の行動を『見回り』だと言っていたけど、公爵たちに任せることなく、皇帝が自ら危険な遺跡を見回っていた理由は何なのかしら。
これまでの彼の行動から判断すると、帝国に関することではなく、皇帝自身に関する何かが古代遺跡にある、と考えるのが自然よね。
私は心の中でジークムントに謝罪しながら、鎌をかける。
「せっかくだから、ここで『皇帝陛下の探し物』を探すのはどうかしら?」
「えっ、どうしてそれを!」
驚いた様子のジークムントを見て、やっぱり皇帝の探し物が古代遺跡にあるようねと確信する。
エッカルト皇帝と円満な結婚生活を送るためには、今の嫌われたままの状態でいるのは辛いから、どうにか関係を改善したいと思っていたのよね。
そして、古今東西、相手の機嫌をよくするアイテムは、相手がほしがっている贈り物だわ。
だから、あわよくばこの古代遺跡でエッカルト皇帝の探し物を探して贈りたいけれど、そのためにはジークムントを説得しないといけないわね。
「魔女の使用人は危険と言うけど、ほら、私はピンク色の髪をしているでしょう? 案外、彼らは私のことを魔女だと思って、攻撃してこないかもしれないわ」
ジークムントはものすごく呆れた顔をした。
「それはあり得ません! 何たって数百年もの間、魔女を慕って古代遺跡に住み続ける者たちです。髪色だけで騙されるはずがありません!!」