21 鉱山での宝石拾い 4
手のひらの上に乗せた宝石を、私はじっと見つめた。
ほんのわずかだけど、この宝石は魔素を発しているわね。
この魔素と同じものを検知することで、新たな宝石を見つけることはできるかしら。
ジークムントの一族が事前に宝石を拾ってしまったため、空っぽになった洞窟の中、私は魔素の気配を探っていく。
……うーん、近くにはないようね。
「この辺りの宝石は拾われてしまったみたいだから、もっと奥に行きましょうか」
ジークムントに提案すると、彼は不賛同を示すかのように顔をしかめた。
「確かに、一族の拾い残しがあるとしたら、鉱山の奥になるはずです。しかし、この鉱山は広く、道が何本にも分かれています。あまり奥に入り過ぎると、迷う恐れがあります」
「大丈夫よ、私は地理に強いの」
どんと胸を叩くと、疑うような表情で見つめられる。
「いや、お姫様がこの鉱山に来たのは初めてですよね。迷宮のようになっている坑道で、迷わずにいるのは至難の業です」
食い下がってくるジークムントを前に、ここで帰るわけにはいかないわ、と自信あり気に胸を張る。
「サファライヌ神聖王国には8つの迷宮があったし、何度も入ったけど、一度も迷わなかったわ!」
だから、大丈夫よと笑みを浮かべたところ、ジークムントは両手で顔を覆ってため息をついた。
「それは、姫君に付き従った騎士たちが有能だったということでしょう。……いえ、分かりました! これは王国騎士とオレの勝負ですね! 彼らにできて、オレにできないはずがありません!!」
なぜか突然、ジークムントの勝負魂に火がついたようで、彼は灯り石を高く持つと、ずんずんと先に立って歩き始めた。
そんな彼の姿を、私は呆れて見つめる。
いえ、そうじゃなくて、魔法で道に印を付けるから迷うことはない、と言いたかったんだけど、……まあ、いいわ。ジークムントがやる気みたいだから、任せましょう。
私はカツカツとヒールの音を響かせながら、ジークムントの後に付いていったのだった。
しかしながら、黙々と歩き続けた結果、辿り着いたのは行き止まりだった。
目の前は全て、厚い岩で塞がれている。
「あ、あれ、道を間違えたかな?」
じとりとした目でジークムントを見つめると、彼は慌てた様子でポケットから鉱山内の地図を取り出した。
それから、ああでもないこうでもないとぶつぶつ呟いていたと思ったら、顔を上げて所在なさ気に頭をかく。
「すみません、道を一本間違えたようです。どうやら『不壊の壁』に出てしまいました」
「『不壊の壁』?」
私は目の前を塞ぐ壁に視線をやった。
「ええ、ここは狼城の地下近辺にあたります。この辺りには質が違う、硬い岩盤ばかりが埋まっているようで、堅くて壊すことができないんです。昆虫もここの岩は食べませんし、八方ふさがりなので、この場所は放置してあるんです」
「そうなのね」
壊すこともできず、昆虫も食べないという岩が気になって、私は目の前の壁に両手を伸ばす。
それから、『不壊の壁』にぴたりと体ごとくっつけたところ、岩の何かが私と共鳴したような感覚を覚えた。
「あら?」
「どうかしましたか?」
ジークムントが近付いてきたところで、壁に預けていた体がぐらりと傾く。
「えっ!?」
なぜか硬いはずの岩に体がめり込んでいくわ……と思った瞬間、まるで大きな波でも来たかのように、寄り掛かっていた壁と足元の地面がぐにゃりと歪んだ。
驚いて目を丸くすると、足元にぽっかりと穴が開くのが見える。
「お姫様!」
ジークムントは驚愕した様子で叫ぶと、ものすごい跳躍力で私のもとまでジャンプしてきて、まるで荷物であるかのように軽々と私を抱き込んだ。
私の視界はジークムントの体に塞がれ、何が起こっているのかを把握するのが遅れたけれど、浮遊感を覚えたことから、先ほど見た穴に落ちたことに気付く。
できるだけ体を小さくしていると、数瞬の後に地面に着地したような衝撃が体に走った。
同時に、ジークムントが私の顔を覗き込んできて、焦ったような声で尋ねる。
「大丈夫ですか、お姫様!?」
一番に私の無事を確認する騎士道精神と、私を抱えたまま着地したにもかかわらず、ぴんぴんしている身体能力の高さは称賛に値するわ。
私は目を瞬かせると、大丈夫よと頷いた。
「ええ、あなたのおかげで、怪我一つしなかったわ。ありがとう」
感謝を込めてそう言うと、ジークムントは安心した様子で、私を地面に下ろした。
それから、ここはどこかしら、と2人できょろきょろと辺りを見回したのだった。






