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20 鉱山での宝石拾い 3

 ピチュイ、ピチュイと小鳥が鳴く。


 私はさっと体を屈めると、目を皿のようにして地面を見つめた。

 後ろを歩くジークムントが、手に持った灯り石で辺り一面を照らしてくれる。

「お姫様、この鉱山では様々な色の宝石が採れます。そのため、明らかに好みでなければ、そのまま捨て置いてもらって構いません。しかし、もしよろしければ、いったん全ての宝石を持ち帰り、時間をかけてお好みの宝石を選ばれることをお勧めします」


 確かに、この薄暗い中で宝石の色を正確に読み取るのは難しいから、いったん全ての宝石を持ち帰った方がよさそうね。

 ジークムントの言葉に納得して頷いていると、彼は少し考えた後に言葉を付け足した。

「あの、オレでよければ、宝石を選ぶのをお手伝いしますよ。いや、やっぱりオレはセンスがよくないのでダメですね! オレには色彩感覚に長けた知り合いがいるので、その者を紹介します」


 多分、ジークムントは朝食時に彼の母親が言った言葉を思い浮かべているのだろう。

『宝石を拾うという習慣も、種族によっては残酷なものかもしれないわね。特に人間族は目がよくないと聞いているから、宝石の深い色合いを見極められずに、組み合わせが悪いものばかりを拾ってくるんじゃないかしら。大事なのは、全体の調和なのにね』


 前公爵夫人は結局のところ、センスが大事と言いたかったのよね。

 私はそう悪い趣味ではないと思うけど、特別よくもないのよね……と思いながら首を傾げる。

「でも、ウェディングドレスに合わせる宝石は、花嫁自身が選ばなければいけないんじゃないの?」


 他の人の力を借りていいのかしら、と疑問に思って尋ねたところ、ジークムントは肩を竦めた。

「建前上はそうなっていますが、実際にはテーラーや宝石商に宝石の選定を頼む者が多いんです」


 なるほど、よくある貴族あるある話ねと思ったけれど、もちろんルール通りにやっているご令嬢だっているはずだ。

 そうであれば、皆の規範となるべき未来の皇妃がズルをしてはいけないわ。

「教えてくれてありがとう。でも、私は自分で選ぼうと思うの」


 やんわりとジークムントの提案を断ると、彼は顔を曇らせた。

 どうやら心配されたようなので、彼ら獣人族が好む言葉に置き換えてみる。

「宝石拾いと言うのは一種の勝負よね! そして、私はこれまで一度も勝負から逃げたことがないの」


 獣人族は好戦的らしいから、こう言えば私の気持ちを受け入れてくれるんじゃないかしら。

 そう思ったけれど、ジークムントは納得できない様子で首を傾げた。

「そうなんですか? お姫様は()()()()()()勝負を買うようなタイプには見えませんよ」


「えっ。……そうね、積極的に買ったことは、あまりないかもしれないわね。でも、売られた勝負は、いつだって言い値で買っているわ」

 そうおとなしいばかりでもないのよ、と言ってみたのだけれど、ジークムントは顔をしかめた。


「そこがダメなんですよ! 言い値なんてもってのほかです! 基本は無料で、それが無理ならできるだけ安値で買い叩かないと」

 ジークムントは公爵家当主らしからぬことを言うと、私の足元に視線を定めた。

 何かしらと彼の視線を追うと、きらきらと石が輝いていた。

「あっ、宝石!」


 先ほどから小鳥が鳴いていたけれど、こんなところに宝石が落ちていたのね、と手を伸ばして拾う。

 灯り石の光に近付け、まじまじと眺めると、それは金色に輝く小さな宝石だった。

「やったわ! 初めて見つけた宝石だから、記念に取っておこうかしら。1時間で1個だなんて、なかなか見つからないものなのね」


 ジークムントは1か月近くの間、煙を焚く以外の目的で、この鉱山には人が立ち入っていないと言っていた。

 そのため、たくさんの宝石が落ちていると思い込んでいたけれど、1時間歩いて入手した宝石は1個だった。

 これが標準なのかしらね、と思いながらジークムントを見上げると、彼は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。


「いえ、この数の少なさは異常です。今朝早くに鉱山に立ち入り、宝石を拾い集めたのではないか、と疑いたくなるくらい少ないです」


「さすがにそれは」

 ジークムントが仄めかしていることに思い至り、言葉を紡げないでいると、彼はきっぱりと言い切った。


「ええ、オレの一族の仕業だと思います!」

 ジークムントは落ち込んだ様子を見せたけれど、もちろん彼のせいではない。


 宝石拾いの話を聞いた時、エッカルト皇帝は宝石がほとんど落ちていない鉱山を案内させ、『未来の妃が拾えたのはこの程度の宝石でしかなかった』と、私に恥をかかせるつもりかしらと疑った。

 皇帝が何かするかもしれないと考えたのは杞憂だったけれど、予想した悪い未来は事実になりそうだ。


 私はほうっとため息をつくと、「困ったわね」と思わずつぶやいた。

「拾われてしまったものは仕方がないわ。私は一週間ほど狼領に滞在する予定だから、その間に、昆虫たちが新たな宝石を発掘することを祈っておきましょう」


 私に叱責されると考え、身構えていたジークムントは、ぽかんとした様子で尋ねてきた。

「えっ、それだけですか?」


 彼の驚いた顔を見て、ああ、確かに祈るだけというのは他力本願過ぎるわよね、とできることを付け足す。

「狼一族の拾い残しがあるかもしれないから、これから鉱山内を探すことにしましょう」


 本来、鉱山は人の手で掘削するものだ。

 そのため、鉱山に向けて魔法を放ち、ばらばらになった岩の中から宝石を見つける方法もあるだろうけれど、魔法の加減が難しそうだから最終手段にしておこう。

 心の中では淑やかさとは無縁のことを考えながら、あくまでにこやかに提案すると、ジークムントはそうではないと首を横に振った。


「いや、そうでなく、今からオレたちの一族をとっちめに行かないんですか?」

 じれったそうに尋ねてきたジークムントの言葉を、私はきっぱりと否定する。

「ええ、行かないわ! 花嫁は自ら宝石を拾うものでしょう。既に拾われた宝石を回収したとしても、それは……カツアゲ? になるんじゃないかしら」


 狼一族は私がどんな人間なのかを見極めている段階なのだから、恫喝するような真似は止めた方がいいわよね。

 そう考えながら、ジークムントが共感しやすいように市井で少年が使う言葉を混ぜてみる。

 すると、案の定、彼はその単語に食いついてきた。


「カ、カツアゲ!? 本当に姫君は強者の考えをしますね! いえ、そうでなく、皇帝陛下のお声がかりで、当主のオレが了承した案件ですから、正当性は姫君にあります! 本来、姫君が拾うべきだったものを奪われたのですよ!!」


 熱心に言い募ってくるジークムントを見て、どうして彼は私の立場に立って考えてくれるのかしら、と不思議になる。

「そう、でも……」

「でも?」

「あなた、一族の者をとっちめるのは嫌でしょう?」


 当然の質問をすると、ジークムントは心底びっくりしたように目を真ん丸くした。

「えっ! お、お姫様はオレのためを思って、狼一族の狼藉を見逃してくれようとしているんですか!? ……め、女神ですか!!」


 ジークムントの口からとんでもない言葉が飛び出てきたため、私はぎょっとする。

「いや、だから、ジークムント、あなたって……」

 やっぱりチョロ過ぎるんじゃないかしら。


 私より頭一つ大きく、鍛えられた肉体を持つ大柄なジークムントが頬を赤らめ、感激した様子でぷるぷる震えている。

 そんなジークムントはとっても可愛らしかったため、私は苦笑しながら彼を見上げたのだった。


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