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19 鉱山での宝石拾い 2

「それで、宝石の話をしていたのでしたね。もちろん、宝石は通常、岩の中に眠っているので、人為的に掘削しなければいけません。しかし、我が国では特殊な昆虫を利用して掘削する方法を発見したんです」


「特殊な昆虫?」

 初めて聞く話だったため、一体どういうことかしらと聞き返す。


 すると、ジークムントは少しだけ得意そうな顔をした。

「ええ、より正確に言うと、特定の岩石だけを大量に食べる昆虫を発見しました。そのため、その岩石で構成されている鉱山に限定した話ではあるのですが、人為的に掘削することなく宝石を手に入れることができるんです。幸運なことに、この鉱山もその一つです。昆虫が宝石を食べることはありませんので、食べ残された宝石は地面に落ちています」


「まあ、そんな便利な方法があるのね」

 聞いたこともない画期的な方法を説明され、びっくりして聞き返す私に、ジークムントはさらに説明を加える。


「昨日、鉱山でそれらの虫が嫌う煙を焚きました。そのため、今日一日は、昆虫たちは岩石の奥深くに隠れて出てこないはずです。姫君はゆっくりと通路を歩いて落ちている宝石を探され、お好きな物をお選びください」


「分かったわ!」

 宝石拾いはとっても簡単じゃないの、とにこにこしていると、ジークムントから訝し気に見つめられた。

 彼の表情を見て、あら、私はまた何か間違えたのかしら、とぴたりと動きを止める。


 けれど、思い当たることがなかったため、そのまま笑みを浮かべていると、ジークムントが首を傾げながら質問してきた。

「お姫様は虫が怖くないんですか? 説明していませんでしたが、虫と言うのは15センチほどの棒状の形をした、足がたくさんある昆虫です。気持ちのいい見た目はしていませんよ」


 そこまで言われてやっと、ジークムントが言いたいことを理解する。


 あっ、もしかして私はここで、虫を怖がらなければいけないのかしら。

 ご令嬢の多くは、虫が苦手だと聞いたことがある。

だからこそ、ジークムントは私と虫が遭遇することがないよう、煙を焚いてくれたのだろう。


 実際のところ、私は騎士団の遠征で、長期の野営を経験しているから、『虫が苦手☆』なんて感覚はなくしてしまった。

 けれど、繊細でか弱い令嬢という立ち位置を保ちたいならば、怖がってみるべきだろう。


 私は両腕で体を抱きしめると、眉を下げてジークムントを見上げる。

「ああー、ありがたいことね! 虫が出なくてよかったわ! どうやら役に立つ虫らしいから、殲滅したら苦情が出そうだし、15センチもあるのなら硬くて食用にもならないだろうから、扱いに困るところだったわ」

「ボロが出るだけなので、もう黙ってください」


 ジークムントは顔をしかめて苦情を言った後、驚いたように私の足元を見つめた。

「姫君、その足元は何ですか?」

「えっ、足元? 普通に靴を履いているだけよ」

 驚かれるようなことはないわ、と高くて細いかかとが特徴のパンプスを見下ろす。


 けれど、ジークムントは私と同じように思わなかったようで、叱りつけるような声を出した。

「ここはパーティ会場ではないんですよ! 一体どうしてそんな歩きにくそうな靴を履いているんですか! ブーツを履いてくるべきだと、常識で分かるでしょう!!」


「転ばないから大丈夫よ。私はいつだってピンヒールを履くの。だから、慣れているわ」

 母国では、私がいつだってピンヒールを履くことは皆の共通認識になっていたから、わざわざそのことに言及してくる者はいなかった。

 けれど、この国では皆が異なる反応を示すから新鮮だわ。


「いつだって、って……姫君は母国で騎士団のトップだったんですよね? 騎士服を着ていたんじゃないんですか!?」

「ええ、騎士服を着ていたけど、足元はピンヒールだったわ」

「……まさか戦場でもそうだとは言わないですよね?」

 信じられないといった表情で尋ねてくるジークムントに、その通りだと頷く。

「ええ、戦場でもよ!」

 何たって、ピンヒールが一番バランスを取れるのだから、戦場という大事な場では慣れている靴を履くのが一番だわ。


 これまでの経験上、ピンヒールを履いて困ったことは一度もないというのに、笑顔の私を見たジークムントは、「お姫様の常識を信用し、ブーツを持ってこなかったオレのミスです」と言うと、諦めた様子で項垂れた。

 それから、気落ちした様子のまま、手に持っていた鳥籠を私に差し出してくる。

「靴は諦めました。せめて少しでも早く宝石拾いが終わるよう、こちらをお持ちください」


 それは先ほど、ジークムントが鉱山の入り口近くにある小屋から持ち出したものだった。

 一体何が入っているのかしらと興味を引かれながら、籠に被せられていた布を外すと、水色と黄色が混じった小鳥が現れる。

「まあ、小鳥?」


「はい、この鳥は宝石を感知する特殊な訓練を受けています」

 籠の中を覗き込むと、小鳥がつぶらな瞳でこちらを見つめていた。


「宝石の在り処を教えてくれる鳥なので、この鳥が鳴き出したら、周辺に宝石が落ちているということです。慣れてきたら、小鳥の鳴き方から、だいたいどの辺りに宝石が落ちているのかが分かるようになるでしょう」


「まあ、それは素敵ね」

 私は期待しながら、籠の中を覗き込んだのだった。

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