18 鉱山での宝石拾い 1
「宝石は鉱山の岩の中に眠っているのよね。私はこれから岩を掘削し、バラバラにした岩のかけらの中から、宝石を探せばいいのかしら?」
エッカルト皇帝は軽い調子で『宝石拾い』と言っていたけれど、実際には岩を削って採掘するのよね、とジークムントに確認したところ、呆れたようにため息をつかれた。
「お姫様は意外とワイルドですね」
「ワイルド? まさか、どこにでもいる繊細でか弱い令嬢を捕まえて、何てことを言うのかしら」
反射的に、母国の騎士たちが聞いたら目を剥きそうな言葉をさらりと返す。
母国での私は騎士団の最高司令官であり、最上位の魔法使いだったから、皆に恐れられていた。
けれど、私は妙齢の女性でもあるから、皆から恐れられる生活というのは、できれば避けたいわよね。
その点、この国ではほとんど私のことが知られていないから、か弱いふりをしてもバレないんじゃないかしら。
せっかく弱々しそうな見た目に生まれてきたし、獣人族にとって人間族は総じてひ弱らしいから、弱者に擬態するのもいいかもしれない。
そう考えて、繊細でか弱い令嬢を装ってみたところ、なぜかジークムントが疑うような表情を浮かべる。
あらあら、彼はサファライヌ神聖王国での私を知らないでしょうに、何を疑っているのかしら。
「お姫様はいつだって堂々としていて、焦ったり、困ったり、怯えたりすることがないですよね。たった一人で知らない国に嫁いできた16歳のお姫様の行動としては、異常と言わざるを得ません」
「まあ、そんなことないわよ」
ジークムントったら大雑把そうに見えて、意外と細かいところまでチェックしているのね。
「そんなことあります。実のところ、オレはいつだって、威圧感がすごいと言われるんです」
「はい?」
ジークムントはいきなり何を言い出したのかしら。
「『八聖公家』の当主は全員、威圧感がすごいので、多くの者は同じ空間にいるだけで耐えられず、青ざめたり、震え出したりするんです。それなのに、お姫様は初めからずっと、オレやルッツと平気で話をしていますよね。最初はものすごい鈍感なのかなと思ったんですが……そうではなくて、本当に平気なんですよね」
何だかすごく失礼なことを言われたわと思ったけれど、ここは言い返す場面ではないと判断し、きりりと誠実そうな表情を作る。
「何もしていないあなたたちを恐れるなんて、そんな失礼な真似はしないわ」
どう答えるのが正解か分からなかったので、一番受けがよさそうな、礼儀正しい令嬢であることを強調してみたのだ。
けれど、ジークムントは感銘を受けた様子もなく、疲れたように首を横に振った。
「オレが言いたいのはそういうことじゃないんですが、お姫様には分からないですよね。そして、分からないことが答えです。まあ、つまり、オレと対峙した相手が感じるのは本能的な、生物としての恐怖だから……何も感じないお姫様は強者なんですよ」
「…………」
『サファライヌ神聖王国で一番強いのは誰だ』と言われたら、全員が私を指差すくらいには強者だという自覚があったため、返事ができずに黙り込む。
たったそれだけで、ジークムントは何かを悟ったような表情を浮かべた。
それから、意外なことに私に気を遣ったのか、あっさり話を変えてくれた。
「まあ、いいです。オレには正解が分からないので、お姫様が繊細かどうかについては保留します」
「分かったわ」
多分、この時点で『強者だ』と決めつけられないだけでもめっけものだろう、とジークムントの言葉をさっさと受け入れる。
私は引き際を心得ているのだ。






