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17 チェンジリング 4

「し、心臓を握り潰す?」


 鋼の心臓を持っているであろうジークムントのものを握り潰すためには、ものすごい力が必要なはずだ。


 私はザルデイン帝国に来て以来、一度も魔法を使っておらず、おとなしくしている。

 それなのに、どうして強靭な心臓を持つジークムントを殺しにかかっている、という濡れ衣を着せられたのかしら。


「やっぱり、たとえとして野生動物を出したのがよくなかったのね。だから、怒ったジークムントが、私に濡れ衣を着せようとしているのだわ」

 思ったことをそのまま言葉にすると、ジークムントが片手を振って、私の言葉を遮った。


「違います! そうではなくて、オレは姫君に感謝する、と言いたかったんです」

「えっ!」

 先ほどのセリフで、そんな気持ちは全然伝わらないわ。


 そう呆れていると、ジークムントが真っ赤な顔で私を見つめてきた。

「……ひ、姫君の言葉はオレの世界を変えてくれました。とてもいい方向に」

 恥ずかしそうに呟くジークムントを見て、私は驚愕する。


 もしかしてジークムントは本気で私に感謝しているのかしら。

 というか、先ほどまであった敵意が消えているわよ。たったこれだけの会話を交わしただけで?

「ジ、ジークムント、あなた、さすがにそれは……」

 チョロ過ぎないかしら。


 でも、そうだったわ。ジークムントは悪ぶっているけど、根が素直ないい子なのよね。

 だから、人の言葉を素直に受け取るし、感銘を受けるのだわ。


 これまで、ジークムントが素直なのは、家族から大切に育てられたからだろうと思っていた。

 けれど、あの一族を見た後で、同じことは思えない。

 きっと、ジークムントの性質が、素直ないい子なのだろう。


 そんな風にジークムントを分析していた私だけれど、彼も私のことを考えていたようで、しみじみとした声を出した。

「姫君が母国の騎士たちに人気だったというのも納得です。多くの男性が熱狂的に姫君を求めたのも、分かる気がします」


 うん? ジークムントは突然、何を言い出したのかしら。


「オレには姫君の過去をとやかく言う権利はありません。ただ、姫君は皇妃になられるのです。今後は、エッカルト陛下お一人に真心を捧げていただきたいです。ですから、この先も同じように不埒な輩が現れたら、オレが全て払わせていただきます」


 ええと、ものすごく回りくどい言い方をしているけど、ジークムントは私が騎士団総長として多くの騎士から慕われていた、と言いたいのかしら。

 それから、私は帝国の皇帝に嫁ぐのだから、今後は母国の騎士たちと親しくするな、と言っているのかしら。


 軍事力というのは国の要だ。だから、結婚後は母国の騎士たちと親しくしてはいけないことは承知している。

 私は帝国の重要機密を知ることができる皇妃になるのだから、そんな立場で母国の騎士たちと親しくしていたら、情報漏洩を疑われるだろう。


 だから、疑われるような相手と一緒にいる私を見たら、それが母国の騎士であれ、それ以外の人物であれ、ジークムントが全て遠ざけると言っているのよね?

「それはご親切なことね」


 ジークムントは私に感謝すると言ったから、恩返しのつもりなのかしら。

 首を傾げて考えていると、ジークムントがきっぱりとした声を出した。

「オレはずっと自分のことをチェンジリングだと考えていました! 長年、皆から言われ続けてきたので、その言葉を信じていたのです」


 純朴なジークムントらしいわね。


「一方で、たとえ血がつながっていなくとも、オレの家族は狼一族だと、これまでずっと考えてきました! しかし、姫君はオレが神様に選ばれた個体で、両親とは血がつながっているのだと言ってくれました。だから、これからはもっと自信を持って、彼らを家族だと思うことにします!!」


 ジークムントを見上げると、彼は晴れ晴れとした表情をしていた。


 この問題で一番のネックは、ジークムントが一族を好きなことだ。

 狼族の性質なのか、虐げられようとも、仲間外れにされようとも、ジークムントは無条件に一族を慕っているのだから。


 そのため、どうすれば一番ジークムントのためになるのかしらと考えていたけれど、彼は初めから答えを出していたのだ。


 ジークムントにとって狼一族は家族だから、家族と一緒にいることが彼の幸せなのだ、と。


 だとしたら、これ以上狼一族の悪口を言っても、ジークムントを悲しませるだけだろうから、私は二度と狼一族の悪口を言わないわ。

 ジークムントのことをチョロ過ぎると思ったけれど、私も似たようなものかもしれない。

 普段と違い、弱々しい様子を見せるジークムントが心配になって、何とかしてあげたいと思うのだから。


 ジークムントが狼一族と仲良くなる最善の方法は、両親がジークムントを血族として受け入れることだろう。

 彼が前公爵夫妻と血のつながった実の息子だと判明すれば一番いいのだけど、血族の証明方法は見つかっていない。


 しばらく考えた後、私は自分の手で解決することをあきらめる。

「想像だけど、エッカルト陛下は自らこの問題を解決するつもりで狼領を訪れるんじゃないかしら。だとしたら、全てを解決してしまったら、陛下ががっかりするわよね。よし、狼一族問題は陛下にお任せすることにしましょう」


 他力本願な気もするが、とてもいいアイディアだ。

 決して解決方法が浮かばなかったから、エッカルト皇帝に丸投げしようと考えているわけではないわよ、と自分に言い聞かせていると、ジークムントがぴくりと耳を動かした。


「陛下が何ですって?」

 まあ、すごく小さな声で呟いたのに、ジークムントに聞こえたみたいね。


 彼はエッカルト皇帝が大好きだから、皇帝に狼一族の問題を解決させようと考えていることがバレたら、恐縮して辞退しそうよね。よし、黙っていよう。

「何でもないわ。陛下との結婚式のため、素敵な宝石を拾いたいわね、と言ったの」


 私はにこやかな表情でそう告げると、「ところで」と宝石拾いについて話題を変えたのだった。

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