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15 チェンジリング 2

「エッカルト陛下が私を狼公爵領に誘ったわけが分かったわ!」

 晩餐後、私は客用寝室で独り言を呟いた。


 というのも、エッカルト皇帝が狼公爵領の訪問を提案した真意を、理解した気持ちになったからだ。


 皇帝のお誘いには何か裏があるのかしらと疑った私の勘は、どうやら正しかったらしい。

 ただし、私に何かしようと画策したわけではなく、全てはジークムントのためだったのだ。


 恐らく、皇帝は狼一族の現状を把握しており、自らこの地に乗り込んで、ジークムントの問題を解決しようとしたのだろう。

 私の宝石拾いは、この地を訪問する理由として丁度よかったというわけだ。


「考えてみれば当然よね。不始末の代償として娶る妃なんて、憎いだけだろうから、忙しい皇帝が気にしている暇なんてないわよね。一方のジークムントは彼の大切な部下だから、困っていたら助けようと思うわよね」


 恐らく、ジークムントが皇宮に長期間滞在していたことから、エッカルト皇帝は狼一族の問題に気付いたのだろう。

「もしかしたら直近の3週間だけでなく、以前からずっと、ジークムントは皇宮に滞在していたのかもしれないわ。あの一族とは顔を合わせたくないだろうから当然よね」

 毎日毎日、あんな調子で仲間外れにされたら、誰だって嫌になるだろう。

 それも、実の両親が先導しているのだから、ものすごく気が滅入るに違いない。


「エッカルト陛下はいつ狼公爵領にやってくるのかしら。それまではここで、陛下を待っていないといけないわね」

 宝石拾いと言うのが、どのくらいの日数を必要とするのか分からないけれど、焦らずにゆっくり拾った方がよさそうだ。


 私はベッドに横になると、明日やるべきことを考えながら、眠りについたのだった。



 翌日、朝食時に再び、私は狼一族と顔を合わせた。

 全員の口数が少なかったけれど、昨晩の諍いを考えれば当然かもしれない。


 彼らにとって私は無礼な部外者だろうから、口もききたくないでしょうねと考えながら、黙々と食事を取る。

 穏便に朝食を終えられればと思ったけれど、残念なことに、望みは叶えられそうになかった。

 前公爵夫人が膝に載せていたナプキンを乱暴な仕草でテーブルに置くと、馬鹿にしたような声を出したからだ。


「考えてみれば、宝石を拾うという習慣も、種族によっては残酷なものかもしれないわね。特に人間族は目がよくないと聞いているから、宝石の深い色合いを見極められずに、組み合わせが悪いものばかりを拾ってくるんじゃないかしら。大事なのは、全体の調和なのにね」


 この場にいる人間族は私一人だったため、これは私に対して言っているかしら、と前公爵夫人を見つめる。

 元々、人間族の皇妃ということで嫌われていたのに、面と向かって狼一族を馬鹿にしたため、怒らせてしまったのだろう。


 けれど、ジークムントに対する彼らの対応は酷いものだったから、発言したことを反省はしないわ。

「前公爵夫人は私にアドバイスなさっているのかしら? ふふふ、ご心配いただかなくても結構よ」

 私はできるだけ穏やかな口調を装うと、喧嘩にならないようにと気を付けながら返事をした。


 ジークムントへの対応には我慢ならないものがあったため、昨夜はきっぱりと言い返したものの、それ以外の部分で敵対するつもりはなかったからだ。

 それなのに、前公爵夫人は刺々しい態度を改めることなく、挑むような口調で言葉を続ける。

「まあ、心配したくもなりますわ。偉大なる皇帝の妃として、人間族のお姫様では荷が勝ち過ぎることは明らかですもの」


「おいおい、いくら人間族がひ弱でちっぽけだとしても、そう責めるものじゃない。そんな風に生まれてしまったのだから、お姫様にはどうしようもないことだろう」

 前公爵が親切な振りをして、さらに私を貶める言葉を口にする。


 反論するのも面倒だったので、私は適当に話を合わせようと、殊勝な振りをして俯いた。

「皆さんのおっしゃるとおりですね。私は何の力もない、ちっぽけな人間ですから。偉大なる皇帝の妃としては全く釣り合いませんよね」


 私の言動が普段より随分控えめであることに気付いたジークムントは、私が昨夜のようにとんでもない行動を取ることを恐れたようで、慌てた様子で立ち上がった。

「お、お姫様、鉱山までの道中に美味しいレストランがあるんです! せっかくですから、鉱山の帰りにその店に寄りませんか。朝食はここまでにしておきましょう!!」


 どうやら早々に、私を一族から引き離したいようだ。

 これ以上彼らと食事をともにしたいとも思わなかったため、私は頷くと椅子から立ち上がった。

 それから、私は狼一族に退席の旨を告げると、ジークムントとともに食堂を退出したのだった。

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