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10 皇宮の庭と魔女の遺跡 1

「お姫様の母国は古い歴史があるらしいですが、この帝国も負けちゃいませんよ! この皇宮は何と、200年も前に建てられたんですからね!!」


 朝食の後、ジークムントは約束通り皇宮の庭を案内してくれた。

そして、彼はどの場所を回っても得意気な様子を見せた。


 ジークムントの話によると、200年前の皇妃は魔女だったらしく、当時の皇妃のために造られたのがこの皇宮らしい。

 得意気なジークムントは少年みたいで可愛らしかったため、彼をがっかりさせてはいけないと、母国であるサファライヌ神聖王国に三千年の歴史があることは黙っておく。


「この大陸には多くの古代遺跡が残っており、その一つがこの皇宮の下にあります」


「えっ、そうなの?」

 驚いて地面を見下ろすと、ジークムントは自慢するような表情を浮かべる。

「ええ、そうです! 古代遺跡があるのは力がある場所ばかりですから、その上に重要な建物を建てるんです」


 母国がある島には古代遺跡が一つもなかったため、興味深く聞いていると、ジークムントは威張るかのように胸を張った。

「古代遺跡は魔女の家なんです。魔女の一族は『はじまりの種族』ですから、遠い昔に彼女たちが古代遺跡を作り、そこで暮らしていたんです」


「魔女たちは地下に住んでいたってこと?」

「いえ、元々古代遺跡は地上にありました。しかし、魔女がいなくなってしまったので、全て地下に沈んだんです」

「そんなことがあるのね」

 古代遺跡は魔女のために存在していたから、役割を終えた後は地下に沈んだということだろうか。


「古代遺跡は地下に沈んでしまったので、誰もそこで暮らすことはできません。しかし、魔女にとって懐かしい場所だからと、200年前の皇帝は皇妃となった魔女のために、古代遺跡の上に皇宮を作りました」


 古代遺跡が地下に沈んだ時、魔女は既に死に絶えていたという話だった。

 それなのに、200年前に魔女が存在していたのは、新たな魔女が復活したということだろう。


 けれど、現在では再び魔女がいなくなっている。

 恐らく、200年前の魔女は数を増やすことができなかったのだ。

 一度絶滅した種族が数を増やすのは、それほど難しいことなのだろう。


「200年前、当時の皇妃は自由に古代遺跡を出入りしていたと言います。皇宮の庭には、その遺跡への入り口だったり、魔女の畑だったり、魔女のかつてのペットが住んでいる林があったりしますが、それらは全て立ち入りが禁止されています。皇帝陛下かオレたち『八聖公家』の当主と一緒でなければ、入れないんです」


 なるほど、皇宮の庭には魔女由来の大切な場所がたくさんあるのね。

 だから、皇帝や公爵たちは魔女の大切な場所を荒らされたくなくて、立ち入り禁止のルールを作ったのだわ。


「魔女に関する場所はとっても大切だから、一定の権限を持っている相手と一緒じゃないと、立ち入りが許可されないということね」

 確認のために尋ねると、その通りだと頷かれた。


「魔女に関する場所は出来るだけ手を入れずに、当時のままの状態を保つようにしてあります。不心得者を入れるわけにはいかないんです」


 私は好奇心からジークムントに尋ねてみる。

「その古代遺跡の入り口はどこにあるの? もちろん中に入りはしないけど、離れた場所から見るだけならいいでしょう?」


 ジークムントは困った様子で、がしがしと頭をかいた。

「お姫様は和睦の印として我が国に来られたので、死んでもらっちゃあ困るんです! だから、絶対に遺跡の中に入るもんじゃありません。あの中は危険がいっぱいありますから、ひ弱な人間族なんて、すぐにくたばってしまいます」


「えっ、遺跡に危険な生物がいるの?」

 ずっと昔に魔女の家だったとしても、長い間、誰も住んでいなければ、廃墟となっているんじゃないかしらと考えていたけれど、どうやら何者かが棲みついているようだ。


「わんさかいますね! 古代遺跡は魔女の家ですから、魔女の執事に、魔女の騎士、魔女の侍女に魔女の料理人……と、あらゆる魔女の使用人がいます。彼らは正に危険生物で、魔女以外が遺跡に入ってくるのを全力で阻止しにかかるんです」


「まあ、魔女が亡くなった後も、魔女の使用人たちはずっと古代遺跡で暮らしているの?」

 そうだとしたら、魔女の使用人は忠誠心が高く、長命な種族なのだろう。

「きっと、魔女の使用人たちにとって、魔女以外の者は全員不法侵入者にあたるんでしょうね」


「その通りです。それだけでなく、古代遺跡には高ランクの魔物も侵入してきます。古代遺跡の一角が、魔物が発生する迷宮ダンジョンとつながっていて、そこから、魔女の使用人という美味しい餌につられて、魔物が入ってくるんです。もちろん魔物にとってオレらも餌ですから、遭遇したら襲われます。とはいえ、魔物が古代遺跡の外まで出てくることは滅多にありませんから、危険はありません」


「そうなのね」

 サファライヌ神聖王国にも複数の迷宮ダンジョンが存在しているので、その厄介さは理解している。

 大変ねと顔をしかめたところで、ちょうど遺跡の入り口に到着した。

 そこは大人の身長よりも高く土が盛りあげられており、人が歩いて通れるような横穴が開いていた。

「入り口からは横穴に見えますが、実際には緩やかな下り坂になっていて、地下にある古代遺跡につながっています。以前は、ここ以外にも出入口があったようですが、今はもう残っていません」


 遺跡の入り口には、立ち入り禁止を示すような縄や遮蔽物は置いてなかった。

 恐らく、明示するまでもなく、誰もが近付いてはいけない場所だと理解しているのだろう。


 何とはなしに入り口を見つめていると、そこからそよりと生暖かい風が吹いてきたためびっくりする。

 風が動いているということは、閉鎖された空間ではないということよねと考えていると、遺跡の入り口に影が射し、中から何者かが現れた。


「ひゃああっ!?」

 遺跡の中から危険生物が出てきたのかしら、とびっくりして後ろに下がったけれど、それはジークムントが話してくれた魔女の使用人ではなく、滅多にないほど美形の男性だった。

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