プロローグ
どうぞよろしくお願いします。
「えっ、赤い瞳?」
古代遺跡の隠し部屋で、私は鏡に映った自分の姿をまじまじと見つめた。
「嘘でしょう? ピンクの髪に赤い瞳だなんて……最上位種の『魔女』じゃないの!」
私が嫁いできた大陸には、国・種族に関係なく、誰もが信じている言い伝えがある。
『「魔女」はピンク色の髪に赤い瞳を持つ「はじまりの種族」で、全てに祝福を与える存在なり』
ただし、魔女の一族は遠い昔に滅んでしまっており、一人だって残っていない。
それなのに、誰もが魔女を崇拝していて、いつの日か復活すると信じているのだ。
私の脳裏に、いつだって私を馬鹿にする、帝国皇帝の側近である『八聖公家』の当主たちの声が蘇ってくる。
『魔女はオレたちにとって、神聖で不可侵なるご存在だ! オレたちが今ここにあるのは、全て魔女のおかげだからな!!』
『魔女は最古の種族であり、始まりの種族なのです。その御恩は僕たちの血と肉に刻み込まれています』
それから、私の婚約者であるザルデイン帝国皇帝エッカルトの声が。
『私は生まれた瞬間から、魔女に心臓を捧げている。彼女が死ねと言ったら死ぬし、彼女が現れたら全てを捧げるだろう』
「待って、待って! 帝国の全員から敵視されている私が、その復活を希われている魔女だなんて悪い冗談よね? だって、私の瞳は青のはずなのに。ああー、でも、どこからどう見ても赤い瞳だわ。いつの間に変化したのかしら。ううう、どうしよう、バレたら全員から跪かれるのかしら」
嫌だ、嫌だ。
あれほど毎日、顔を合わせるたびに嫌味を言ってくる連中が、ころっと手のひらを返しておべんちゃらを言い始めるなんて、考えただけで耐えられないわ。
皆だって、今さら私を崇め奉るなんて屈辱でしょうし。
それとも、魔女が現れたと歓喜するのかしら。
あー、普段の魔女への傾倒具合を考えたら、歓喜しそうよね。
「ううう、いつだって私を蔑んでくる公爵たちが、猫なで声でしゃべってくる姿なんて見たくないわ」
そもそも、彼らのそんな姿を想像することができない。
「下手したら、私のことを嫌っている皇帝ですら、私に執着して愛を囁いてくるのかしら」
いや、さすがにそれはないわよね。
あれだけ私を嫌っているのだから、今さらそんな恥ずかしい真似はできないはずよ。
それとも、屈辱的な気持ちを抑え込んで、私に愛を囁くのかしら。
思わず私の前に跪く皇帝の姿を想像してしまい、顔が真っ赤になる。
「ぎゃあ、これは想像してはいけないやつだったわ!」
そうだった、皇帝は類を見ないほどのイケメンなのだ。
あれほどのイケメンが私に触れ、切なそうに言い寄ってきたとしたら、私の心臓がもたないわ。
私はふるふると大きく首を振ると、頭の中からイケメン皇帝の姿を追い出す。
それから、大きなため息をついた。
「はあ、どうしてこんなことになったのかしら?」
私は恨めしい気持ちで、そもそもの始まりを思い返したのだった。