■■■-01. ■■■■
まるで、星降る夜を吹き抜ける涼やかな風のようだ。
その人を見た時、俺はそう感じたのだ。
「それでは、次の曲が最後になります~」
画面の中で、さらさらの金髪を持つ青年がまったりとした口調で告げた。
締めの言葉に対して、画面の外からは「えー!」「やだー!」という、女性たちの嘆きの声。
「はっははは! 大丈夫さ、また会えるとも!」
そんな彼女たちの言葉を受け、画面に映るもう一人――黒髪の青年が声高に述べる。
その言葉選びや所作は舞台役者のようにオーバーではあるが、身に纏っている煌びやかな衣装が伴うと、途端にどこかの国の王子のように見えてくるから不思議だ。
「キミたちの有するその愛、その声、その煌めき……それらが尽きぬ限り、我々はいつだってキミたちのもとに舞い降りる! そう! 何故なら――」
「『いつもあなたの心の中に』。それがクオリアとみんなのお約束、ですからね~」
「……ニコ、僕のセリフを横取りするのはやめてくれたまえ」
「だって、イロハの話は長いですから~。折を見て切らないと……ね~?」
金髪の青年――ニコがステージ下の観客に同意を求めた。
どうやらこの流れはお約束らしく、観客も楽し気に笑いながら「ねー!」と返している。
「そんなことより~……ほら、次が最後の曲ですよ~。今日のライブを一緒に作り上げてくれた仲間たちも呼んで、みんなで思いっきり盛り上がっちゃいましょう~」
「うむ、それもよし! サポートメンバー、カモン!」
イロハの呼び声を合図に、ステージ下手から六人ほどの少年たちが出てくる。
ニコやイロハよりもおとなしい色の衣装を纏った彼らは、主役二人に導かれながら、横一列にずらりと並んだ。
「それでは最後にもう一度、サポートメンバー紹介~! 一人ずつ、お名前と感想を一言おねがいしますね~」
「キミたちも、未来へ羽ばたかんとする我らの愛しい後輩へ、盛大な拍手を贈ってくれたまえ!」
ニコが左端の少年にマイクを手渡し、イロハが場を仕切っていく。
「ね、ネクストスカイの深山紫乃です! 今日はすっごく楽しかったです!」
少年は一歩前に踏み出し、少し緊張した面持ちで名乗った。
「えっと……クオリアの二人と一緒にステージに立って、やっぱりすごいなって思いました! 俺たちも先輩たちを目標にこれから頑張っていくので、よろしければ応援お願いします! 今日は本当に、ありがとうございました!」
そして、キラキラした顔で感謝を述べると、客席に向かって深く頭を下げる。
その様子に、観客席からはパチパチパチ……と温かな拍手が溢れ、少年は少しはにかみながら隣の少年へマイクを手渡した。
その後も、それぞれの意気込みと感謝を交え、次々とマイクが受け渡されていく。
そしてついに、最後の一人へとマイクが手渡された。
少年が一歩、前へ出る。
夜空色の美しい髪がさらりと揺れて、マイク越しに息を吸う音がする。
そして、発されたのは――静かで、柔らかで、温かな声だった。
「ネクストスカイの――橄欖坂衣織です」