■■■-02. ■■■■
「――本日もお送りしています、『ネクスタ』! 次はネクストスカイから深山くん、橄欖坂くんが来てくれています!」
「よろしくお願いしまーす!」
ステージ端のトーク用セットにて、司会者が出演者を紹介する。
それを受け、背の高い椅子に座った二人の青年が、客席に向けて深々と頭を下げた。
「えー、今回は新たなデュエット曲『ナイショバナシ。』を初披露してくれるということなんですが。こちら、どういった曲なんでしょうか?」
「はい! この曲は、好きな人との内緒話をテーマにしたラブソングです!」
「二人だけで共有する会話は嬉しいけれど、なんだかちょっと恥ずかしい……そんな甘酸っぱい気持ちを歌った曲になっています」
司会の質問に小柄な青年が答え、もう一人――衣織が内容を補足する。
その受け答えの様はすっかり堂に入っていて、研修生の中でも出番を勝ち得てきた彼らの歴史を感じさせた。
「内緒話ですか~。ちなみに、注目ポイントはどこになりますか?」
「えーっと……サビ前で会話をするみたいに交互に歌うところがあるんですけど、この曲で初めてウィスパーボイスに挑戦しているので、注目してもらえると嬉しいです!」
そう言ってカメラに向かって笑顔を見せる紫乃の隣で、衣織がうんうんと頷く。
瞼を伏せて首を縦に振る動作はどことなく幼気で、涼やかな雰囲気とのギャップが視聴者の視線を釘付けにした。
――話をせずとも注目を集めるその技に、彼がアイドルであるということを再認識させられる。
「――それではここでですね。『ナイショバナシ。』にちなんで、ネクストスカイの他のメンバーにインタビューをしまして。お二人の秘密について伺っていますので、見てみましょう!」
「えっ!?」
「いつの間に……」
しばらく曲についての話が進んだ頃に、司会が背後からフリップを取り出した。
「ふたりのナイショ。教えてください!」と書かれたフリップには捲れるような紙が貼られていて、その下にインタビュー結果が書いてあるらしい。
どうやら本当にサプライズだったらしく、紫乃と衣織は目を丸くして驚いている。
「それではまずは深山くんから。深山くんのナイショは~、こちら!」
デデン! という効果音に合わせ、紙が勢いよく捲られた。
「『オーディションの時、社長の前で盛大にずっこけた』……ほんとに?」
「…………ハイ」
「ああ、あったなあ……床に倒れたまま、社長と5秒くらい見つめ合ってたよな」
「そうそう、名前呼ばれて椅子から立とうとした拍子に、グワッって……くっそぉ~、絶対テレビで話さないって決めてたのに!!」
悔しそうに叫ぶ紫乃の様子に、会場が温かな笑いで包まれる。
隣に座る衣織も、その光景を思い出しているのか、形のいい唇を弧の形にして愉快そうに笑っていた。
「――続きまして、橄欖坂くんのナイショは、こちらで~す!」
紫乃のトークが終わり、続いて衣織の名前が記されたフリップが捲られる。
そこに書かれていたのは――
「『実はすごい大食漢!』……えっ、こんなにスタイルいいのに!?」
司会が本当にびっくりした様子で声を上げ、衣織は少しむず痒そうに顔を俯ける。
「そ、それは……」
普段は透き通るような淡い色の頬と耳たぶが、目に見えて赤く染まっている。
その様子は愛らしくありながらもどことなく艶っぽく、客席からはたまらないと言わんばかりの悲鳴が上がった。
「あー、これは俺もびっくりしましたね。ついさっきも収録前に昼飯行ったら、俺の倍くらい食うんですよ」
「……み、みんなが食わなさすぎるんだよ。ウチは育ち盛りの子たちも居るんだから、みんなもっと食わないと」
真っ赤になりながらも反論する衣織の口ぶりは、まるで大家族のお母さんのようだ。
――実際、他の研修生よりも年上の彼は、保護者や監督者のような立ち位置なのだろう。
「いやいや、俺らも結構食ってるって……しかも楽屋入ってから、差し入れのサンドイッチとアップルパイも食ってたし……」
「なっ!? し、仕方ないだろ! 『ヴェッセル』のパン、すっごい美味しいんだから!」
「ああ、この番組でも度々話題になってる名店ですね。今日もホールの外に販売に来てくれてるので、お帰りの際には是非お買い求めくださ~い」
衣織と紫乃がわーわーと言い合いを始める横で、司会が慣れた顔で売店の宣伝をする。
直後に映し出された客席の遠景の中には、うんうんと頷く姿や白い紙袋を掲げる姿などが映っていた。
どうやらファンの中にも常連が居るらしい。
「……さて! それではそろそろ、曲の準備をお願いしますね」
「あっ、はい!」
「行ってきます」
司会の声でぴたりと言い合いを止めて、二人はステージ側へと移動していく。
その背中を見送った司会はカメラに向き直ると、爽やかな笑顔で告げた。
「それではお聞きください。深山紫乃と橄欖坂衣織の新曲、『ナイショバナシ。』です。どうぞ!」
そして、ネクストスカイが誇るダブルセンターの、待望のパフォーマンスが始まった。




