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昼の月が見えたら  作者: おがわ小町
5/9

5…奈子が動き始める

上の子が大学生になった、ある日。奈子が離婚するために動き始めたと聞いた。やっぱり揉めそうで、少し時間がかかりそうだと人伝に聞いた。

夫が離婚しないと言い出したのだそうだ。あれだけの綺麗な奥さんをおいそれと手放したくないらしい。今までなかなか酷いことをしておいて、手放そうとしないとはどういう心理なのか。反省したところで遅いはずだ…と思いたいが、ここ最近奈子に会えていないので、もしかしたらやり直すとかあるんだろうかと一人で不安になったりしていた。


「お疲れ様です」

ノックして、丁寧にドアが開けられた。奈子だ。

「…匡介、お久しぶり」

優しい顔の奈子がこっちを覗いている。早足で向かって、扉が閉まると同時に奈子を抱きしめた。

「匡介…?」

腕から顔を出して、驚いている奈子が可愛過ぎて、もっと力が入りそうだったのを我慢して、手を緩めた。そして、疲れていそうな奈子の顔を手で触って確認した。

「…いや、あの、噂を聞いて」

「ああ、そっか…うん、なかなか上手くいかなくて」

「子どもたちは?」

「父親の態度に…呆れてる。ふふっ。二人ともしっかりしてるから。ありがとう」

「奈子は?」

奈子は視線を下にして、ため息を我慢しているかの様だった。

「んー、流石に疲れた、かな」

珍しく奈子が匡介を抱きしめてきた。匡介はそれだけで嬉しかった。二人の関係は誰にも話していないし、連絡も基本しないことにしている。だから、無かったことにすることが簡単で、とても脆く安心できるものではなかった。

匡介が不安なように、奈子も同様に不安だが、お互いそれを言うことも出来なかった。

「奈子、好きだよ」

「…私も」

匡介は驚いてしまった。いつもはお礼だけで、返してくれることはなかったのに。

「…何があった?」

奈子はしばらく黙った後、疲れ切った顔で話始めた。

「子どもたちが成人するまで、離婚できないかもしれない」

今別れれば、他の人と結婚するんだろうと。その相手がいるんだろうと言いがかりを付けられているらしい。だから養育費を減額すると。更には振込まないとまで。

子どもたちが成人すれば、奈子もそれなりの年齢になっているから再婚なんて出来ないだろうと。それなら良いと言っているらしい。

これが奈子の話を聞いて、匡介なりに解釈した内容だ。

人の人生を何だと思っているんだろう。奈子の人生は奈子のものだろ。奈子が自分の人生を生きて何が悪いんだ。子どもに関しては、両方に責任があるのだから、養育費はちゃんとするべきだろ。

奈子はそれに対して言い訳したり反論してはいたが、全く聞き入れないし話が通じない相手に辟易して、子どもが成人するまで待とうか悩み始めてしまっている。

娘たちが奈子の味方をしているのが、唯一心の支えになっているようだ。


奈子はおっとりしているが、芯はしっかり者で、子どもたちも奈子以上にしっかりしているようだ。時々植物園に連れて来たり、子どもたちだけで来たりしていた。お姉ちゃんは植物の研究がしたいと、大学で勉強し始めた。下の子はとにかくしっかり者で、大人の奈子やお姉ちゃんをフォローしてくれたりするとか。

だから、きっと二人が側にいれば上手くいくはずだ。



そして、ついに奈子と娘たちは実家へ引越していった。

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