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昼の月が見えたら  作者: おがわ小町
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2…奈子の想い

林さんは一目あった時に、好みの人だと思ってしまった。

初めて会ったのは、夫に頼っている当時の状況が嫌で始めたバイトの面接後、即採用でそのまま挨拶回りに行った時だった。でも、年も年だし、自分の立場をわかっているから、素敵だなと思うだけだった。きっとご家庭があるだろうし…と。


まさか独身主義者で、こんなに仲良くなれるとは思っていなかった。林さんは年下だけれど、そこまで年齢も変わらないこともあって、話もよくする方だ。

温室にある可愛い花の名前、育てるのが難しいのはどれとか、あわや枯れさせるところだったとか、色々なことを教えてくれた。


若い頃は好みの人と恥ずかしくて話することが出来なかったけど、歳をとったからか、若い頃の反省か、話をすることが出来て、それがとても幸せだった。

本当に楽しくて、絶対顔に出ていたはず。周りから変に思われていないかだけが気がかりだった。

この気持ちを表現してしまえば、林さんだけでなく色々な人に迷惑がかかってしまう。心の奥に閉じ込めておくのに精一杯だった。



迫田さんとランチに行った話をした時だった。

「じゃあ俺とも飯行きましょうよ」

心臓が止まるかと思った。正直行きたい…とっても行きたい。でもどうしよう、ダメかな。バイト先の人とただランチに行く風なら大丈夫かな。一回だけなら。どうしても断りたくない。そんな事を考えて、少し返事が遅れた。


今まで真面目に生きてきた自負があるけど、こればっかりは自分を抑えることが出来なかった。

「平日の、ランチなら」

その日から、やっぱりダメかな行くだけなら良いかな、の繰り返しだった。ランチだけなら、友だちとして行けば大丈夫。私が林さんを好きな気持ちは表に出さなければ、終わることなく、ずっと仲が良いままでいられる。それだけでも私には贅沢過ぎるのだから。


ランチの当日は朝から緊張して、変な格好でないか何度もチェックした。一緒に出かけるだけでこんなに緊張するものなのかと、初めての経験に、何とも言えない気持ちになったのは今でも鮮明に覚えている。


夫に対して申し訳ない気持ちもある。私がきちんと好きになって結婚をしなかったばかりに、こんな事になってしまったのかもしれない。良い人だから、周りのウケも良いから、きっと優しい人。そう信じてしまっていた。自分の目で見ようとしていなかった。それに、自分が夢中になれる人と出会うことを諦めていた。

忘れてしまっているけれど、その時は好きだったのかもしれない。私も色々と被害を受けてきて心身共にボロボロだけれど、夫も被害者なのかなと思う。


でも、きっと、誰が相手でも、林さんに出会ってしまったら、こうなってしまった。それくらい好みのど真ん中で、どうしたら良いのかわからないくらい好きになってしまった。こんな感情が私にあったなんて、信じられないくらい、林さんと一緒にいられることが嬉しくて仕方ない。それを抑え込みながらの生活が、少し苦しい。もしかしから、林さんから離れた方が良いのかもしれないと思うくらい。


こんな年になって、こんなことになるとは思いもしなかった。

でも、幸せで幸せで、幸せで苦しい。

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