生きる
三題噺もどき―にひゃくにじゅうよん。
氷のような空気が、部屋全体を包み込んでいる。
まるで冷蔵庫の中にいるような寒さだった。実際のところは分からないが。冷蔵庫の中に入ったことはないので。
もしかしたら冷凍庫の中並みに寒いかもしれない。
―知らないけれど。
「……」
そんな寒さに、目が覚めた。
「……」
すぅと、息を吸い込めば、冷ややかな空気が入り込んでくる。
身体の中から冷やされていくようで、心地いいモノではない。
肺が凍りそうだ。手足の先はもう冷えている。
「……」
これだけ冷えても、死にはしないのだから、人間というのは、強いのか弱いのか。とは言え、そんなに冷えてはいないのだろう。命を落としかねない冷たさとか、想像もできやしない。そんな寒さが日常的にあるかもしれないとか考えるともう、外にも出られないし、布団からも出られない。
「……」
暗闇に包まれた部屋の中を、ぼんやりと眺める。
意識がいまだはっきりしていないのもあるが。まぁ、実際目が悪いのでぼんやりするのだ。視界が悪いことこの上ない。これでも夜目は利く方だと思っていたんだがなぁ…。
「……」
しかしそれはもう置いておいて。
はてさて、一体今何時なのだろう。
時間の感覚がだいぶ鈍ってしまっているから、確認しなくてはいけない。
―今が朝なのか。夜なのか。
「………10時…」
―夜中の。
「……はぁ」
今日こそは朝早く起きて色々したいと思っていたのだが。
今日も今日とて、夜中に目が覚めてしまうのか。
どうやっても、どうあがいても、陽の光が昇っている間は起きて居られないのか。
「……」
主に人間が動いている、蠢いている、太陽の支配する時間には。
生きている価値を見出せなくなってしまってから、息をしていけなくなってしまってから。
あの日から。
ずっとこんな生活が続いている。
「……」
寝ようにも寝られず。
起きようにも起きられず。
「……」
睡魔が襲うのは朝。
気力が沸くのは夜。
昼夜逆転もいいところだ。
「……」
あの日だけではないのだけれど。
それまでの日々の積み重ね。
塵も積もればというやつで。
「……」
頑張ってね―これもよろしく―これは出来た?―頑張っているね―期待しているよ―頼りにしているからね―あれはどうなったの?―扱いやすくて楽だわ―分かってないのかなww―よろしくね―あれとこれも――――
「……」
どんな言葉にも、棘がある。
綺麗な言葉でも、美しい言葉でも。暴言や陰口にはもちろんだが。
それが伝わらないよう、うまく扱うのが人間の得るべきものだと思うのだが。
そうして、その棘にいかに鈍感でいられるかというのも、必要かもしれないなぁ。
―それが上手くできなくて、こんな状況に陥っているのだから。
「……」
生きている意味が見いだせなくなって。
それでもいなくなることは出来なくて。
それができれば苦労しないのになんて思ってしまって。
息をすることが烏滸がましく感じてしまって。
息を止めることもできなくて。
それすらも、申し訳ないなんて思ってしまって。
「……」
他人の視線が嫌になって。他人の声が嫌になって。他人の息遣いが嫌になって。
―自分のことが嫌いになって。声も存在も息をしているのも。何もかもが嫌になって。
「……」
尽きない悩みの種の多さに、疲弊してしまう。
この状況から抜けだそうと願おうにも。
どこかでそれを拒否している自分が居るのだ。
尽きぬ悩みに支配されるような、自分の人生に嫌気がさしているのだ。
「……」
「……」
「……」
「………」
「…………」
「……………」
「……………おきるか…」
今日も、不毛な世界を生きることにしよう。
お題:悩み・言葉・人間