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Question of JUSTICE ~8つの指輪物語~  作者: 瑠璃唐草
第1章 強欲を授かりし者
8/72

元同士と性善説

汝よ――


【本物】の皮を被りし虚像は――


いつ何時も汝の隙を狙い――


爪を研ぎ澄ませている――


其の方は決して鵜吞みにするべからず――


見極める目を養うべき――


その先にこそ――


汝が求む【本物】は存在しよう――


――――――――――――――――――


頭の中で聞こえたあの時と同じ声で、アデラは目を覚ました。

窓からは朝日が差しており、小鳥の(さえず)りも聞こえている。


「ただの夢――じゃない気がする」


一抹の不安を抱きながらも、アデラはベッドから身体を起こし、すぐに身支度を終えると、宿主に御礼を述べて外へ出る。

すると、すぐ傍らにショーンの姿が……


「あっ……ショーン。おはよう」

「あぁ。どうだ? 少しは眠れたか?」

「えぇ、御蔭様で。それより、どうしてここにいるの?」

「アデラ……朗報だ。俺達に協力してくれる者がいるようだ」

「……! 本当に?」

「今朝方こんな手紙が、俺の(ねぐら)に投げ込まれていた」


そう言うとショーンは、懐から便箋を取り出しアデラに渡す。

それを開くと、こんな文章が(したた)められていた。


【親愛なるショーン。現当主・エドガー討伐の噂は予々(かねがね)耳にしている。こちらはその意志に同調している。手を組もう。朝方シモアンティの宿屋にて落ち合おう】


「確かにこれは、私達にとって追い風ね。でも、誰がこの手紙を?」

「筆跡からして、恐らく()()()だと思うが……」

「あいつ……?」


そんなやり取りをしていると、程無くして――


「よぅ、ショーン。暫くだな」

「来たか」


2人の(もと)に、革製の衣服に身を包んだ、茶色の短髪の男が現れる。


「久方振りだな」

「おぉよ。2~3年振りってとこじゃねぇか?」

「ねぇ、ショーン……この人は?」

「手紙の送り主――(かつ)て義賊として苦楽を共にした同士・ロジャーだ」


紹介された義賊の男――ロジャーは、嘗ての同士への挨拶もそこそこに、初めて見る、あどけない印象の残る少女――アデラの方に目を向ける。


「おい、ショーン。その見慣れねぇ妖艶で可愛らしい踊子は何だ?」

「わ、私は踊子じゃ――!」

「アデラっていう棒術師だ。今は臨時で手を貸してもらっている」


彼女の反論を遮って、ショーンが代わりに訂正しながら紹介する。


「へぇ~、棒術師ねぇ……」


ロジャーは舐めるように、アデラの全身を見回す。

羞恥心と不快感が綯い交ぜになり、アデラは頬を(あか)らめて涙目になりながら身体を強張らせる。


「……正直使えんのか、こいつ?」

「傭兵長を含めた4人の兵士を、属性魔法を使わずとも、いとも簡単に薙ぎ倒してしまう程だ。実力は間違い無く本物だ。俺が保証する」

「はあぁ~、そいつはすげぇな。戦力として申し分無ぇ。いいぜ、気に入った。俺はロジャー。元相棒のショーンが世話になるぜ」


ヘヘヘと笑いながら、ロジャーは改めて簡潔に自己紹介する。

対してアデラは「どうも」と一言だけ発して頭を下げる。


「それにしてもショーン、相変わらず変わらねぇな。見た目もライフサイクルも。故郷を大事にしたい気持ちも分かるけどよ、外の世界も案外悪くないぜ?」

「そういうお前はどうなんだ? その外の世界とやらを肌で感じて、何かお前の中で変わったのか?」

「まぁな。お前と競ったスキルもあって、今じゃ30人くらいの部下を従えるようになったぜ。昔取った杵柄から来る人望ってやつ?」

「部下が30人も? お前もなかなか出世したな。俺も鼻が高いよ」


思い出話や身の上話で盛り上がる2人。そんな彼等に其方退(そっちの)けにされてしまっているアデラは辟易して――


「あのさぁ、2人とも~」


呆れたように言い放ち、2人を現実の世界に呼び戻す。


「済まない、アデラ。久々に会えたものだから、つい……」

「懐かしむ気持ちも分かるけど、それは後でも全然出来るでしょ?」

「全くの正論だな……」


気持ちを改めようと、ショーンは軽く咳払いをする。


「ロジャー……手を組もうと手紙に書いたからには、当然俺達が握った秘密(よわみ)とはまた違う情報を持っていると考えていいんだな?」

「勿論さ。その為に、部下達総出でいろいろ仕込んだんだからよ」

「部下達総出って……相当この件に力入れてるのね」

「そろそろいい頃合いだろう。屋敷に行くぞ」


ロジャーはそう言うや否や「早く付いて来いよ」といった感じで、どんどん歩を進めていく。彼に置いてけぼりにされまいと、アデラも小走りで後に続く。

しかしショーンは、僅かな違和感を覚えたのだろうか、そんなロジャーの姿を見て、ほんの一瞬だけ逡巡する。だがそれを振り払うかの如く、彼もまた駆け足で付いて行くのだった。


――――――――――――――――――


「日中は日中で、また不気味な雰囲気ね……」


森の中に存在しているせいか、太陽が出ているにも(かかわ)らず、屋敷は薄暗く異様な湿気が渦巻いていた。


「それでロジャー……お前が掴んだ情報を教えてくれないか?」

「お前が本気でエドガーの首を取ろうってんなら、教えてやってもいいが?」

「その覚悟が無かったら、俺はここには立っていない」

「右に同じく」


2人の答えを聞き、ロジャーは「そりゃそうだな」といった感じでフッと笑う。


「この御殿に惑わされるな。これは所謂(いわゆる)隠れ蓑だ。本丸は別にある」

「別というと、つまりは?」

「実はな……この屋敷には離れが存在して、エドガーはそこを住処にしている。だが離れに辿り着くのは、なかなか至難の業だって話だ」

「どういう事?」

「この屋敷の何処かに、離れへと通ずる地下通路があるらしいんだ」

「だがその地下通路の場所は、エドガーとその取り巻き以外に知る者はいない――と言ったところか、ロジャー?」

「それだけじゃねぇ。ああ見えてエドガーは、異常な程警戒心が強くてなぁ、よっぽどの事が無ぇ限り、正面の扉の鍵が開く事は無ぇらしいぞ? 若しかしたら、地下通路も罠だらけかもしれねぇな」

「そうか……なら、別のルートを探るしか無さそうだな」


2人の義賊の男が作戦を考えている間、何かを感じ取ったのか、ふとアデラは正面の扉に近付き、取っ手に手を掛ける。


「……あれ?」

「どうした、アデラ」

「鍵……開いてるんだけど?」

「何?」


2人が扉の方に目を向けると、確かに彼女によって扉が開かれていた。


「鍵を掛けないなんて……警戒心が強い割には随分と無防備だな」

「そうね……何かの罠かもしれないわ」

「まぁでも、手間が省けたし、俺達はその隙を突いていくだけだ。行こうぜ」


不審に思う2人とは裏腹に、ロジャーは他のプランを考えなくて済んだと――ラッキーだったとしか考えていないようだ。

兎にも角にも、3人は屋敷内へと進入していった。


入ってすぐにある、昨夜のパーティ会場となっていた大広間を横目に、3人は屋敷の奥へと進んでいく。

すると正面に、この先は立入禁止だと言わんばかりの、怪しげなポールパーテーションが設置されているのが見えた。

無論3人は、それを跨いで更に進んでいく。

その時、彼等の視界に、煌びやかな彫刻が施された巨大で重厚な扉が姿を現した。


「この扉……如何にもって感じね」

「そうだな」

「よっしゃ、こいつも開けるとするか」


早速ロジャーが扉の取っ手に手を掛けるが、全体重を乗せて押しても、力任せに引いても、扉はビクともしない。


「う~ん、ダメだな。さっきと違って、こいつは厳重に鍵が掛けられてやがる」

「あのエドガーの事だ。この屋敷の何処かに鍵を隠しているに違いない」

「そうね。隅々まで探してみましょう」


正規のルートへと戻った3人は、その先にある階段を上がっていった。

2階は廊下が長く続いており、その傍らにいくつもの部屋が連なっている。

彼等は一部屋ずつ中に入るや否や、(しらみ)潰しに鍵を探す。エドガーの用心深さを考慮し、椅子やテーブルの裏側などといった、普通であれば絶対に考えもしないような箇所も入念にチェックする。

そして、大人数用の応接間と考えられる部屋を捜索していた時、引き出しの中を探っていたアデラが何かを発見した。


「あっ……!」

「見つけたか?」

「若しかして、これじゃない?」


彼女の手には、複雑な凹凸が施された鍵が握られていた。

デザインが至ってシンプルである事、あまり手が付けられている様子が無い事から、恐らく合鍵だと見られる。


「可能性はあるな。これで別館へ行けるかもしれない」

「なら善は急げよ。扉の所に戻りましょう」

「あぁ」


2人は鍵を手に、部屋から出ようと出入口の扉へと向かう。

だがその時、バンッと大きな音を立てて扉の面を強打する手が現れ、程無くしてその手の主が徐に扉の前に立つ。

まるで、2人を例の場所に行かせまいと通せんぼするかの如く……


「どうした、ロジャー? 早くあの扉を――」

「なぁ、ショーン……1つ確認したいんだが……」

「確認……?」

「あの侯爵を葬ったら、一体誰がこの街を仕切るんだ? 仮にお前だとして、俺にどれぐらいの報酬を与えてくれるんだ?」

「こ……こんな時に、突然何を言い出すの?」

「これは最重要事項だ。この世は誰と手を組むかで、天国か地獄かが決まる。もしこの場に()()()がいたら、間違いなくこう言うだろうなぁ……『私に従えば、あなたが望むだけの報酬を与えて差し上げましょう』――って」


そう言って扉を開けると、そこからロジャーの部下と思しき男達が十数人程入室してきた。その目には、明らかに2人への――特にショーンに対する――敵対心が宿っていて、手には短剣が握り締められている。


「あっ……!」

「ロジャー……これはどういうつもりだ……!?」

「おい、ショーン……お前は馬鹿か?」


指で自分の頭を差し、口を三日月の形にして冷笑(せせらわら)うロジャー。


「これは全部命令なんだよ。お前を屋敷内に(いざな)い、頃合いを見て全員で容赦なく殺せという、エドガー様からの……」

「……っ!?」

「嘘……買収されてたって事……!?」

「何故だ……何故なんだ、ロジャー……!? お前はあんな悪人に(くだ)るようなタマじゃないだろ……!? なのに、何故こんな真似を……!?」

「悪人……? ククククク……! 冗談きついぞ、ショーン。エドガー様は俺に無い物を全て与えて下さった、言わば恩人だ。そして悟ったのさ。この世は富や名声さえあれば、人間の心も思うが儘に扱えるってな」

「それはとんだ間違いだ、ロジャー……! 富や名声なんかよりも、心を動かせるものがある……! 俺はそれを、お前にも与えてやれるんだ……!」

「そんなクソみてぇな常套句……もう聞き飽きたんだよ……! エドガー様に逆らうお前は、俺が消してやる……あの世で悔やみ続けやがれ、ショーン!!」

「ショーン、来るわよ!」


2人は透かさず武器を手に取り、襲い掛かるロジャー一味に対抗していった――

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