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集められた大罪

オーシェンウーカの宿屋で一晩休息を取ったアデラは、翌朝窓から見える銀世界の煌びやかさで目を覚まし、ベッドから起き上がる。

すぐに身支度を済ませ、7人と共に宿を後にしようとする。


「おい、嬢ちゃん。ちょっと待ってくれ」


その時、宿の受付の男が突然呼び止める。


「私ですか?」

「おぅ、確か名はアデラとか言ったか?」

「はい、そうですけど……」

「今し方ここを訪れた人から、お前さん宛ての手紙を預かってるんだ」

「手紙?」


男が差し出してきた1枚の紙切れを、アデラは恐る恐る受け取る。


「これは……一体誰が?」

「さぁ……? 名乗りもしなかったし、顔もフードで隠れてたから、何処の誰かまでは……声からして男の人だったのは間違いないがな」


アデラは御礼を述べて宿を後にし、渡された紙切れを開く。

そこにはこのような言葉が(したた)められていた。




汝よ……【正義に選ばれし者】よ――


私は常に其の方の行く道を見てきた――


其の方が何を思い、何を望み、何を成すのかを――


そして、汝は遂に導いたのだ――


私を長年の問いの答えへと――


改めて礼を言おう――




汝よ……【正義に選ばれし者】よ――


其の方をミーナケネッグの祭壇にて待つ――


今こそ……全ての真実を打ち明ける時――




「全ての真実を……打ち明ける……」


内容からして、彼女達にとって非常に重要な事柄である事は間違い無いだろう。

しかし同時に、この置手紙を残していったのは何者なのか、そこが最も気掛かりとなっているのもまた事実である。


「名前は……やっぱり書かれてないわね……」

「でもアデラさんの事を【正義に選ばれし者】と呼んでいるという事は……」

「アデラ君が【正義に選ばれし者】だと知っている人か……」

「【正義】の指輪をアデラさんに与えた張本人かのどちらかですよね……」

「だが、そいつに扮して書かれた偽物って可能性も否定出来ないぞ……これが7つの指輪が集まった直後に送られてきたというのは、あまりにもタイミングが良過ぎはしないか……?」

「確かにね……この文章、あたしからすれば、まるでアデラが指輪を全部集める事を初めから知っていたんじゃないかって感じがするんだよねぇ……」

「私も罠かもしれないという意見には賛成よ……でもどちらにしても、指輪の封印の為に、ミーナケネッグには足を運ばないといけないわ……」

「俺達に待ち受ける者の正体は、行ってみなけりゃ分からねぇ、か……正に鬼が出るか(じゃ)が出るか、だな……」


何者かに嵌められているかもしれない……そんな疑念を抱きつつも、7つの指輪をあるべき場所に納める為、ミーナケネッグの祭壇へと向かうのだった。


――――――――――――――――――


アデラ達は指輪を封印する為に、山間に位置する祭壇を目指してミーナケネッグの山道を上っている。

ショーン曰く、ミーナケネッグは神々の指輪が封印されている場所として、(いにしえ)より霊山として大陸中の人々に崇められているそうだ。

だが、視界に飛び込んでくる風景は、霊山とは程遠いものだ。

碌に雨も降っていないのか、土壌は酷く痩せこけており、雑草1本すら生えておらず、僅かな太陽光をも遮られ、今にも雷鳴が轟かんとしている程の厚い黒雲が天空を覆い尽くしている。


「神聖な土地……って感じはしないわね……」

「5年前とは随分と空気の張り詰め方が変わってるな……」

「この前見たイヮノッヒの火口下の神殿の門じゃないですけど……かなりおどろおどろしい雰囲気が、其処彼処から漂ってますね……」

「【正義】の指輪が無ければ入れないと戒められるのも頷けるね……」


この地特有の重苦しい雰囲気に圧倒されそうになりながらも、アデラ達は指定された待ち合わせ場所――祭壇へ向けて歩を進めていく。


暫くすると、突如として視界が開けた場所に出る。

そこには巨大な盃のような形をした祭壇と思しき物体が鎮座していた。


「誰もいない……」


手紙の送り主はこの場所で待っているという旨を記していた筈なのだが、そこには人影一つ存在していない。

不審に思いながらも、アデラ達は祭壇へと歩み寄る。


「この中に指輪を入れる……って事で良いんですよね……?」

「ここに祭壇があるって事は、そういう事でしょうね……」

「よしっ……アデラ、頼んだぞ……」

「えぇ……」


アデラは7つの指輪を祭壇の中へ納める。

暫くすると、指輪は互いに共鳴し合うかのように、僅かに赤い光を放ち始める。

これで指輪達は封印され、再び永き眠りに就く――筈だった。


だが、その時……




邪黒炎よ――


大罪を焼き祓いし【本物】の炎よ――


偽りの青き炎に魅せられし欲深き人間共の生を放棄させ――


我が下僕と……亡者と化さん――




突然アデラ達の頭の中に禍々しい声が響いたかと思うと、周辺の土壌がうねりを上げ始め、程無くして漆黒の炎と共に、人間とは似ても似つかない――ゾンビのような存在が大量に出現し、彼女達に襲い掛からんとしている。


「い、今の声は……!? それに、この存在は一体……!?」

「分からないけど……私達にとって良い事で無いのは確かなようだ……!」

「兎に角、場違いな存在には即刻退場願おう」

「全くだよ……迷惑な客なんて、こっちから願い下げだね……!」


アデラ達はすぐさま各々の武器を取り出し、戦闘態勢に入る。

クレオが糸で動きを封じつつ火属性攻撃で敵の皮膚を爛れさせ、ショーンの短剣とジュノの槍や斧で深手を負わせ、止めとしてエルベルトが光属性を纏った剣で一気に浄化させる。

片や、ウルスラが痺霞扇(ひかせん)を用いて敵から自由を奪い、ティアナの風属性魔法とアイザックの水属性魔法で力を浄化させ、アデラの棒術を以て蹴散らしていく。

8人の怒涛の攻撃を受けた不気味な存在達は、次々と力尽きて倒れ込み、程無くして漆黒の炎と共にその場から姿を消す。

完全に消失したのを確認し、アデラ達は武器を収める。


「一先ず全て消滅させられましたね……」

「それにしても、今のは一体……とてもこの世のものとは思えないわ……」

「魑魅魍魎や異類異形とは明らかに違うよな……」

「それと、さっきの声……邪黒炎が【本物】の炎って――」


アデラがそう言い掛けた時、後方から彼女達への礼賛の意を表するかのように、何度も大きな柏手を打つ音が響き渡る。

振り返ると、オフホワイトカラーのマントを羽織って水色の長髪を靡かせる、見覚えのある1人の男が佇んでいるではないか。


「ホーヴァン……?」

「見事だ……実に素晴らしい……」


褒め称えるような言葉を口にするホーヴァン。しかし、その目元は前髪で覆われ、冷笑(せせらわら)うかのように口角が吊り上がっている。


「其方達の成長には心底驚かされる……まさかここまでの実力を……()()()()()()亡者達を、いとも簡単に浄化させてしまうとはな……」


彼はそう呟きながら、アデラ達には目も()れずに祭壇へと歩み寄り、左手で中に納められた7つの指輪を掴む。


「懐かしいな……()()()と変わらぬ赤き輝き……」

「懐かしい……? ホーヴァン、この場所には入れない筈じゃ――」

「ちょっと待ちな」


違和感を覚えたクレオが、アデラの言葉を遮り、ホーヴァンに問い質す。


「あんたさっき『私が厳選した亡者達』ってはっきり言ったよね? という事はつまり、さっきの化け物はあんたが召喚したって事になるけど……何でそんな馬鹿げた真似を? 何が目的なんだぃ?」


彼女にそう言われても微動だにせず佇むホーヴァン。だがその鼻からは、笑いを堪えるかのような僅かな息が漏れ、肩も微かに揺れている。


「何がしたいんだぃ? 答えな! そもそも何であんたがここにいる!?」

「ククククク……!」


堪え切れなくなったのか、静かではあるが不気味な笑い声が漏れ出す。それは8人に対する、憐れみと侮辱の念が綯い交ぜになっているように聞こえなくもない。


「まさか……さっきの声や、あの手紙の送り主は――」

「ハハハハハハハハハハハハ!! ハハハハハハハハハハハハ!!」


とうとうホーヴァンは天を仰ぎながら哄笑し始める。

これまでの彼からは想像も付かない、耳を(つんざ)く程の高笑いに、アデラ達は一種の恐怖さえ覚える。


そして一頻(ひとしき)り笑ったホーヴァンは、不意に俯くと――


「そうだな……折角ここに()()集まっているのだ……最早話さないという選択肢は存在しない……察しての通り……私がここにいるのは、其方達に真実を打ち明ける為などではない……私の目的は()()()()ただ1つ……」


そう呟いて徐に振り向く。

その睨み付けるような()()()の三白眼は、禍々しい憎悪で満ち溢れていた――


()()()()()を粛清する為だ……」

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