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Question of JUSTICE ~8つの指輪物語~  作者: 瑠璃唐草
第7章 怠惰を授かりし者
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フェネクス・ユーゼフ

「いつもの化け物じゃ……ない……!?」


神殿の奥部に降臨した巨大な存在の、これまで闘ってきた指輪の元持ち主達とは一線を画す容姿に、アデラ達6人は各々の武器を構えながらも目を張り、その神々しささえ覚えかねない全体像を見上げる。

背中に不死鳥(フェネクス)を彷彿とさせる翼と後光を携えた筋骨隆々の姿……

ユーゼフは満足気に「ククククク……」と含み笑いを漏らす。


「力が漲る……! 神としての【本物】の力が……!」

「この圧力は……正に神そのもの……! まさか私達は、彼を食い止められなかったというのか……!?」


歯を食い縛るアイザック。その心情は絶望に支配されようとしていた。


「いいえ、そんな事はありません!」

「そうです、まだ終わってなどいません!」


しかしティアナとエルベルトが、そうはさせまいと鼓舞する。


「愚者共、喜ぶがいい……! 【本物】の神に謁見出来たんだからな……! そう案ずる事は無い……僕が裁きを下してやる……!」

「……【本物】の、神?」


静かな怒りを湧き上がらせるような低い声を漏らすホーヴァン。


「裁きを下す、だと? 否……貴様は神などではない……! この世にあってはならぬ邪悪な存在……! これ以上、己の【欲望】で人間を弄ぶな!」

「ククククク……理想論を振り(かざ)すか、死に損ないが……人の身でありながら、神に逆らおうとは……その希望とやらと共に消え去れ……! 身の程を知るがいい、愚者共がぁ!」


ユーゼフが雄叫びを上げると、次の瞬間、アデラ達は得体の知れない何かに圧し潰されそうになる感覚を覚え、苦悶の表情を浮かべながらその場に跪いてしまう。


「な……何で……!? 身体が……思うように、動かない……!」

「何なんですか……!? この、地面に引っ張られるような感覚は……!?」

「まるで、人間の(だる)さの骨頂を具現化されているようです……!」

「怠さ、か……なるほど……どうやら奴は【怠惰】の力を最大限に引き出した事で、重力をも(ほしいまま)に操れる存在になったようだ……!」

「何だよ、それ……!? こんな耳取って鼻かむ事さえも、神だったら赤子の手を捻るようなもんだって言うのか……!?」

「これこそが、人知を超えた……神をも凌駕する力なのか……!?」


立ち上がろうにも、通常の何倍もの重力が掛かっている状況では、抗い切れずに伏せてしまうのも時間の問題だ。


「レ……香よ、皆の者に蘇生を(レスタウロ・オドール)……!」


圧倒的不利な状況を何とか打破せんと、アデラは棒の先端を上に向け、香属性魔法の呪文を唱える。

だが放たれた桃色の光の玉は、粒子となる前に砲丸の如く落下し、地面に叩き付けられるとそのまま消失してしまった。


「そんなっ……! 魔法が、使えない……!?」


前代未聞の事態に、アデラの表情にも絶望の色が見え始める。


「悪足掻きは止めろ、愚者共……人の扱う魔法など、神の前では無力……! 僕には掠り傷一つさえ付けられない……! 愚者は愚者らしく、そうやって神の前で平伏しているのがお似合いだ……!」


己に逆らえる者などいない――そんな高揚感に満ち溢れ高笑いをするユーゼフ。

そんな彼に、再びホーヴァンは静かな怒りを湧き上がらせ――


「我が炎を侮るな……!」


剣に青い炎を纏わせるや否や、徐に立ち上がり――


「我が名は聖炎環護長・ホーヴァン……神々の力が宿りし指輪を守護する天命を授かりし者なり……! その指輪は返してもらう! 【正義に選ばれし者達】よ、闇に囚われるべからず!」


剣先を天へ向けて突き上げる。

するとどうだろう、自分を含めアデラ達全員の身体が一瞬眩い光に包まれ、重力に圧し潰されそうになっていた感覚は完全に消失したではないか。


「身体が重くない……立ち上がれる……! 有難う、ホーヴァン……!」

「礼など良い……! 兎にも角にも、奴を止めるぞ……!」


ホーヴァンの機転で想定外の事態を脱したアデラ達。動きが封じられなければこっちのものだと言わんばかりに、臆せずユーゼフを迎え撃つ。

ジュノの弓・槍・斧、ティアナの風属性魔法、アイザックの水属性魔法、エルベルトとホーヴァンの剣、そしてアデラの棒術と6つの属性魔法……

6人全員が各々の得意とする攻撃で、ユーゼフに付け入る隙すら与えない程の猛攻を仕掛けていく。


「忌々しい……! 遊びは終わりだ……死ねぇ!」


だが痺れを切らしたかのように叫んだかと思うと、ユーゼフは右手に邪黒炎を宿らせ、アデラ達目掛けて殴り掛かってくる。

その巨大な拳を避ける術など存在せず、彼女達は断末魔のような声を上げながら大きく吹き飛ばされる。

しかしホーヴァンだけは、己の剣のみで力強く受け止め、何とかその場に踏み止まっている。

その姿が面白くないユーゼフは――


「ホーヴァン……随分としぶとい奴だ……貴様の偽りの血も、闇へと葬り去ってくれよう……! その忌々しい炎と共になぁ!」


眉間に皺を寄せながら叫ぶや否や、止めを刺さんとばかりに、己の身体の中央へ邪黒炎の力を集結させていく。

だが、ホーヴァンも負けじと鋭い眼光で睨め付け、剣に青い炎を纏わせると――


「黒き炎を纏いし邪神よ……敢えて言わせてもらう……何度闇に覆われようとも、我が炎は決して潰えぬ! 全ての【欲望】をこの世から消し去るまではな! 聖炎の導くままに!」


両手を強く握り締め「ウオオオォォォォ!!」と叫び、力の限り剣を振り下ろす。

すると、集められていた邪黒炎の力が、一気に霧散していく。

だがその攻撃によって、己の力を殆ど使い果たしてしまったのか、肩で息をしながら苦悶の表情を浮かべてその場に跪く。


「【正義に選ばれし者達】よ……後は頼む……炎と共に進むのだ……!」


僅かな青い炎が纏った剣を天へ向けて突き上げると、アデラ達5人の身体が一瞬光に包まれ、全員の傷が癒え、体力も完全に回復したのだ。


「2度も助けてくれて……この借りは必ず返すわ……!」


ホーヴァンにそう言葉を残し、アデラは4人と共に再びユーゼフの許へ迫る。


「無駄な足掻きを……愚者の分際でぇ……!」

「……ちが……の」

「何……?」

「どっちが愚者なのかって聞いてんのよ!」


己の価値観こそが世の常識であり【正義】だと妄信する者への怒りから来る強烈な言葉に、ユーゼフは一瞬動きを止める。


「確かに人間は脆弱なのかもしれない……時には人としての心を失って、【本物】の愚者に成り下がる事もあるかもしれない……でも、それでも人は、いつでも【本物】の心を取り戻す事が出来るの! 犯した過ちを反省して、逆風に抗って、地道に信頼を積み上げていける人は、決して愚者なんかじゃないわ! 祖父の復讐の為に人の心を手放して、指輪の力に頼って自分を神の申し子だと宣って、崇め奉る人達の命を無駄に献上させる……そんな惨たらしい事を平然と行うあんたの方こそ、救い様の無い愚者よ!」


棒を強く握り締め強い言葉で糾弾するアデラと、彼女に同調するように各々の武器を構えて睨み付ける4人の同志。

そんな彼女達に対してユーゼフは……


「【正義に選ばれし者】……そこの死に損ないと同じ道を歩みたいようだな……大人しくセルバンテス家の血の譲渡を黙認していれば、少なくとも命は見逃してやるつもりだったが……なるほど、最早手抜きは無用という事か……ならば望み通り、僕が天誅を下してやろう……!」


神である自分に、言葉でも行動でも歯向かってきている事に、怒りあるいは呆れの感情が滲み出たような引き攣った笑みを浮かべると、先程とは比にならない程の強力な邪黒炎を右の拳に宿らせ、5人を圧し潰さんと途轍も無い速さで殴り掛かる。


その時、アデラの指輪が一瞬青く発光したかと思うと――


「うぐっ……!? ぐゎああぁぁ……!」


ユーゼフは突然苦悶に満ちた表情を滲ませる。

更には全身の骨が軋んでいるかのように、あるいは五臓六腑が暴れ回っているかのように、身体中が激しい痙攣を起こしている。


「な……何、突然……?」


これまで余裕に満ちていた筈のユーゼフの変貌ぶりに、アデラは目を丸くする。

すると彼女の目の前に、緑色に輝く光の玉が浮遊しながら出現した。その周りでは細かい粒子が微風のような動きを見せている。


「これは一体……? 心做(こころな)しか涼しさがある感じ……」

「あの光は……!」

「やはりそういう事か……!?」

「ですよね……!?」

「あぁ……十中八九間違い無ぇ……!」

「私と同じソウルです……!」


アデラ以外は、その光の玉に心当たりがあるようだ。取り分けティアナは、自分の能力と同じ物である事を確信していた。


「アデラ君……それは(ヴェントス)のソウルだよ……!」

(ヴェントス)のソウル、ですか?」

「風属性魔法を扱う資格のある者が得られる、風属性の精霊だ……!」

「風属性って……ティアナさんが使ってる魔法じゃ?」

「【正義に選ばれし者】アデラよ……まさか其方は【正義】の指輪のみならず……【エレメント・マギア】の才まで取得していたというのか?」

「エレメント・マギア?」

全属性駆使者(エレメント・マギア)……嘗て7つの属性魔法全てを習得し、人々からそう呼ばれ崇められていた者が存在していたと、この大陸に纏わる伝説として古来代々語り継がれている……だが私自身――否……生きとし生ける者全てが、単なる迷信だと思っていただろうが……まさか現代に存在していたとは……」

「私が……クォージウスの伝説・全属性駆使者(エレメント・マギア)……?」


そこまで言い掛けた瞬間、緑色の光の玉もとい(ヴェントス)のソウルが、彼女の目の前で細かい粒子となって弾け、彼女の持つ棒が、微かに一瞬緑の光を発した。

アデラはその力を受け入れるように、棒を強く握り締めると、悶絶しているユーゼフを鋭い目で見上げるや否や、透かさず棒の先端を彼の方へ向け――


風よ、彼の者に調和を(コンキノ・ヴェントス)!」


頭に浮かんだ新たな属性魔法の呪文を唱え、棒の先端から緑色の光の玉を放つ。

放たれた光はすぐさま音速程度の速さに達し、ユーゼフを巻き込みながら凄まじい旋風(つむじかぜ)へと変化する。


「や……止めろぉ……!」


風属性攻撃に曝されているユーゼフ。よく見ると、その右手に宿る邪黒炎の勢いが徐々に弱まっていっている。


「邪黒炎が……矮小化してる……?」

「なるほど……【正義に選ばれし者】アデラの風属性魔法によって、奴の神としての力の源――歪んだ【正義】の心を浄化しているという訳か……!」


その言葉を聞き、同じ風属性を持つティアナがアデラの隣に立ち――


「アデラさん、加勢します! 風よ、邪心を清めよ!」


己の魔法攻撃と合わせて、浄化の力を強化する。

するとどうだろう、邪黒炎の勢いは見る見る内に弱化していき、遂には完全に消失し、2度と生み出されなくなってしまったではないか。

有り得ない状況に、今度はユーゼフが絶望の表情を露わにする。


「馬鹿な……! 僕は……神の筈、なのに……!」

「おい、()神様よ……」


己を挑発するような声に反応しその方を向くと、既に矢を3本番えた弓を引くジュノの姿が……


「これまで随分と夜郎自大(やろうじだい)な態度を晒してきやがったが……世の中ってのはな、日中(ひちゅう)すれば(かたむ)き、月()つれば()くのが常なんだよ!」


直後に放たれた矢は、全てユーゼフの心臓部を貫く。


「光よ、我に征する力を!」


そして駄目押しとして、エルベルトが剣に光属性魔法を宿らせ、その胴体を真っ二つにせんと、力強く剣を振り下ろす。


神としての力を浄化され、身体も自尊心も傷付けられたユーゼフは、墜落して地面に叩き付けられ、痙攣を起こしながら倒れ込む。


「皆、後は私がっ……!」


するとアイザックが声を上げ、手にしている魔導書を徐に閉じ、ユーゼフの許へと歩み寄っていき――


「ユーゼフ……私は神の存在については、肯定も否定もしない……だが、もし私の前に【本物】の神が現れて啓示を与えてきたとしても、私は決して鵜呑みにはしない……それが【本物】の【正義】によるものなのか、あるいは歪められた【悪】なのか――私は常に熟考し裁量するよ……そしてそれは、人間なら誰にでも与えられるべき権利だ……それを犯す事は断じて許されない……例え【本物】に()()()()()神であってもね……!」


眉間に皺を寄せて奥歯を噛み締め、人間の良心に訴えるような言葉を発すると、魔導書の角を力強く脳天に叩き付けた――

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