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Question of JUSTICE ~8つの指輪物語~  作者: 瑠璃唐草
第7章 怠惰を授かりし者
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蘇りしスロウスベルフェゴール

「これが……封じられし神……!?」


石化から解放され蘇った禍々しい姿の神。

熊のような胴体と牙を持つが、頭部から生えている角は牛のそれに酷似しており、逆立った(たてがみ)驢馬(ろば)を彷彿させなくも無い。手から伸びた長い爪は樹懶(なまけもの)を連想させ、背中の甲羅は蝸牛(かたつむり)のそれと瓜二つと言ってもいいだろう。

アデラ達から見れば、その姿は最早神などでは無く、言うなれば邪神――悪魔が神格化されたものであろう。


「【正義に選ばれし者達】よ……今一度言うが、あれはただの紛い物に過ぎぬ……すぐに片付けるぞ……!」


ホーヴァンが剣を構えながら発破を掛ける。

と、その直後、邪神はアデラ達の姿を見るや否や消魂(けたたま)しい咆哮を浴びせてきた。

立っているのがやっとという程の衝撃波に、アデラ達は一瞬怯んだものの、咆哮が治まるとすぐに臨戦態勢に入る。

ところが、ティアナとアイザックに異変が……


「杖が……消えた……!?」

「魔導書の文字が……無くなってる……!?」


前代未聞の事態に見舞われ、息を呑み愕然とした表情を露わにする。


「俺の弓に雷が宿せねぇ……!」

「僕の剣にも光を宿す事が出来ません……!」

「私の棒に宿っていたソウルが、全部消えてる……!?」


2人に続き、ホーヴァンを除く3人もまた己の身に起こっている不可解な事態に目を白黒させている。


「なるほど……どうやら奴には、相見(あいまみ)える者の属性魔法を封じる力が秘められているようだな」

「嘘だろ……!? 何て残酷非道な……!」

「咆哮で属性魔法を封じるとか……そんなのアリですか……!?」

「でも属性魔法が主力の2人の戦力が削がれるのは、流石に分が悪いわ……!」


思いも寄らぬ妨害に、その場にいる誰もが眉間に皺を寄せる。

そんな中、ジュノは「チッ!」と舌打ちをしながらも――


「ティアナ! アイザック! これ使え!」


所持している槍と斧を手に取るや否や2人に投げ渡す。


「ジュノさん?」

「瑠璃も玻璃も照らせば光るものだ……! お前等には武術の才能もあるって、俺は信じてるぞ……!」

「済まないね、ジュノ君……この借りは必ず返すよ……!」


武器を借りたティアナとアイザックを加え、改めて邪神に立ち向かうアデラ達。

だが武術で対抗する為には、相手に近付かなければならない。

邪神は屈強な腕と、手から伸びる長い爪、そして消魂しい咆哮を用いた広範囲且つ素早い攻撃を繰り出してそれを阻害し、付け入る隙を与えない。

途中何度か攻撃を与える事は出来たものの、岩のように頑丈な邪神の身体には、ほんの僅かな傷跡が浮かび上がる程度で、全くと言っていい程痛痒を感じていない。

()()()である筈なのに思わぬ苦戦を強いられ、アデラ達は肩で息をする程までに体力を削られていた。

その時、痺れを切らしたジュノが――


「この野郎……!」


悪足搔きをするように矢を放つが、コントロールを失ってしまっているのか、矢は邪神の身体の横を擦り抜けていってしまう。

ところが、それが背中の甲羅を掠った瞬間、邪神が突然威嚇とは異なる――悶絶に似た咆哮を上げる。


「甲羅か……! そこを突けば……!」


邪神の弱点を見抜いたホーヴァンが、アデラに向けて声を上げる。


「【正義に選ばれし者】アデラよ、奴の泣所は甲羅だ……! 其方の棒術を以て、奴の甲羅を叩き割ってやれ……!」


アデラは助言を受けて頷くと、邪神ですら届かない程に高く跳躍し――


「はあぁー!!」


大きく振り被った棒を、甲羅目掛けて一気に叩き付ける。

邪神の甲羅に次々と(ひび)が入り、一部はガラガラと音を立てて崩れている。

すると、アデラが持つ棒が一瞬6色の微かな光を放つ。

彼女がその光を目視すると――


「ソウルが戻った……! これで属性魔法が使えるわ!」


と、感嘆の声を上げる。

それに反応したティアナが、透かさず「風の精霊よ、集え(レゴ・シルフ)!」と叫ぶと、手元に緑色の光の粒子が次々と集まり、普段使い慣れている杖を形成した。

アイザックもまた、己が持つ魔導書を開き、消失していた文字が復活しているのを確認し、僅かに口角を上げる。

その時、悶えていた邪神が、属性魔法が復活したアデラ達の姿を捉え、再びそれを封じる為に咆哮を浴びせようとする。


「させぬっ!」


だが、瞬時に斬り掛かったホーヴァンによって阻害されてしまう。


「水龍よ、砕き散らせ!」

「風よ、吹き荒れよ!」

(いかづち)よ、貫け!」

「光よ、我に征する力を!」

闇よ、彼の者に惨禍を(メルム・テネブラエ)!」


直後に、これまで封じ込められていた仕返しと言わんばかりに、アデラ達は立て続けに魔法攻撃を浴びせていく。

間髪入れずに属性魔法――特にアデラの闇属性攻撃――を受けた事で、邪神の身体は既に石化されていた時の原型を留められなくなっている。

これを好機とばかりに――


「後は私に任せろ……!」


そう声を張ったホーヴァンが前に出てきて――


「青く清き炎は己が魂、己が守り人……邪な大罪を焼き尽くせっ!」


決まり文句を叫びながら、構えた剣を斬り付ける。

邪神の身体に浮かび上がった傷跡から、澱んでいた悪霊の集合体が一斉に浄化されていくかのように、眩い閃光が放たれて辺りを照らす。

暫くして光が治まると、邪神は跡形も無く消失していた。

一時の静寂に包まれた中で、ホーヴァンは静かに剣を鞘に納める。


「【正義に選ばれし者達】よ、全員無事か?」

「えぇ、何とかね」

「なかなか手強かったですね……」

「全く、俺達はこんな所で道草食ってる場合じゃねぇってのに……!」

「思わぬ足止めを食らってしまったね……急ごう……!」

「はいっ……!」


アデラ達は逸早くユーゼフがいる最奥部へ向けて駆け出していく。

そんな中、ホーヴァンはただ1人険しい表情で立ち尽くし――


「【如何なる絶望の中にも、希望の光は差す】……このような状況でも、其方はそう言うだろうか……()()()()よ……」


その場にいた誰でもない名の者に向けた言葉を呟いた後、アデラ達の後を追い掛けるようにその場から立ち去った。


――――――――――――――――――


時を同じくして、黒い炎が燃え上がる祭壇が鎮座する神殿の最奥部にて、ユーゼフによって連れて来られたカレンが、徐に目を開ける。


「あれ……? ここ、は……?」

「漸く意識が戻ったようだな……」


声のした方を向くと、そこには見慣れた顔でありながら、従来の神官とは明らかに異なる雰囲気を纏った男の姿があり、彼女は一瞬目を丸くする。


「え……? ゼフさん……?」

「違うな……僕はユーゼフ……人間共に裁きを下す者だ……」

「何を……言って――」

「カレン……この時を待っていた……長い間、ずっとな……」


禍々しさを伴った笑みを浮かべ、昂った様子のユーゼフ。

しかし、直後にこちらへ駆け付けて来る大きな足音が聞こえ――


「チッ……! まだ追って来るか……」


表情を歪めながら舌打ちをする。


「愚者共……貴様等はいつまで戦う?」

「無論、この大陸から邪悪が失せるまでだ……!」

「邪悪だと? どの口が言う? その剣を向ける相手が僕だと言うのか?」

世迷言(よまよいごと)を……神の真似事は終いだ。指輪を渡し、その娘も解放しろ……!」

「何度乞おうと僕の答えは変わらない……儀式に欠かせない贄だからね……」

「贄、だと?」

「彼女は正統な血を引いているんだ……セルバンテス家一族のね……」

「セルバンテス家って……さっきアイザックさんが言っていた――」

「……っ!?」


突然目を見開いて、動揺を露わにするアイザック。


「まさか、ユーゼフ……君は……!?」

「おい……どうした、アイザック? 急に青褪めて……」

「思い出したんだ……! セルバンテス家のもう1つの顔を……!」

「もう1つの……顔……?」

「セルバンテス家は、大陸の守護者であると同時に、神の身体の一部となる素質を持つ一族でもあるんだよ……!」

「神の身体の一部って……それじゃあ、彼女は……!?」

「カレン……そんなの……嘘、ですよね……?」

「……」


口を噤み俯くカレン。その仕草は最早、無言の肯定に他ならない。


「やはり君は博識だね、アイザック……僕はずっと聖なる血を引く人間を捜し彷徨(さまよ)っていた……そしてとうとう見つけたんだ……リンゼイ・セルバンテスの隠し子である一人娘――カレンをね……! それを突き止めた後は、彼女の傍らで機を待ち続けた……【禁忌の儀】を完成させる為にね……!」


そう言ったユーゼフが掲げた採炎燈に納められている炎は、黒く染まっていた。


「黒き……炎……!?」

「故に、誰一人として邪魔はさせない……!」


そう言って採炎燈の囲いを徐に開き、中の黒い炎――邪黒炎を手にする。


「皆の者、下がれ!」


アデラ達を引かせ、1人青い炎を纏った剣を構えるホーヴァン。


「まだその炎で抗うか……あの時と同じように覆われるのがオチだ……!」

「青く清き炎は己が魂、己が守り人!」


そう叫び剣を振り下ろすが、邪黒炎で造られたバリアによって阻まれてしまう。

それでもホーヴァンは、バリアを破らんと、己の持つ力を一気に解放する。

相反する炎が、激しい火花と衝撃波を起こしながら交錯する。


「ウオオオオオオォォォォォォォ!!」

「……無駄だよ」


ユーゼフが冷笑(せせらわら)うように言い放つと、次の瞬間、弾き飛ばされるように青い炎が霧散し、力の源を失ったホーヴァンはその場に跪いてしまう。


「うっ! ぐぅっ……!」

「ホーヴァンと言ったか……貴様如きが僕に勝てると思ったか? ()()()()が流れていないその身でか? ククククク……愚かだ……実に愚かなり……灰になるのは貴様の方だ……!」


口を三日月型にして、再び邪黒炎を右手に宿らせるユーゼフ。


「ククククク……黒き炎は己が魂……邪な大罪を焼き尽くせ……!」

「ホーヴァン……!」


邪黒炎はその勢いを増していき、今にもホーヴァンに向けて放たれんとしている。

だが、その時だった。


「そんな事は……断じてさせない……! 如何なる絶望の中にも……希望の光は必ず差す……!」


事の成り行きを見守っていただけのカレンが、祈りを捧げるように瞑想すると、彼女の身体がほんの僅かに青白く発光し、それに呼応するかのように、アデラの指輪も同じように青い光を放つ。


「アデラ君の指輪が……!」


するとホーヴァンの剣に、失われた青い炎が再び力強く宿る。


「アデラさん……やはり【本物】の【正義】は、あなたの手に……!」


そして「はあぁっ!」という威勢のいいホーヴァンの声と共に、青い炎を纏った剣が振り下ろされ、邪黒炎は掻き消された。

ユーゼフは目の前で起こった奇跡とも言える出来事に、暫く呆然とし――


「カレン……余計な事を……!」


まさかの横槍に表情を歪めたものの、すぐさま冷静さを取り戻し――


「【正義に選ばれし者】アデラ……アイザック……その同志達……ククククク……やはり君達は面白い存在だ……でも、君達の旅もここで終わりだ……!」


そう声を張った瞬間、カレンが一瞬にして、最奥に鎮座する祭壇へワープされるや否や、そこで燃え上がる黒い炎に()べられ――


「カレンっ!」


炎の勢いが一段と強くなっていく。

それを見届けたユーゼフは、目の前にいる6人を掴まんとするように、指輪が嵌められた右手を上げる。


「【怠惰】の力宿りし指輪よ……我の声を届け、真なる姿を……真の【怠惰】を我に与えたまえ……封じられし炎よ、贄を血とし、新たな神を降臨させよ……!」


そう唱えた彼の背中には、いつの間にか金と黒で彩られた大きな翼が生えており、次の瞬間、指輪が赤く発光したかと思うと、彼の周りに無数の黒い光の玉が現れ、それが彼の身体を包み込むように集まり閃光を放つ。

光が治まると、そこには同じユーゼフであるとは思えぬ、神々しささえ覚えてしまう程の姿をした巨大な存在が、後光を携えて6人を見下ろしていた――

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