表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/73

邪神の胎動

オーシェンウーカに(そび)え立つ聖炎教会の大聖堂。

その中の祭壇の中で力強く燃え上がる、教会の象徴である青く清らかな炎――大聖炎を見詰める教皇・ヨハン。

彼は眉間に皺を寄せ、かなり険しい表情を浮かべている。


「大聖炎が揺らいでいる……凶兆だ」


不気味な音と共に揺らめく大聖炎に、彼の心中は穏やかではない。

すると彼の後方に佇んでいる聖炎環護長・ホーヴァンが「教皇」と声を掛ける。


「ゲオンバートの教会に属する司教が暗殺されたそうで……【黒磐(こくわ)】の仕業と見て間違い無いでしょう」

「黒磐……一体何を目的としているのか……?」

「教皇……内密にお話ししたい事が……御耳を……」


顰め面を禁じ得ない教皇の許に歩み寄ったホーヴァンは、何かを耳打ちする。


「な……何と……!」


教皇は目を見開いて素っ頓狂な声を上げると、一瞬だけ逡巡し、教会として今後すべき事をホーヴァンと共有する。


「ならば即刻、教会の有力者を集めねば……! それとホーヴァンよ……【正義に選ばれし者】アデラとその同志達を見つけ、ここへ連れて参れ……この件は、あの者達の力が不可欠となろう……頼むぞ……!」

「仰せのままに……」


深く頭を下げたホーヴァンは、すぐにその場を後にする。


――――――――――――――――――


一方、アデラ達はティアナの先導の下、オーシェンウーカへ向けて、極寒の雪道を只管(ひたすら)歩いている。

ショーン曰く、オーシェンウーカは聖炎教会の大聖堂がランドマークとなっている事は言わずもがなであるが、先に訪れたゲオンバートとは所謂(いわゆる)姉妹都市の関係にあり、教会の司祭や司教達の往来が特に多いのだという。


「なぁ……アデラ、ウルスラ」


その道中、不安に駆られたような声で2人の名を呼ぶ1人の男。


「ん? どうしたの、ジュノ?」

「随分と浮かない顔してるわね……あなたらしくないわ……」

「お前等……本当に大丈夫なのか? 痩せ我慢し続けたせいで鬼の霍乱(かくらん)に陥った挙げ句、病膏肓(やまいこうこう)()られても困るからな」


揶揄い半分で取り越し苦労だと言われたものの、やはり薬師として、寒さが堪えている筈であろう肌の露出の多い彼女達を気遣わずにはいられないのだろう。


「クレオが自分の糸で編んだ保温性の高い布もあるんだ。せめてこうやって歩いている間だけでも――」

「心配してくれている事は感謝してるわ。でも本当に大丈夫だから。小さい頃からこういう厳しい環境での鍛錬はしてきてるからね、この寒さはまだマシな方よ」

「そうね……私も踊子としての修行という名目で、ツンドラ地帯に放り込まれた事もあったわ……今となっては笑える思い出話だけど……」

「いやいや、放り込まれたって……冗談でも笑えねぇだろ、普通……」


2人の数奇な人生の片鱗に、ジュノは青褪めるのが関の山のようだ。

と、その時だった。


「あの……すみません」


突然道の傍らにいた、鎧を纏った1人の男に声を掛けられる。

その鎧には常磐之理(ときわのことわり)の紋章が描かれており、恐らく常磐兵と思われる。


「はい? 何でしょうか?」

「そちらにいるのは若しや、例の棒術師のアデラという方ではないですか?」

「確かに私はアデラ、だけど……」

「おぉ、やはりそうでしたか……! お目に掛かれて光栄です……!」


少々大袈裟な歓喜の声に、アデラは面を食らっている。


「あ、あなたは一体……?」

「私は見ての通り常磐之理の兵士です。端くれとしてずっとカーティスの下に付いていましたが……私は知っています。彼は英雄でも救世主でも無いと……実際彼に反発する兵士は、以前から多く存在していましたからね」

「えっと~……何が言いたいのかしら?」

「私は今、本当に人々に必要とされるような存在になれるよう、同志達と共に常磐之理の再建を模索しているところなんです。そこで【本物】の救世主であるあなたに、是非同志達に会ってもらいたいのです。そうすれば、必ず彼等の励みとなるでしょう。良ければ、そちらの皆さんも一緒に……どうかお願いします……!」


真剣な眼差しで懇願されて、アデラは若干困惑していたが――


「アデラさん、これも聖炎のお導きだと思います。彼もこのように言っている訳ですし……1度会ってみてはいかがでしょうか?」

「僕も、常磐之理の現状を見ておいて損は無いと思います」

「彼の(ひた)向きな気持ちには、私も賛同したいと思ってるよ、アデラ君」


ティアナ・エルベルト・アイザックの後押しもあり、迷いは吹っ切れたようだ。


「分かったわ。同志達に会わせて」

「あ、有難う御座います……! 感謝します……! では、同志の許へ御案内します。付いて来てください」


アデラ達は常磐兵の先導の下、再び雪道を歩き出す。

ところが案内された道は次第に積雪が多くなっていき、とても人の行き来があるようには感じられない。それどころか、オーシェンウーカから離れていっているようにも見える。

明らかに不自然だと察したショーンとクレオが――


「おい、この道で本当に合ってるのか? 随分と雪深い所まで来た感じだが?」

「こんな人気の無い所に、例の同志がいるって言うのかぃ?」


眉を顰めて疑問を口にしたかと思うと――


「ククククク……」


不意に足を止めた常磐兵から、不気味な笑い声が漏れ始める。


「何で笑ってるんですか? 寒さでおかしくなっちゃいましたか?」

「愚か者共が……」

「何?」

「過ぎたる御人好しは、身の破滅を呼ぶ……」


その時、刺すような視線を感じたアデラ達は辺りを見渡す。

10人は下らないであろう、黒い鎧を纏った男達に取り囲まれているではないか。

そして先導していた兵の鎧もまた、いつの間にか黒く変色していた。


「我等は【黒磐】……カーティスの死後、新たな(あるじ)と使命を得た者なり……新たな主は、その女が嵌めている指輪を(いた)く御所望だ……我等はその指輪を巡って、数多の血を流してきた……そして今、貴様等の血をも流させてもらう……全ては新たな主の御心のままに……!」


常盤兵改め黒磐兵達が剣や槍や弓等の武器を構えると、アデラ達も透かさず各々の武器を取り出して臨戦態勢に入る。

と、次の瞬間――


「青く清き炎は己が魂、己が守り人……邪な大罪を焼き尽くせっ!」


ホーヴァンが青い炎を纏った剣を手にして現れるや否や、1人の黒磐兵に向けて振り下ろす。黒磐兵の身体は一瞬にして青い炎に包まれ、断末魔の声を上げながらその場で絶命する。


「青い炎……貴様、指輪の守り人か……!? 何故ここに……!?」

「済まぬな、私は口が不得手なもので……こちらで語らせてもらう……!」


剣を構えながら「来るぞ」とホーヴァンが声を上げ、アデラ達は改めて各々の武器を手に戦闘態勢に入る。

元々常磐兵の端くれだった事もあり、それなりの実力は備えているようだった。だがこれまで多くの強敵を相手にし退けてきた事実に加え、聖炎環護長のホーヴァンの援護が加わっている8人にとって、一介の兵の集団を一掃させる事など赤子の手を捻るようなものだ。

兵達は次々と命を散らしていき、最後に残された黒磐兵もまた、力及ばずといった感じでその場に跪いてしまう。


「ぐぅ……!」


ホーヴァンは黒磐兵の首筋に刃を()てがい問い詰める。


「黒磐……主を失い浮遊していた翼が、新たな主を見つけ羽搏(はばた)きを取り戻した――といったところか……新たな主の名を白状しろ」

「ククククク……全ては……神の御意思なり……」


そう言い残すと、黒磐兵は舌を噛み切って絶命する。

ホーヴァンは溜息を漏らしながら剣を納め、改めてアデラ達へ視線を向ける。


「【正義に選ばれし者達】よ、また会ったな」

「あなたは確か……聖炎環護長のホーヴァンだったわね」

「名を覚えてもらえるとは光栄だな。だが、まさか其方等がこの雪に囲まれた地に足を踏み入れているとは……若しや其方等は、これからオーシェンウーカへ向かおうとしていたのか?」

「えぇ、そうだけど……」

「奇遇だな。私も教皇から其方等を連れて来るよう依頼を受けてな……」

「教皇様からですか?」

「其方等の力を借りたいそうだ。私と共に来てくれるな?」


元々教皇への近況報告という名目で、聖炎教会の大聖堂へ向かうつもりでいたアデラ達にとっては、正に渡りに船といった状況だ。おまけに自分達に協力を願い出ているという事ならば、断る理由などあろう筈が無い。

アデラ達は満場一致で承諾をする。


「感謝する。では参ろう、オーシェンウーカへ」


ホーヴァンの先導の下、アデラ達はオーシェンウーカへ向けて三度(みたび)歩み始めた――

次話より【第7章 怠惰を授かりし者】スタートです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ