戦火に湧く激情
バーソロミューと落ち合う為、ミオザークへと足を運んだアデラ達一行。
程無くして、数多のポスマーニ兵を引き連れたエルベルトと合流を果たす。
「おい、一体何事だ……!?」
「まさか戦でも始めようって訳じゃないよな……!?」
穏やかではない事態に、ミオザークの住民達は皆不安な感情を口々に吐露する。
それから間も無く、港に数多の艦隊が近付いてきて――
「碇を下ろせえぇ!」
街にまで聞こえる程の甲高い声が、そこにいる者達の鼓膜を刺激する。
巨大な戦艦が停泊すると、アデラ達一行はすぐさま駆け寄っていく。
既にバーソロミューが出迎えていたようで「来たな」と一言挨拶を交わす。
「今日は風の機嫌がいい。思いの外、船も早く進んでくれそうだ。どうやら天は、我々に味方してくれている。この流れのまま行くぞ、マーガレット!」
気迫に溢れた言葉に呼応するように、アデラ達一行は意を決して乗艦する。
しかしすぐには出航せず、海上での戦闘に向けての最終確認を行う。
「マーガレット、そして【正義に選ばれし者】アデラとその同士よ……敵船に接近すれば、戦闘は避けられない。分かってるな?」
「百も承知だ」と代返するアルフォンス。
「そして敵の母船を落とせば我等の勝利……だろ?」
「あぁ、その通りだ」
「だが、マーガレット様をお守りするのが先決……それを努々忘れるでないぞ、嘗ての将軍よ」
「フンッ、相変わらずの減らず口だな……無論、当然の事だ」
2人が嫌味の言い合いを繰り広げている様子も、バーソロミューからすれば互いを――そしてマーガレットを信頼しているからこそ、衆人環視の中でも見せられる光景として映っているのだろう、僅かに頬を緩ませる。
「マーガレット、お前もいい部下を持ったな。健闘を祈るぞ」
「バーソロミュー様も、どうかご武運を」
互いに士気を高め合うと、アデラ達一行はバーソロミューが指揮する戦艦とは別の巡洋戦艦に乗り換え、互いに並走しながら敵を迎え撃つ態勢を整える。
更に後方では、海兵達とエルベルトが率いるポスマーニ兵達が乗る数多の駆逐艦が陣取り、磐石な形態でアデラ達をサポートするようだ。
全ての準備が万全となり、愈々アデラ達は、ユニティが従えるシャーマイニーの残党達との最終決戦へ向け、艦隊はミオザークの港を出航していった。
――――――――――――――――――
暫く航行していると、アデラ達は前方に赤い物体を発見する。
正体を探る為に目を凝らして見ると、水平線を埋め尽くす程の巡洋艦の大軍が押し寄せてくるではないか。
「何あれ……!? 嘘でしょ……!?」
「黒山の人だかりとか、最早そんなレベルじゃねぇぞ……!?」
「チッ……! 目測を誤ったか……!」
「シャーマイニーの結束力……伊達じゃないわね……!」
想像を遥かに超える巡洋艦の数に圧倒され絶句する4人。
「まさか……そんな……!」
「何という数だ……常識的に有り得ん……!」
「怖気付いている場合か……!? 来るぞ……!」
それはマーガレット達も例外では無いようだ。
すると並走していたバーソロミューが突然「マーガレット!」と声を上げる。
「お前達はここから退けっ!」
「なっ……!? 何を仰って……!」
「お前達は迂回して、敵の背後を突け! この場は私が引き付けよう!」
「バーソロミュー様……」
「私は信じるぞ……お前の言う未来というものを!」
彼の言葉を信じてその場を託したアデラ達は、指示通りに並走を解除し、意表を突く為に迂回を始める。
「また御見逸れしやしたぜ、お頭!」
「ヘッヘッヘ、俺達は地獄の果てまで付いていきやす!」
「お頭、置いてけぼりは勘弁ですぜ~!」
「フンッ……貴様等、やはり頼もしいな……私も鼻が高いぞ……!」
改めて運命を共にすると誓ったミンタカ・ナーズム・ニタークの言葉に、バーソロミューは満足気に微笑み――
「偉大なるイーケイム島の猛者達よっ! その威信に賭けて、一歩たりとも引くなっ! クォージウスの未来の為にもっ!」
「おおおおおぉぉぉぉぉ!!」
海兵達の士気を高め、戦闘態勢に入る。
「総帥の為に藻屑となるがいい! 行けぇ!」
シャーマイニーの残党達もまた、バーソロミューの巨大戦艦を目と鼻の先に捉え、奇妙な獣に跨った男達を次々と出陣させていく。
更にその周囲には、多くの小舟に部下の男達が待機しており、付け入る隙を一切与えない盤石の態勢だ。
そんな中、戦艦の傍らにぴったりと張り付くように停泊している1艘の小舟には、黒いローブを羽織った1人の人物が乗っており、人目を盗んで何やらこそこそと作業をしていた。
――――――――――――――――――
バーソロミューが引き付けた艦隊から、奇妙な獣に跨った男達が続々と乗り込んできて、海兵やポスマーニ兵を蹂躙していく。
戦力は正に駿河の富士と一里塚――全く手も足も出ない。
「おいおいおい! あんなのアリかよぉ!?」
一方的な戦況を見せ付けられ、思わず弱音のような声を上げるミンタカ。
「獣を従えて船を伝って来るか……いいだろう……兵よっ! 彼の獣共に海の厳しさと島の恐ろしさを教えてやれっ!」
「アイアイサー!」
だが怯んでいる暇などあろう筈が無い。
バーソロミューの掛け声で、残っている海兵達も一斉に抗戦する。
「くっ……劣勢か……このままでは……!」
迂回をしているが為に遠くから戦線を見守るしかないアデラ達は、歯痒い思いを強いられていた。
だが、その時だった。
後方から数発の大砲の音が聞こえ、アデラ達は一斉に目を向ける。
そこには、大きな帆を携えた数隻の戦艦とそれに追随する数多の巡洋艦の姿が……
マーガレットやハルマンは、帆に描かれている模様に見覚えがあった。
「あの帆の紋は……マームストの……!」
「タレス陛下……!」
「あの【賢帝】と糸使い、とうとうやってくれましたぞ!」
「いいぞ、望みが出てきた……!」
漸く現れた救援に、思わず歓喜の声が発せられる。
「敢えて言おうではないか……真打とは常に遅れてやって来るもの……さぁ、誇り高き猛者達よ! 出陣だぁ! 彼の者達を蹴散らせぇ!」
「おおおおおぉぉぉぉぉ!!」
クレオが造船した巨大且つ屈強な艦隊に乗るタレスが、協力を仰いだ国々の長と共に、率いている軍兵達の士気を高める。
「クレオさん……本当に一晩で造ってくれたのね……!」
「全く冷や冷やさせやがって……英雄欺人もいいところだ……!」
「でも……これで何とか盛り返せそうね……!」
「あぁ、俺達もこの勢いに乗るぞ……!」
やや気落ちしていたアデラ達4人も、俄然力を漲らせているようだ。
だが、無論ユニティもその艦隊を目にしており――
「あの艦船は?」
「敵の増援に御座います……! 如何致しましょう?」
「何て事は無い……こちらも増やせばいい。次の艦隊を出陣させよ」
「はっ……!」
待機させている部下達を戦線に送るよう指示を出す。
「何国が束になろうが……どんな奇策を弄しようが……私が全て捻じ伏せるまで。この圧倒的な力こそが世の【正義】……!」
己の【正義】が屈する事など皆無――そんな絶対的な自信に満ち溢れているユニティは、そう言いながら高笑いする。
「何と……更なる新手か……!? あの数……割に合わん……! だが……引き下がってなるものか……! 皆の者、臆するな! 迎え撃て!」
新たに表れた敵の巡洋艦の多さに、タレスは一瞬だけ逡巡するが、決して希望は捨てず、迷わず船を前進させていくのだった。
「兵よ、決して退くなっ! そして獣一匹たりとも通すな! 死守せよ!」
「死守ぅ!!」
同じ頃、艦上で戦闘を繰り広げるバーソロミューと海兵達は、降り立ってくる獣と男達を次々と薙ぎ倒していくが、絶える事無く現れる軍勢に辟易としていた。
バーソロミュー本人も思わず「次から次と小癪な……!」と零す程である。
「全然減ってない……何で……!?」
「くっ……! 蟲の如く、際限無く湧いてやがるな……!」
「あの人に従う者が、こんなにもいたなんて……!」
「やはり迂回せずに正面から行くべきだったか……!?」
アデラ達4人は、バーソロミュー達が全滅してしまうのではないかと気が気でならず、全員顔を顰めている。
――こんな時、ガルシアならどうする……?
そんな中でアルフォンスは、嘗て切磋琢磨し合った亡き同士が、生前執っていた戦術を頭に思い浮かべていた。
そして、ある1つの答えを導く。
「敵の将を直接叩く――だろうな……」
「アルフォンス殿?」
「早々に母船を沈められれば、自ずと艦隊も統制を失うだろう。何とかあの戦艦に近付けさえすれば、若しや……」
そこまで言い掛けた、正にその時……
「ウオオオオオオォォォォォォ!」
聞き慣れない声がアデラ達の耳を劈く。
戦艦の艫付近からシャーマイニーの残党が乗り込んできたのだ。
「後ろに付かれていたか……!?」
すぐさま構えようとするハルマンとアルフォンスだったが――
「ここは私達が凌ぐわ!」
「そっちは前方からの敵に備えとけ!」
「此方人等武者震いが止まらないんでなぁ!」
「女王の護衛、頼んだわよ……!」
既に武器を手にしていたアデラ達が駆け出し迎え撃つ。
アデラの卓越した棒術、ショーンの隙の無い短剣裁き、ジュノの槍と斧の二刀流、そしてウルスラの鉄扇を用いた華麗なる舞……
4人の見事な連携攻撃に、残党達は一溜まりも無い。
程無くして、前方から近付いてきた巡洋艦からも残党達が乗り込んできた。
マーガレットを護衛しつつ、ハルマンとアルフォンスが剣で応戦する。
「ハッハッハッハ! 貴様等の力はその程度か!?」
「無礼てくれるな……! ポスマーニの主将まで上り詰めたこの俺をなぁ!」
一時的に戦線を離れていたとはいえ、獣を駆使して襲い掛かる部下をも駆逐してしまうアルフォンスの剣術は健在だ。
ハルマンもまた、長年培った剣裁きは、年を重ねても衰えを知らない。
だがやはり多勢に無勢だと言うべきだろうか、2人はじりじりと後退しており、かなりの苦戦を強いられている。
「次から次と切りがありませんな……! まさかこれ程の数だとは……!」
「女王様をお守りするのだろう? ならば弱音は不要だ……!」
「これはまた失礼を……ですが、貴殿も討った数が少な過ぎはしませんか?」
「フンッ……! 今に見ていろ、すぐに追い付き追い越す……!」
「期待していますよ……!」
互いに鼓舞しているようにも貶しているようにも取れる掛け合いの元、既に先陣を一掃したアデラ達の援護も加わって、引き続きマーガレットの護衛と並行して敵を迎え撃つ。
しかし、想像以上の長期戦で体力の限界を感じ始めたのだろうか――
「うっ……ぐっ……!」
ハルマンは一瞬態勢を崩し掛けてしまう。
「無理するな、御老体……!」
「いいえ、させていただく……! 女王様を……守る為にも……! この命が……尽きるまでは……!」
その強情さにアルフォンスは「相変わらず聞き分けの悪い奴だ」と言わんばかりの呆れ顔を浮かべるものの――
「どうやら俺は、またしても見誤ったようだな……ハルマンよ、其方はやはり紛う事無き女王の騎士だ……!」
責務を全うせんとする姿勢に敬服の意を表する。
「私こそ……非礼をお詫びしましょう……あなた様は今も……ポスマーニの誇り高き将軍です……!」
その思いはハルマンも同様だったようだ。
――――――――――――――――――
その頃、ユニティの戦艦の船底付近に存在する武器庫と思しき大部屋に、1人の部下の男が部屋の様子を、何故か物珍しそうに見回っている。
普段見慣れている筈の部屋にも拘らず、である。
「おい貴様。こんな所で何怠けている……!?」
その時、軍隊長と見られる男が多くの部下を連れて大部屋に入ってきた。
丁度背を向けていた男は、激しく叱責されるや否や徐に振り向く。
「……っ!?」
その瞬間、部下達の表情が一斉に強張る。
男の皮膚は何故か真紅に染まっており、まるで皮が剥がれているようにも見える。恐ろしい事に、顔のパーツも一切付いていない。
「これはまた随分と好都合だねぇ。部下の男達が勢揃いだ」
更に、見た目は大男のようながっちりとした体格であるにも拘らず、発せられている声は紛れも無く女性のものだ。それもかなりサバサバとしている。
「明らかに人間じゃないこの子が、あんた等と同じ格好をして紛れ込んでいる事に気付かないなんて……精鋭が聞いて呆れるよ」
「何だと……!?」
「まっ、これもあの旦那の奇策なんだけどねぇ……兎に角、大軍で攻め入ったのが仇となったね。あんた等は【賢帝】の策にまんまと嵌ったんだよ」
「何を……!?」
「そういう訳だから……態々集まってくれて……有難ね♪」
挑発紛いの言葉が発せられた直後、男の身体が激しく歪み、一気に膨張する。
「なっ……!? に、逃げろおおおおぉぉぉぉ!」
「アーッハッハッハッハ!」
部下達が慌て慄きながら叫ぶ中、女の高笑いが室内に響き渡る。
そして次の瞬間、閃光と共に激しい爆発音が木霊した。
「ぬおおおおおぉぉぉぉぉっ!?」
激しい戦艦の揺れと部下達の断末魔の叫び声に、ユニティは目を見開いて表情を強張らせる。
「何? 何が起こった……!?」
「私も全く見当も付きません……! ですが、我が軍の……そしてこの戦艦の被害は……甚大なものかと……!」
予想外の展開に顔を顰めるユニティだったが、怒りを通り越すと――と言われる事象を証明するかのように静かに笑い出す。
「この昂り、一体いつ以来か……オーレリーよ」
歪んだ笑みを浮かべたまま、徐にオーレリーへと視線を向ける。
「行ってくるがいい。もう次は無い、命を捧げてくるのだ……!」
「有難きお言葉です、総帥……」
一礼するや否や、彼女もまた不気味な笑みを浮かべてその場を後にする。
――――――――――――――――――
小舟に乗っている黒いローブの人物は、燃え盛る戦艦を遠目に見詰めると、僅かに口角を吊り上げて、羽織っていたローブを脱ぎ捨てる。
「こういう時に【傀儡】は使うもんなんだよ」
その人物は、マームストに派遣されていたクレオだった。
実は彼女には、動物等の死骸の内部に糸と魔力を巡らせる事で、己の下僕――傀儡として従わせる事が出来る能力があるのだ。傀儡となった動物は全身の毛が赤く変色するので、見た目ですぐに判断可能だ。
また視界共有能力も備わっており、傀儡が見ているものを彼女自身もリアルタイムで確認出来る為、潜入捜査や人が立ち入れない場所の様子を見る事も可能で、彼女自身この能力に大変助けられていた。
更には、大量の傀儡を融合させる事で、自爆機能を携えた強力な爆弾として利用する事も出来る。今回はそれが人型であったという訳だ。
「シャーマイニーの元薬師さん……そのガチガチの頭によ~く叩き込んどきな……クォージウスの意地無礼たら、手痛いしっぺ返しがある事をねぇ!」
語気を強めるクレオに呼応するように、船体から黒煙が立ち込め始める。
それを目視したタレスは――
「あの黒煙……クレオ殿、やってくれたか……感謝するぞ……! 皆の者! 彼の糸使いが齎した好機、決して無駄にするで無いぞ! この戦いで護るべき者達の顔を浮かべ、その思いを刃に深く込めるのだ!」
「おおおおおぉぉぉぉぉ!!」
この時を待っていたとばかりに、先程以上に軍の士気を高める。
「皆、無事かぃ!?」
乗り込んできた敵を全滅させたアデラ達は、下から聞こえたクレオの声に反応して端の欄干に駆け寄り、小舟に乗っている彼女の姿を確認する。
「クレオさん、有難う御座います!」
「まさか秘義とも言うべき隠し玉を、こんな場面で使ってくるとはな」
「まぁね。でも傀儡はもう使い果たしたみたいだし、あたしの出番はここまでだ。後は皆に託したよ! シャーマイニーの残党だか何だか知らないけど、奴等の歪んだ【正義】諸共ぶっ潰してきな!」
「言われなくともそのつもりだ。そうだろ、ウルスラ?」
「えぇ……もう腹は括ってるわ……!」
彼女の表情には、もう未練がましい感情は無いようだ。
「そうと決まれば、あの穴から乗り込むぞ!」
「皆さん、参りましょう!」
爆発によって出来た大きな穴の前まで戦艦を近付け、アデラ達は次々と乗り込むや否や、ユニティが待つ甲板へと足早に向かって行った。
――――――――――――――――――
艦内には鼻を劈く程の焦げた臭いが充満し、爆発の残火が其処彼処で燻っている。
更には爆発に巻き込まれて絶命した部下達の遺体まで転がっており、その光景は文字通りの惨状と言っても過言では無いだろう。
そんな現状には目も呉れず、アデラ達は甲板に上がる為に艦内を駆け回る。
すると突然、何処からとも無く「ケケケケケケ!」という狂気に満ちた女の笑い声が聞こえ、アデラ達が身構えるや否や、彼女達の前に歪んだ時空のような禍々しいオーラが現れ、その中からオーレリーが姿を現す。
「ここは通しませんよ……ケケケケケケ!」
「道化師め……性懲りも無く……!」
「遮るというなら、容赦はしないわよ……!」
「えぇ……遮ってやりますよ……何度だって……」
そこまで言うと、突然オーレリーの身体が怪し気に発光し始め、藻掻き苦しむような表情を浮かばせる。
「総帥の……許……へ、は……誰……も……行か……せ、な……」
「……?」
「な……な……なななななななな……!」
狂気すら感じさせるその不気味な姿……どうやら彼女は、ユニティから授かった呪力によって常人離れの能力を発揮出来るようになった代わりに、強制的に人格破綻を起こしてしまっているようだ。
「ケケケケケケ!」
自我を失ったような笑い声を上げながら、両手に闇属性魔法と呪力を混ぜ合わせたおどろおどろしい光の玉を出現させ、アデラ達に向けて無造作に投げ付ける。
「水よ、彼の者を鎮めよ!」
透かさずアデラが棒の先端から無数の青い光の玉を放ち、オーレリーの魔法攻撃を掻き消す。
更に爆風が治まらぬ内に、ハルマンとアルフォンスがオーレリーとの距離を詰め、力強く剣を振り下ろす。
「ケケケケケケ……! 無駄ですよ……!」
だが2人の剣は、何故かオーレリーの眼前で止まってしまっていた。
彼女が闇の属性魔法で造り上げたバリアの仕業だ。
「ぐっ……! 何と卑劣な……!」
「それなら私に任せて……!」
すぐさまウルスラが鉄扇を構え――
「香よ、打ち破れ!」
バリアに向けて大きく振るうと、一瞬で皹が入るや否や、小さな光の結晶と化してボロボロと崩れ落ちていく。
「なっ……!? こんな小娘に、いとも簡単に……!?」
「光よ、彼の者を眩ませ!」
オーレリーが怯んでいる隙に、アデラは棒の先端から白い光の玉を出現させ、一気に拡散させて閃光を放つ。
目が眩んだ瞬間、ハルマンとアルフォンスが剣で薙ぎ払い、ジュノが弓で急所を射抜き、ショーンとウルスラで全身を斬り付け、アデラが棒で突きつつ強烈な蹴りをお見舞いする。
連続で真面に攻撃を食らったオーレリーは――
「総帥には……誰一人、近付けさせはしない……!」
満身創痍となりながらも、鋭い目付きでアデラ達を睨み付け――
「死ねえええええぇぇぇぇぇ!!」
激情に支配されたような叫び声を上げると、全身から溢れ出る怪し気な光を両手に集め、出現させた光の玉を、これまで以上の大きさに膨れ上がらせる。
「させるかっ!」
放たせまいとショーンが咄嗟に短剣を投げ付ける。
その刃先はオーレリーの右目を貫き、彼女は「ギャァッ!」と短い悲鳴を上げて仰け反る。同時に膨れ上がっていた光も消失する。
止め処無く血が流れる右目を押さえ――
「一介の義賊気取りが、よくも私の顔に傷をぉ……!」
怒りを露わにして彼を罵倒した、正にその時――
「がぁっ……! ぐっ……ぅ……」
突然腹部に鋭い痛みを覚え、口を半開きにしたままその場に立ち尽くす。
徐に視線を下に向けると、ジュノの槍が鳩尾辺りを貫いていた。
「【正義】を履き違えたお前は……とっとと泉下の客になりやがれ……!」
憎まれ口を叩きながら、一気に槍を引き抜く。
オーレリーは仮面の口元を血で染め、数歩蹌踉めいてその場に跪く。
「くっ……ここで……こいつ等を……殲滅、させなければ……間違い無く……総帥の【正義】の障害となる……」
だが往生際が悪い彼女は、ぎこちなくフラフラと立ち上がると――
「斯くなる上は……【正義に選ばれし者】アデラと……女王諸共道連れに……!」
己の中に蓄積された呪力を解放させて自爆しようと、「ケケケケケケ……!」と不気味な笑い声を漏らしながら、全身を発光させて徐にアデラ達へと歩み寄る。
「マーガレット様! お下がりを!」
「ハルマン!?」
その時、彼女の目論見に気付いたハルマンが、透かさず前に出るや否や、身を挺してオーレリーに組み付き足止めする。
「え……? 何をする、爺……! 邪魔するなああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
憤怒に満ちた叫び声の直後、閃光と共に激しい轟音が木霊した――




