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Question of JUSTICE ~8つの指輪物語~  作者: 瑠璃唐草
第6章 色欲を授かりし者
55/73

応酬の果てに

ニタークの案内で、ハルマンと数人の海兵と共に地下水道へ進入したアデラ達。

敵がアジトを張っていると思われる最奥へ足を踏み入れると、案の定10人程の男達が、アデラ達を待ち構えているかのように(たむろ)していた。

だがそこには総帥どころかオーレリーの姿も無く、更に男達は皆似たような恰好をしている。強いて言えば、若干羽振りの良さそうな姿の男が1人いるのみ。

恐らく彼は軍隊長だと思われるが、総帥の部下である事に変わりは無い。


「貴様……将では無さそうだな……」

「ククククク……如何にも、愚兵共よ」

「我々を謀ったか……【本物】の将は何処だ……!?」


強い口調で問い詰めるが、軍隊長は嘲うような表情と共に肩を竦めて「さぁ?」と一言だけ口にする。

その直後、アデラの指先に微かに青く光る指輪を目敏(めざと)く見つけると――


「貴様が【正義に選ばれし者】アデラだな……? その指輪を献上した者には、総帥が【本物】の【正義】を証明してくれた暁に、この大陸の国一つを褒美としてくださるのだ……! 故に、貴様にはここで死んでもらう……!」


男達が一斉に剣や槍を構える。

透かさずアデラ達も各々の武器を取り出して応戦する。


シューウィッツォ島を落とし、イーケイム島に奇襲を掛ける程だ。部下達の実力は、やはり生半可なものでは無い。だが様々な環境下で、臨機応変に戦地を(くぐ)り抜けてきたアデラ達にとって、彼等を殲滅させるのはあまりにも役不足であった。

部下達は呆気無く倒され、残された軍隊長もまた大量の出血を伴ってその場に跪き虫の息となる。


「くっ……! 【正義に選ばれし者】の実力は……伊達じゃない……か……」


己の死を悟っている筈なのだが、軍隊長は口角を吊り上げて不気味な笑い声を漏らし「だが……」と言葉を絞り出す。


「これでいい……今頃……ポスマーニの女王、は……」


そこまで言い掛けると、軍隊長は倒れ込み命を散らす。

最期の言葉を聞き逃さなかったハルマンは「何……!?」と表情を強張らせ――


「皆さん、マーガレット様の許へ急ぎましょう……!」


彼女の身を案じ、すぐさま引き返そうとする。


「女王様はここと繋がっている市場におられるようです。行き方はこちらの地図に記してあります。どうかお気を付けて」


海兵から手渡された地図を受け取り、アデラ達は市場へと足早に向かっていった。


――――――――――――――――――


「皆さん、こちらです!」


一方マーガレットは、戦火に見舞われ逃げ惑う住民達を、安全な避難場所である市場へと誘導していた。


「こちらにはまだ火の手は及んでいません! 早くこちらへ!」

「決して振り返らないで! 命あっての物種です!」


逃げ遅れた者に手を差し伸べ、不安に駆られる者を励まし、危険を顧みず献身的に住民達を介抱していく。

そんな彼女の動向を、襤褸(ぼろ)を纏ったモヒカン刈りの筋肉質な男が、無言で遠目から窺っていた。


――【選ばれし者達】……ハルマン……どうか無事で……


アデラ達の身を案じながら、ほぼ全ての避難民を市場に集結させた後も、まだ逃げ遅れた者がいないか辺りを今一度注視する。

その時、視界に見覚えのある人物を捉え、その者の許へと駆け寄る。


「バーソロミュー様……!?」


彼は跪いた状態で肩で息をしており、剣を杖代わりに立ち上がろうとしている。


「助けて……くれ……頼、む……」


マーガレットに縋るように、足を引き摺りながら彼女に助けを請う。

だが彼女は、言いようの無い胸騒ぎと共に、直感で覚えた違和感により、彼を拒否するように後退りながら――


「あなた……誰なの……!?」


怒りすら感じさせる表情で問い詰める。

すると次の瞬間、満身創痍の筈の【バーソロミュー】が突然スッと立ち上がるや否や、マーガレット目掛けて剣を振り下ろしてきたのだ。


「……っ!?」


その刃は、モヒカン刈りの筋肉質な男の剣によって阻まれた。


「アルフォンス……!?」

「下手な剣だな、ド三流めが」


貫くような鋭い視線で睨み付けるアルフォンス。


「フフフフフ……キキキキキ……」


その時、【バーソロミュー】の口から本来出る筈の無い小さな笑い声が漏れ――


「ケケケケケケ!!」


(やが)てそれは狂気に満ちたものへと変貌する。

次の瞬間、彼の身体が禍々しいオーラに包まれたかと思うと、その中からパステルカラーのマーブル柄の服を纏い、道化師のようなデザインの仮面を付けた不気味な女が姿を現す。


「何故分かった?」


お道化たように口を三日月型に歪めてはいるが、すぐに偽者だと見抜かれた事に腹を立てているのか、その声は不気味に低くなっている。


「バーソロミュー様は、私に助けを求める方じゃないもの。『ポスマーニの手など金輪際借りない』……そう言い切ってたから」

「チッ……! そうだったか」


どうやらマーガレットとバーソロミューが血縁関係であるのは知っていたようだが、2人が水と油である事までは調べが付いていなかったようだ。

己の落ち度に苛立ちを覚え、オーレリーは自責を込めた舌打ちをする。


「アルフォンス、有難う。助かったわ」

「1度だけとはいえ、(かつ)て私は仕えるべき王を見誤りました。ですが、マーガレット様……あなたは幾多の逆境にも抗い、今や立派な女王になられました。失礼ながら、先程までのあなた様の行動を窺っておりました。そして思い至ったのです……マーガレット様に仕える為ならば、再び我が剣を振る意味もあろうかと……このアルフォンス、命を賭してお力添えさせていただきます……!」


そう力強く宣言し、アルフォンスはオーレリーに薙ぎ払いを食らわせようとする。

だが彼女は「ケケケケケケ!」と蔑むような笑い声を上げながら、禍々しいオーラを纏ってテレポートを繰り返し、彼の連続攻撃を難無く擦り抜ける。


「マーガレット様!」


そうこうしている間に、アデラ達がマーガレットの許に到着する。


「御無事ですか……!?」

「大丈夫よ、有難うハルマン」


新たに3人が加勢するが、オーレリーの目には【正義】の指輪を持つ女棒術師の姿が真っ先に映った。


「これはこれは……【正義に選ばれし者】アデラではありませんか。鴨が葱を背負って来るとは、正にこの事ですねぇ。あなた達の動きは、全て追わせていただきました。我が総帥は、あなたの持つ【正義】の指輪を(いた)く御所望です。(つい)でにポスマーニの女王……あなたの首もね」


物騒な言葉に、マーガレットは眉間に皺を寄せる。


「あなたの父君も、随分と【正義】の指輪にご執心されていたらしいですねぇ。その為に【選ばれし者達】を嵌めて奪おうとしたそうですが……愚かにも返り討ちに遭ってしまったようで……」

「彼女達は、民を思って為すべき事を為したまで。それに【正義】の指輪は、誤った者が継承すれば、必然的に世を破滅へと陥れる……それ故、あなた達はすぐさま指輪から手を引くべきよ」

「……あなた馬鹿ですか? だからこそ欲しているんでしょ?」


溜息交じりに口角を吊り上げて挑発するオーレリーだが、その手には乗らないと言わんばかりに、マーガレットは臆する様子も見せず――


「誰に何と言われようと、誤った者に指輪を奪わせはしない……! そしてこの命も、守るべきものの為にあるの……!」


鋭い視線と共に、己の覚悟を口にする。

その言葉にオーレリーは「ケケケケケケ!」と侮蔑を込めた高笑いを発する。


「やはり蛙の子は蛙……(とんび)は鷹を産まない……愚か者は愚か者を増やすのみ……この世に命を賭す価値があるなどと――」


そこまで言い掛けた瞬間、突然発砲と思しき音が響き渡るや否や、オーレリーが身に付けている大きな髪飾りの左半分が、何の前触れも無く吹っ飛んだのである。

何事かと思うと、アデラ達の背後にクロスボウのレバーを引いた状態で佇む1人の男の姿があるではないか。


「バーソロミュー様……!」


そう呼ばれた男は、急所を外した事に小さく舌打ちをする。


「……これは何の真似でしょうか?」


吹っ飛ばされた部分を慰めるように手で(さす)りながら、怒りに満ちた笑みを浮かべて睨み付けるオーレリー。


「あの船の主は貴様か? 残念だが他は既に全滅している……覚悟しろっ!」


バーソロミューはクロスボウを仕舞うや否や、そう叫びながら剣を引き抜き、刃先をオーレリーに向ける。


「おやおや……それはまた随分と分が悪い……いいでしょう。では引き揚げる代わりに、1つ手土産を……」

「貴様の土産など、欲するに足らん……!」

「まぁ、そう仰らずに……これは【選ばれし者達】にも関する事ですから」

「何ですって……?」

「我が総帥の正体についてです」


何故藪から棒に彼女は己の主の身元を打ち明けるなどと言い出したのか、その場にいる誰もが眉を顰めるのだが――


「我が総帥とは即ち、今は亡きシャーマイニー王国の()薬師・ユニティ様です」

「「「……!?」」」


その名を知るアデラ達3人は愕然とする。

そして同時に、シューウィッツォ島にてウルスラが過呼吸を引き起こした原因も明るみに出る事となった。


「そして私を含めた彼女の部下は皆、シャーマイニーの残党――とでも言っておきましょうか」

「シャーマイニー……聞いた名だな」

「そのシャーマイニーの者達が、何故こんな戦を……!?」

「クォージウスによって殺められた親族や友人の復讐ですよ。ユニティ様もまた御両親と兄上の無念を晴らし、シャーマイニーこそが【正義】だと証明せんと、この地に赴いたのです。しかし、どうやらそれだけでは済まなくなったようです」

「貴様……何だ、その言い草は……!? 脅しのつもりか……!?」

「脅しなどと軽々しいものではありませんよ……これは勧告です……くれぐれもお忘れなきよう……今後凄惨な戦に発展せん事を……」


そう言い残すと、オーレリーは「ケケケケケケ!」と狂気に満ちた笑い声を置き去りにし、禍々しいオーラを纏ってその場から消え失せたのだった。


――――――――――――――――――


()くして総帥の正体を置き土産にオーレリーは姿を消し、総崩れとなったシャーマイニーの残党の撃退に成功したイーケイム島。

その後、奇襲の被害を受けた街の傷も癒えた頃、マーガレットとバーソロミューは再び顔を合わせた。その場にはアデラ達は勿論ハルマンや海兵達も、そして何故かアルフォンスも居合わせている。


「マーガレットよ……改めて礼を言わせてもらう。お前の働きの御蔭で、イーケイム島を防衛する事が出来た」


今までとは打って変わり、穏やかな口調で感謝の意を表するバーソロミュー。

マーガレットは「滅相もありません」とでも言うように、首を小さく振る。


「これまで私が守るべきものは、ポスマーニの民でした。しかし【選ばれし者達】に出会ってから、それは少しだけ変化しました」


そう言ってアデラ達を一瞥する。


「彼女達は国や組織に捉われずに、これまで幾多の人々を救ってくれたのです。勿論ポスマーニも……そして気付かされたのです。守るべきものは、国の外にも存在しているのだと……」


「バーソロミュー様」と、マーガレットは彼の前に出て――


「あなたが守るべきだというものを、私も共に守っていきます。なので、今一度私の声をお聞きいただきたい……クォージウスの為にも、あなたの力をお貸しください。お願いします」


改めて協力を要請し、頭を下げる。

その姿にバーソロミューは、相変わらずの強情ぶりに対する呆れと想像以上に強く育った事への感心が綯い交ぜになったような長い溜息を漏らすと、己が失ったものや奪われたものを憂うような目で天を仰ぐ。


「私は長い間、守るべきものを守ってきたつもりだ。この島にしがみ付き、姉上を奪われた己の非力さを呪いながら、な……」


すると今度は、瞑想しながら徐に俯く。


「だが皮肉にも、姉上が守った忘れ形見であるお前によって、漸く気付かされた。姉上は、私とは比べ物にならない程の、より大きなものを守ろうとしていたのだと……それを知るまで、多くの時を費やしてしまった」


そう言ってフッと息を漏らし「頑固とは実に嫌なものだな……」と自嘲的な笑みを浮かべる。

そして面を上げるや否や、マーガレットを真っ直ぐと見詰め――


「マーガレットよ……このイーケイム島、全面的に協力しよう……! 共に守るべきものの為に……!」


漸く要請を快諾したのだった。


「御見逸れしましたぜ、お頭!」

「やってやりやしょうよ! なぁ、兄弟!」

「お頭と俺達の船がありゃ無敵だぜ~!」


海兵達は彼の英断に歓喜の声を上げる。


と、その時――


「私も協力させてもらえるかしら……?」


アデラ達の背後から聞き覚えのある、(たお)やかさや妖艶さを醸し出しながらも、強い決心を秘めた女の声……

そして振り返った先にいたのは、煌びやかな青いセミロングヘアと、抜群のプロポーションの持ち主である、紫色の艶やかな踊子風の衣装を纏った女の姿……


「ウルスラさん……!?」

「アデラ、ショーン、ジュノ……心配掛けてしまって申し訳無かったわ……」

「心配も何も……お前、1人で来たのか……!?」

「えぇ……マームストから使いガラスが報せに来てね……この件についていろいろ知ったわ……それで察したのよ……これは私がけりを付けなきゃいけないって……それでティアナとアイザックに、アデラ達と合流させてほしいって、何度も頭を下げて頼んだの……そしたら、私の思いが通じたんでしょう……単独でここに来る事を許可してくれたわ……」

「否、お前の言い分も分からなくは無ぇが……牽強付会(けんきょうふかい)だと思われても文句言えねぇぞ? いいか、ウルスラ? 敵はお前の――」


ジュノがそこまで言い掛けると、ウルスラは彼の口に人差し指を当てて言葉を呑み込ませ、「それ以上言わなくていいわ……」といった感じで首を横に振る。


「もう全部分かってるから……私を含めて、最初からクォージウスの人間に信頼なんか寄せていなかった事もね……でもこれでいろいろと吹っ切れたわ……! 向こうが恩を仇で返すというのなら……こっちも望むところよ……!」


その瞳からは悲哀でも憤怒でも憎悪でも無く、ある種の覚悟を強く感じさせた。


「それで……マーガレット女王……お伝えしたい事が……」

「……?」


ウルスラは彼女の許に歩み寄り、何かを耳打ちする。


「……!」


その内容を聞いたマーガレットは、目を見開いて表情を強張らせる。


「どうした、マーガレット?」

「バーソロミュー様……心して聞いてください」


彼女の言葉に、バーソロミューもまた固唾を呑む。


「マームストのタレス国王によれば、敵は既に大陸へ進軍しているようです。もしこのまま大陸が侵略され【正義】の指輪が奪われれば、クォージウスは確実に敵の手に落ちるでしょう」

「【正義】の指輪……? トラヴィスが狙っていた代物か」

「はい……誤った者がそれを手にすれば、世は破滅へ向かいかねません」

「なるほど、理解した……ミンタカ! ナーズム! ニターク!」

「「「へぃっ!」」」

「今すぐ全艦隊を出撃に備えさせろ!」

「お、お頭~!? ぜ……全部ですか~!?」

「聞こえなかったのか……? さっさと動けっ!!」


追い打ちのように発破を掛ける。


「き、聞こえただろ!? さっさと動くぞ!」


そう指示を出すミンタカの声は若干震えていた。


「イーケイム島の全総力を挙げ、手助けさせてもらうぞ……!」

「感謝致します、バーソロミュー様……!」

「お前達もいろいろと準備があろう。ミオザークの港に全艦隊を引き連れていく。そこで落ち合おう」


合流の約束を交わすと、バーソロミューは出撃の準備の為、海兵達と共に一旦その場から立ち去って行った。

するとハルマンが「ところで……」と零しながら、気になる人物へ視線を向ける。


「アルフォンス殿……貴公はマーガレット様の弟君・エルベルト様に刃を向けた事もある……まさか忘れた訳では無かろうな?」

「だったら何だ?」

「そんな貴公を、我々は信用しても宜しいのですかな?」


ハルマンの手厳しい問い掛けに、アルフォンスは()なすかのように「さぁな?」とだけ答え――


「俺が裏切ろうものなら、真っ先に殺せばいい。尤も、出来ればの話だがな……」


お前にそんな事が出来るのか、と言いたげな挑発紛いの言葉に、ハルマンは苦虫を噛み潰したような顔を見せるが――


「信じましょう、ハルマン。彼は私を、あの道化師から救ってくれたもの」

「マーガレット様……」


躊躇いの無い彼女の言葉に、素直に従うしかなかった。


「では、ミオザークへ行きましょう」

「でも待って。私達だけで行っても、全く戦力が足りないんじゃ……」

「御心配には及びません。既にポスマーニへ使いガラスを向かわせており、至急ミオザークへ軍を派遣するよう指示は出しております。恐らく、エルベルト様が軍を率いてくるものかと」

「エ、エルベルトが……!?」

「ほぅ……あのエルベルトが軍勢を率いる立場になるとはな……鯉の滝登りというか、得手に帆を揚げる時が来たって訳か」

「まぁ、力量不足を責められない事を、俺達は祈るだけだがな」


一抹の不安はあるものの、アデラ達はユニティ率いるシャーマイニーの残党を迎え撃つ態勢を万全にする為、合流地であるミオザークへと向かうのだった――

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