危険な顔合わせ
島の隅の森の中に一時的に避難したアデラ達。ジュノが過呼吸に陥ったウルスラを落ち着かせようと試みている。
だが今のアデラ達には、ウルスラの不可解な異変以外にも喫緊の問題が2つ同時に降り掛かっている。
焼け野原と化したシューウィッツォ島の原状を少しでも回復させなければならない事と、ハルマンからの報せに従ってウィーグム城へ赴かなければならない事だ。
どちらも時間を要する事案なので、当然二手に分かれる事となるのだが……
そんな時、ジュノが幾分落ち着きを取り戻したウルスラを連れて合流してきた。
アデラ達にこれ以上心配を掛けたくないのか、あるいはみっともない姿を見られて負い目を感じているのか、ウルスラの表情にいつものような妖艶な明るさは無く、無愛想な上に視線すら合わせてこない。
兎にも角にも、アデラ達は何故急に過呼吸を引き起こしたのか、何か知っている事があるのか等、気に掛かる疑問を頻りに投げ掛ける。
だがいくら問い質しても、ウルスラは「今は話したくない」の一点張りで、更には己に憑依せんとする邪念を振り払おうとするかのように、誰の意見を聞くでも無く、そそくさと復旧作業に向かって行ってしまった。
このまま詰問を繰り返しても埒が明かないと判断し、結局救護の支援と的確な指示役としてのアイザックと、亡くなった島民の供養を行う神官の補助としてのティアナがシューウィッツォ島に残り、他の5人がウィーグム城に赴く事となった。
――――――――――――――――――
ウィーグム城に到着したアデラ達は、ポスマーニ兵によって王の間に通される。
そこには既に同国の女王・マーガレットとマームストの国王・タレスの姿が……
2人ともかなり深刻な表情を禁じ得ていないようだ。
何があったのか問い掛けると、タレスから衝撃的な内容が発せられた。
「イーケイム島に、シューウィッツォ島の領主・ジョルジュの首が送り付けられたそうだ……」
「「「「「……っ!?」」」」」
「それだけではない。ここポスマーニには彼の右腕、我が国には左腕……他の国にも脚や胴が……これはつまり、クォージウスに対する宣戦布告に他ならない」
想像を絶する事態に、その場にいる全員が表情を強張らせる。
「もう一度、クォージウスが一丸とならなければ……!」
「しかし我等の兵力を合わせても、敵の戦力の半分――否、下手をすれば……1割にも満たない可能性も否定出来ない。そこで私は、これからいくつかの親しい国へ協力を仰ぎに向かう」
「【賢帝】と呼ばれてるだけあって、人望も抜群だな。正に海内奇士だな」
「だが、1つだけ問題がある……敵が艦隊であるという事だ」
「と、言いますと……?」
「協力を仰ごうとしている国々は、殆どが山岳地帯に位置している。海とは無縁の境地だ。こちらは大国故に戦艦の材料は調達出来、且つ船着き場となり得る沿岸も存在してはいるが、如何せん船大工という人手が……」
艦隊を迎え撃つ為の船を造るには、数多の船大工が不可欠だ。だが、その人材を集めるだけでも相当な日数を要するのは目に見えている。その間に攻め込まれてしまっては本末転倒である。
「なら、あたしが一晩で造ってやろうか?」
突然船大工に名乗りを上げたクレオに、その場にいる誰もが目を丸くする。
「クレオさん……!? 戦艦なんて大それた物、一晩で造れるんですか……!?」
「フッフッフ~……幼少期の頃から、材木と一緒に家具やら小屋やら一軒家やら造ってきた、あたしの巧みな糸使いを甘く見てもらっちゃぁ困るねぇ。材料さえ揃ってれば、あたしの糸と魔力で、どんな進撃や浸水にも耐えられる、頑丈な戦艦を造船してやるさ……!」
余程己の建築技術に自信があるのだろう、その声には迷いが一切無かった。
「そうか……では是非マームストへ御同行願おう」
「あたしで良ければ」
二つ返事により、クレオが船大工としてマームストに赴く事が即決した。
「それで、若姫様はどうするつもりで?」
「私は、シューウィッツォ島と親交が深いイーケイム島へ向かいます。彼の地の領主は……私の知人なんです。それにイーケイム島には、大陸一の屈強さを誇る艦隊も備えています」
「なるほど……味方に付ければ、勝機も見えよう」
「そういう訳だから……エルベルト、暫く留守を頼むわ」
「え……えぇ? ぼ、僕が?」
同行するものだと思っていたのだろう、思いもよらない肩透かしを食らったエルベルトは、裏返った声で反応する。
「ポスマーニに万が一の事があったら、あなたが先導しないと。継いでくれるんでしょ? お兄様の遺志を……」
「……!」
彼女の言葉に触発されたエルベルトは、承認の意を示すように首を縦に振り、マーガレットもまた小さく頷く。
「ではハルマン、【選ばれし者達】……行きましょう」
アデラ達はマーガレットとハルマンと共に、イーケイム島へと向かう事に。
「では、クレオと申したか……我々も先を急ぐとしよう」
「うん。宜しく頼むよ、タレスの旦那」
「……出来れば『王』と呼んでもらいたいものだが……まぁ、良かろう」
若干の不協和音が漂っている2人もまた、マームストへと向かっていく。
「皆さん……どうかご無事で……!」
エルベルトは細やかながらも力強い言葉で全員を見送った。
――――――――――――――――――
「……次」
その頃、深紅の戦艦の甲板上では、総帥による余興が行われていた。
「くっ……離せっ……!」
総帥の部下であろう男によって、鎧を纏った1人の男が跪かされる。
恐らく拉致されたシューウィッツォ島の兵士と思われる。
「なかなか逞しい肉体を持ってるのねぇ……フフフ、骨の髄までしゃぶり尽くしてあげよう……!」
兵士を見詰めるその目には、妖しい赤い光が浮かび上がっている。
「止……めろ……!」
「ほら、私の目を見なさい……」
総帥は兵士の顎をクイッと上げて、強制的に目を合わせさせる。
「……!?」
次の瞬間、兵士の身体が硬直し、全身から魂のような靄が現れ、軈てそれは総帥の目の中へと吸い込まれていき――
「ガッ……ガアアアアアアァァァァァァ!!」
盛りが付いた猫の鳴き声のような叫び声を上げたかと思うと、肌を一瞬にして土気色に変色させてその場に倒れ込む。
「ふむ……そこそこ濃い味の精気だ」
総帥は奪った精気を吟味すると、横たわる亡骸の表情を覗き見る。
「あらあら、惚けた顔して……そんなに気持ち良かったの? 幸せな最期を迎えられて、男として本望じゃないの」
不気味な笑みを浮かべながら口にした言葉には、強烈な皮肉が込められていた。
「さっさと海に捨てて、早く次を」
部下の男は素早く亡骸を抱えてその場から立ち去っていく。
それから暫く経った頃――
「お楽しみのところ失礼致します、総帥」
オーレリーが総帥の前に姿を現す。
「おや? また一段と肌が艶やかになられたのでは? そうでしょうねぇ、総帥は男の精気を吸えば吸う程よりお美しく、そしてよりお強くなられる。この大陸の男共は幸福ですよ。何しろ糧として、総帥の一部となれるのですから」
「フフフ、少しばかり吸い過ぎたけれど……いつにも増して調子がいいの。まるで全身の血が滾るようでね」
「それはそれは何よりで御座います、総帥」
「して、オーレリーよ……【正義】の指輪を持つアデラとやらは?」
「異国の棒術師・アデラは、お仲間と共にポスマーニに潜伏したようです。恐らくは、兵力を集めて臨戦態勢を整えるつもりかと……」
「ふむ……確かにそれも見物だけど……厄介な芽は成長する前に摘み取っておくべきだし、私ももう待ち切れない……オーレリーよ、奪って来るがいい」
「畏まりました。【正義】の指輪は、私が必ずや総帥に献上致します」
そう宣言し、オーレリーは狂気に満ちた笑い声を上げながらその場を後にする。
「フフフ……この世の【正義】は私が掌握する……必ず……」
総帥もまた、口角を吊り上げながら野望を呟くのだった。
――――――――――――――――――
日が傾き始めた頃、アデラ達はイーケイム島の船着き場に降り立ち、街へと通ずる海道を歩いていた。
ショーン曰く、この島はシューウィッツォ島とは良いライバル関係にあり、流通の面で互いに鎬を削っているのだそうだ。
そんな情報に感心していると、ハルマンが不意に足を止め「マーガレット様……」と呟きながら振り向く。その表情は硬く、神妙な面持ちといった感じである。
「ここまで足を運びながら、こんな事を申し上げるのも気が引けますが……ポスマーニとあの家との因縁を忘れた訳ではありますまい」
「そうね……確かに望みは薄いかもしれない……でも今回の件においては、あの方の協力無しには解決出来ないのもまた事実……必ず分かり合える筈」
2人にしか理解出来ない内容なのだろうか、アデラは頭上にハテナマークでも浮かんでいる風の表情を浮かべて首を傾げている。
そんな立ち話をしていると――
「お前等、結構潤ってそうだな」
前方から10人程の盗賊風の男達が、厭らしい笑みを浮かべながら現れた。
「このイーケイム島は、あのシューウィッツォ島にも引けを取らない程に流通が盛んで、クォージウス中から様々な商人やら金持ちやらが集まってくる。つまり……ここへ通ずるルートは、絶好の狩場って訳だ。お前等のような、な……」
自分達を殺して金品を奪おうという魂胆だと瞬時に察したアデラ達は、マーガレットを下げて一斉に各々の武器を構える。
だが次の瞬間、男達の大半が断末魔の声を上げながらその場に倒れ込んでしまう。
よく見ると、その背中には剣で斬られたような大きな傷が……
更には、襤褸を纏ったモヒカン刈りの筋肉質な男が傍らに佇んでいるではないか。
「貴様……っ! 誰だ……!?」
「その様子では知らないようだな。ここへ通ずるルートは、屑の狩場でもあるという事を。正に貴様等のような、な……」
男は手にしている剣で、残っている盗賊風の男達を一瞬で斬り伏せてしまった。
突然現れた救世主と呼ぶべき剣の使い手の屈強な男……だがアデラ達は、その人物に見覚えがあった。
それは、長い事ポスマーニを離れていたマーガレットでさえも……
「あなたは……アルフォンス将軍……!?」
「クククク……将軍、か……随分と懐かしい響きですな。されど、この姿を見ればお分かりでしょう。今の私は……ただの血に飢えた剣で御座います」
最早将軍の片鱗すら感じさせない見窄らしいその姿に、アルフォンスは自虐的な笑みを浮かべる。
すると、突然ハルマンが剣を構える。
「ハルマン?」
「マーガレット様……この者は信用出来ませぬぞ……! 何しろ弟君のエルベルト様に刃を向け、祖国を捨てた男なのですから……!」
しかしアルフォンスも、負けじと剣をハルマンに向けて睨み付ける。
「フンッ……! 相変わらず口だけは達者のようだな、御老体。しかし、まさかこのような形でお会いする事になろうとは、女王陛下」
「……」
「トラヴィス国王の死後、私はあなたの弟君・エルベルト様に慰留された。ポスマーニに不可欠な存在になるであろうと……だが私には、最早剣を振る理由など無くなっていた。そして自ら国を出て、各地を放浪した」
力無く剣を下ろして鞘に納めると、アルフォンスは自嘲の念を込めた笑いを漏らしながら、盗賊達の亡骸の許に跪き、その懐に隠されていた金銭を手に取る。
「全く以て皮肉なものだな……国を出たからこそ初めて知れた。こんな屑でも、殺せば金を作れると……そして今やこの剣は、ただ食い繋ぐ為だけの仮初めの道具に成り下がった……」
己の剣を撫でながら、消え入るような声を漏らす。
まるで「笑いたければ笑うがいい」とでも言いたげに……
「アルフォンス……その剣が私達を救ってくれた。だから、自分を卑下するのはもう止めなさい」
笑う訳が無かろうという意思を示すように、首を横に振りながら窘める。
「それに……私達は今、恐るべき脅威に曝されている。解決の為には、あなたの力が今一度必要なの。どうか手を貸していただきたい」
「マーガレット様……」
盗賊達から金銭を根こそぎ奪ったアルフォンスは、徐に立ち上がると――
「1度だけとはいえ、私は過ちを犯した……仕えるべき王を見誤ったのだ……そんな私に、誰かに協力する資格など無い……」
自分はただの木偶の坊だと言い聞かせるような言葉を残し、アデラ達の許から立ち去っていった。
「マーガレット様、御無事ですか?」
「えぇ、有難う。アルフォンスが気掛かりだけど……今は先を急ぎましょう」
アデラ達は街へ向けて、再び歩を進めていった。
――――――――――――――――――
イーケイム島の街の中心部に到着したアデラ達一行。
すると突然、周囲にいた海兵達が一斉に5人を取り囲んだではないか。
「無礼者め、下がらぬか! この方をどなたと心得ている!?」
マーガレットを差しながら声を張り上げるハルマン。
「さぁ、知らねぇなぁ……俺達はただ『何者からも島を守れ』と仰せつかってるだけなんでねぇ」
「あんた等こそ勘違いしてんじゃねぇのか? この島は商人と流通が全てを司っている。だがな、商人は王冠を被って子分を連れて来はしねぇ。身分を偽ろうったって、俺達には通用しねぇぜ?」
挑発的な発言をするのは、海兵達のリーダー格・ミンタカとナーズムだ。
その2人の許に、マーガレットは臆する事無く歩み寄る。
「ご挨拶申し上げます。私はポスマーニの女王・マーガレットです。この島の領主にお話があり、伺った次第です」
「うち等の領主に話……だと?」
「へぇ~……随分と用意がいいこった。だが、止めておいた方が身の為だ。あの方に会うのに言葉は不要――武器の方がいいからな」
「ヘッヘッヘ、間違い無ぇ……! 何せうち等の領主は無骨だからな」
彼女の言葉を半分冗談だと思っているのか、ケタケタと笑い合う2人。その姿にアデラ達は半ば呆れているようである。
だが1人だけ――苛立ちを募らせたジュノが「無礼た事ほざきやがって……」と小声で悪態を吐き、斧に手を掛けようとする。
しかしそれに気付いたショーンが、透かさず彼の手を掴んで「手を出したらこいつ等の思う壺だ」と窘めるように首を横に振る。
と、その時――
「碇を下ろせえぇ!」
島中に響き渡る程の甲高い声が、その場にいる者達の耳に入る。
「おっ、噂をすれば」
「お頭の御帰還だ……!」
「……オカシラ?」
アデラが首を傾げていると、船着き場に停泊した巨大な戦艦から、途轍も無いオーラを纏った人物が下船し海兵達の前に現れる。
戦艦の持ち主であり、海兵達の頭でもあり、そして何よりイーケイム島の領主でもあるバーソロミューだ。
「今戻った」
オレンジ色の長髪を靡かせるその人物は、目鼻立ちが整った中性的な顔立ちと高い声の持ち主であるが、歴とした男性だ。
「島の守りは変わらず万全なんだろうな?」
「お頭、それが……」
1人の海兵が今し方起こった事情を耳打ちする。
「私に客人? 武器を持つ者は何人たりとも島に上げるなと言った筈だぞ?」
バーソロミューは海兵達を押し退けながら前に出て、アデラ達の姿を目視する。
そして1人の人間と目が合うと、彼は一瞬にして顔を顰めた。
「その面……見覚えあるな……確か、名はマーガレット――否、今となってはポスマーニの女王、と言った方が正しいか」
皮肉を込めた言葉を口にすると、彼はマーガレットの許に歩み寄り――
「貴様……どの面下げてこの島に来た!?」
透かさず腰の鞘から剣を引き抜いて、彼女の首筋に刃を宛てがう。
まさかの行動に一瞬驚きはしたものの、アデラ達とハルマンは一斉に武器を手にして臨戦態勢に入る。
すると、海兵達も間髪入れずに各々の武器を構える。
「ほら見ろ、言わんこっちゃない」
「やっぱり武器が不可欠だったろ?」
ミンタカとナーズムは、面白おかしく語っているようにも、溜息交じりに半ば呆れているようにも聞こえる言葉を漏らす。
「どうやら我々は、話す相手を間違えたようです」
場の空気が張り詰め、互いに膠着状態となる。
「あなた達、武器を下ろしなさい。ハルマンも」
「マーガレット様?」
しかし彼女は怯える様子も見せずにアデラ達に引くよう命じ、バーソロミューから一切視線を逸らす事無く口を開く。
「大海を治めし偉大なる島の領主・バーソロミュー様……確かに我が国は、幾多の過ちを犯してきました。ですが、今はその罪を認めて、大きく変わろうと日々精進しています」
「……」
「あなたの耳にも入っているでしょうけど、今クォージウスは重大な危機に瀕しています。その解決の為に、貴殿のお力添えを賜りたく参りました。ですから、どうか私達の話に耳を傾けてください。お願いします」
バーソロミューは鋭い目でマーガレットを睨み続け――
「なるほど……その度胸『だけ』は認めてやる。貴様の言う通り、ポスマーニはあの頃から随分と変わったようだ」
一定の理解を見せつつも、直後に「だがな」と語気を強める。
「忘れてくれるな。例え時が過ぎようと、変わらぬものもこの世にはある事を……今すぐ島から出ていけ……! 次に顔を合わせた時には、その首は胴に繋がっていないと思え……!」
バーソロミューはそう吐き捨てると、剣を鞘に納め、海兵達と共に立ち去る。
残されたアデラ達には、後味の悪い気不味さだけが漂っていた。
――――――――――――――――――
バーソロミューとの対話が実質不可能となったアデラ達は途方に暮れていた。
「あの領主、けんもほろろって感じだな……因縁は根深そうだ」
「あんな風に突き返されたら、最早取り付く島も無いな」
「ショーン……上手い事言ったつもりだろうけど、全然面白くないわよ」
「……」
「マーガレット様、やはり別の手立てを探るべきかと……」
「はぁ~……一体どうすれば……」
面目丸潰れのマーガレットも、頭を抱えて溜息を吐くのが関の山のようだ。
すると、遠くの方から「お~い」という呑気そうな声と共に、恰幅のいい海兵が、ミンタカとナーズムを連れてこちらに歩いてくるではないか。
彼は海兵の1人・ニターク――海兵の中では、バーソロミューに最も近しい存在として重宝されている。
「この2人に聞いたんだけどな~、あんた等うちのお頭と知り合いか何かか~? 少なくとも、商人には見えねぇけどな~」
「王冠を被ってるし、子分も見た感じなかなか力がありそうだが……」
「さっきのやりとりからして、悪人って感じじゃ無さそうなんだよなぁ」
どうやらマーガレットを【本物】の女王だと認識し、減らず口を叩いてしまった罪悪感に苛まれた挙げ句、何かしらの力になってやりたくなったらしい。
「私はやはり、もう一度あの方と話をしてみようと思います」
「おいおいおい! 流石にそれはお勧めしねぇぜ……!」
「間違い無く殺されるぞ、女王ちゃん!」
険悪な雰囲気の現場に立ち会っていたミンタカとナーズムはそう言って制止するが、マーガレットの意志は固いようで――
「この大陸の命運が懸かっている今、命を散らす事など惜しくありません」
死んでも本望だと言わんばかりの覚悟を語る。
「ヘッヘッヘ、その度胸気に入ったぜぇ、女王ちゃん!」
「あんた、見かけに寄らずしっかりした芯持ってんだな!」
彼女の肝の据わり様には、ミンタカもナーズムも感服したようだ。
「よぉしっ! それじゃあ女王ちゃん、無骨な領主様の御屋敷に連れてってやるよ! 案内してやってくれ、兄弟!」
「おぉ~、お安い御用だ~」
ニタークの先導の下、アデラ達はバーソロミューの住居へと足を運ぶ。
こうして案内されたのは、まるで城のような佇まいの建物だった。
「ここがお頭――バーソロミュー様の邸宅だ」
その巨大さに圧倒されるアデラ達。
彼女達を尻目に、ミンタカが門番の男達に対して、バーソロミューに取り次ぐよう声を掛ける。
「門番さんよぉ。お客さんだ、通してくれ」
「『何者も通すな』と領主様から直々に命令をいただいている」
しかし門番達は、頑なに進入を拒む。
「おいおい、そんな固い事言うなよ。俺等はその領主――バーソロミュー様の子分なんだぜ?」
「この女王ちゃんが、どうしても会って話がしたいんだと~」
「『何者も通すな』との御命令だ」
判で押したような返事に、3人は業を煮やしたのか――
「ったく、融通の利かねぇ奴等だな!」
「その頭と意志よりも固いもの教えてやろうか~?」
挑発的な言葉と共に、門番に殴り掛かろうとする。
透かさずマーガレットが「ちょ、ちょっと!」と制止する。
「我々が望んでいるのは対話であって、断じて抗争ではありません! ここは一先ず退くのが得策かと……!」
その訴えに我に返った3人は、主の邸宅前で騒ぎを起こすのは流石にヤバいと悟ったようで、気不味そうに拳を下ろす。
「す、済まねぇ……つい熱くなっちまって……」
「でも、女王ちゃんにも申し訳無ぇよ……折角連れて来たのに……」
「じゃあ、俺がお頭に取り合ってみるから、この辺で待っててくれ~」
結局ニタークが単身で説得を試みる事となり、他の者達は暫く門前から退く事になった。
「バーソロミュー様……」
何とか因縁を氷解し、閉ざされた心に光を……
邸宅に視線を向けながら、そんな思いを胸に、静かにその場を後にするマーガレットなのであった――




