夜船にて
ガーヴェックを後にしたアデラ達一行は、以前親睦会を行った港町・ミオザークへ再び赴き、停泊している10人ほどが乗れる小さな遊覧船を手配した。手続きは全てクレオが行ってくれたようだ。
そして船頭に依頼し、現在彼女達はシューウィッツォという島へ向かって航行の真っ最中である。どうやらウルスラきっての希望であるらしい。
ショーン曰く、そこは島同士の人や物資の流通が盛んなニトーミ諸島に属し、その中で最も大きな面積を有する、流通の拠点となっている島なのだという。
そこへ向かおうと提案したウルスラの目的というのは……
「え? じゃあシューウィッツォ島って、ウルスラさんの故郷って事ですか?」
「例の任務に当たるまで、島の酒場で働いてたってだけよ……」
5年以上ぶりに思い出の地を訪れる為であった。
同じサポーター組であるクレオとアイザックは、その目的に薄々勘付いてはいたようだが、恐らくクレオが故郷のガーヴェックを訪れた事で、彼女の中に似たような感情が燻り出したのだろうと、敢えて反論せずに航行を許可したと思われる。
故に他の5人も、半ば強引に納得させられる形で同乗しているのである。
それでもアデラは、ここぞとばかりにウルスラと積極的に会話を弾ませており、気が付けば既に日は沈み、満天の星と共に月明かりが船を照らしていた。
「それに……久し振りに逢いたい人がいるの……」
「へぇ~、そうなんですか……好きだった人とかですか?」
「私は一介の踊子として働いていたのよ……? 男の人達から言い寄られる事は数多あっても、私の方から誘う事は一切しなかったわ……恋とは無縁よ……」
「ふ~ん……じゃあ、誰なんですか?」
「酒場専属で付いていた女の薬師よ……」
「薬師さん? 酒場に専属で付けられるんですか?」
「酔った上客とのトラブルなんて日常茶飯事だったからね……それで怪我をした踊子達の治療の為に配属されていたのよ……私もすごくお世話になったわ……」
「その薬師さんって、何ていう方ですか?」
「名前は確か……ユニティだったかしら……?」
「……ユニティ?」
その名に微かな反応を示したアデラ。
「「……!」」
だが、反応したのは彼女だけでは無かった。
「あら……? アデラ……それにショーンとジュノも、急に眉を顰めて……まさか、ユニティの事知っているの……?」
「否、知っているというか……名前は聞いた事あるってだけです」
「何処で聞いたの……? 詳しく聞かせてちょうだい……!」
身を乗り出す勢いで問い質してきたウルスラに、3人は若干戸惑いを覚える。
だが名を知っている事を認めた手前、有耶無耶にする訳にもいかず、アデラ達は知っている事実を洗い浚いウルスラに伝える。
ユニティの家系がシャーマイニー王国で有名な薬師一家であった事、王国がゲオンバートの元領主・カーティスの侵攻によって滅亡した事、兄であるアーサーが捕虜となって【磐薬】という恐ろしい薬を製造させられていた事、そしてゲオンバートを救う為――己の贖罪の為に自らカーティスに手を下された事、等々……
聞いてはいけない話を耳にしてしまったような感覚に陥ったのか、ウルスラは項垂れながら右手で頭を抱えて溜息を吐く。
「そんな事があったのね……辛い人生だったでしょうに噫にも出さず……」
「そいつからは何も聞かされてなかったのか?」
「いえ、全く……御兄さんがいたなんて初耳よ……? でも、だとしたら……彼女は恐らく御兄さんが亡くなった事さえ知らないんじゃないかしら……?」
「まぁ、雉も鳴かずば撃たれまいとはよく言うしな……会えたとしても、言わぬが花を徹底した方が互いの為だ。落月屋梁の思いがあるなら尚更だ」
「えぇ……確と肝に銘じておくわ……親しかった人との久々の会話が肉親の訃報だったなんて、誰だって気分は良くないものね……」
ユニティと再会した時、どんな表情で面と向かえばいいのか……
期待と不安が綯い交ぜになった感情を抱き続けるウルスラを余所に、船はシューウィッツォ島へと夜の海を渡っていったのだった――
次話より【第6章 色欲を授かりし者】スタートです




