未来永劫の別れ
クレオの糸によって強く締め付けられ、断末魔のような声と共に全身から血を噴き出す巨大な悪魔。
それは程無くして煙のように消失し、本来の人間としての姿に戻ったスザンヌ。
そんな彼女の頭の中に、幼少期の頃の親友とのある思い出が、走馬灯のように映し出されていた――
「ねぇ、クレオ……1つ聞いていい?」
「ん?」
「クレオはどうしていつもパンを分けてくれるの?」
「……?」
「自分が食べる分が減っちゃうのに……」
「……」
「ねぇ……答えてよ、クレオォ」
「う~ん……あたしでも分かんない。まぁ、強いて言うなら……1人で食べるより、誰かと一緒に食べた方が美味しく感じられるから……かな?」
「ふ~ん……」
「ねぇ、ペトロニラ」
「ん? 何?」
「あたしが持ってる物は、いつでも何でもペトロニラと共有してあげる。そうすれば、辛い事も悲しい事も全部吹っ飛んでいってくれるよ。きっとね」
――――――――――――――――――
現実の世界に戻ったスザンヌは、既に虫の息となっていて、且つクレオに悲哀に満ちた目で見詰められながら抱えられていた。
また嵌められていた指輪も赤い光を鎮めて、アデラの手に渡っていた。
「クレ、オ……私は……あんたが……私に無い、ものを……持っている、事が……兎に角……憎かった……だから、私は……あんたの、存在を……ずっと……否定、したかっ……た……」
「ペトロニラ……もうそれ以上喋るんじゃないよ……!」
クレオは目に涙を溜めながら、スザンヌの手を強く握り締める。
そんな訴えに対して、最後の抵抗をしようとしたのだろうか――
「でも……私は……そんな、あんたが……だった……ホントに……腹立、つ……」
憎まれ口を叩きながらも薄っすらと笑い掛け、そのまま眠るように息絶えた。
そんな彼女の死に顔が、1粒2粒と零れ落ちる水滴で濡れていく。
「ペトロニラ……あんたは【全てを持たざる者】を名乗る程、貪り続けなきゃいけない人間なんかじゃなかった……ちゃんと持ってたんだよ……」
【本物】の最愛の友の最期を看取ったクレオは、悲痛な思いを噛み殺して彼女の亡骸を担ぎ、傍らの宝玉と砂金の海にそっと沈め、彼女の冥福を祈った。
――――――――――――――――――
ガーヴェックに戻ったアデラ達は、住民達と街の復旧作業を進めている残留組の許へと戻り、事の顛末を【暴食】の力を宿した指輪と共に報告する。
その後クレオはすぐに露店へ赴いて花を購入し、街の外れの小さな空き地に足を運び、そこに佇む1基の墓標に花を添えて手を合わせる。
今度こそ【本物】の友人として……
「争いは勝者と敗者を生み、財産もまた世を巡り回る……か」
「時代が移ろうとも、その条理は変わらない……のかもね……」
今世を憂えるようなアイザックとウルスラの呟きに反応するように、クレオは徐に目を開けると――
「でも……あたし達は藻掻き続けるよ。どんな壁にぶち当たろうと」
改めて強い意志を込めた決意を口にする。
「幼少期に死ぬかもしれない危険な目に何度も遭ってきたけど、それで稼いだ金で買ったパンは、黴が生えていても美味いと感じられたよ。例の任務の時も、激しい戦闘の中で、気が付けば見ず知らずだったあんた達との絆を結ぶ事が出来たし、今回だって生死を彷徨ったからこそ、一介の馬鹿糸使いなりに大切な物や事に向き合えた。そういう意味では、こいつにちゃんと感謝しておかないとね」
「クレオさん……」
墓前で幼少期から今に至る思い出をしんみりと語るクレオ。
「正に驪龍頷下の珠、だな」
「かもしれないね……」
ジュノに同調するように呟くと、徐に立ち上がりアデラ達の方へ振り向く。
「さて……そろそろ発ち時かな?」
「えっ? もうここを離れるんですか、僕達?」
「せっかく帰省したのだから、もう少しゆっくりしていけば……」
「否、いつまでも居座る訳にはいかないよ。今のあたし達にはアデラの【本物】探しに同行するっていう任務があるし、それに……この街の住民は皆、あたしの厳しい監視が無くても、十分に役目を果たしながら生活出来てるって分かったしね」
「ウフフ……確かにもう大丈夫そうね……」
「そうと決まれば、次の【本物】を見つけに行きましょう……! ショーン、また私の知らない街に着いた時は宜しくね……!」
「アデラ……俺はお前の観光ガイドじゃないんだぞ?」
「何言ってんだよ。お前だって本当は、街の雑学を語れるいい機会だって、腹の中では思ってんだろ? 博識洽聞な義賊さんよぉ?」
「……っ! 茶化すな、ジュノ……!」
「アハハ……御二人は相変わらず仲が良くて安心です……」
8人の旅団は次なる【本物】を求め、ガーヴェックの地を後にする。
決して潰える事の無い共有の燈火を胸に灯して――
これにて【第5章 暴食を授かりし者】終了です




