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Question of JUSTICE ~8つの指輪物語~  作者: 瑠璃唐草
第5章 暴食を授かりし者
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水面下の真相

アデラ達4人は、スペンサーの手記に記されていた銀砂の段丘へ赴いていた。

ここはイーアゾック近郊に位置する、一種の観光地のような場所だ。

砂漠の中にありながらも、自然の力で造成された地形の景色が圧巻であり、一部ではその情景を求めて遠路遥々訪ねる者もいるらしい。

無論、今回は観光の為にここへ来た訳では無い。

(くだん)の災厄の根源である【全てを貪り食いし者】スザンヌを止める為である。


「恐らくここだろうね」


そんなアデラ達は、段丘の中腹辺りで足を止める。

この場所には、台座に乗った3つの首を持つ狼のような魔物を模した石像が、如何なる者の進入も阻まんとする番犬の如く、道の左右に鎮座している。


「この辺りに、ハーメネイ家の遺産が隠されているのか」

「でも、財産の臭いに敏感だった、あのスペンサーですら探し当てられなかった代物なんでしょ?」

「そんな巧妙に隠されたものを、私達が見つけられるのでしょうか……?」

「……ん?」


何か(ひもと)くヒントが無いかと手記をペラペラ捲っていたクレオが、あるページでふと手を止める。


「どうかしたんですか、クレオさん?」

「皆、ここを見てくれ」


そう言いながら、クレオはページの余白の部分を指差す。


「何か書き殴られたような跡があるんだよ」


記されている文章とは明らかに異なる言語で書かれた、メモのような書跡。

翻訳を得意とするティアナによって、その内容はすぐに解読出来た。


――汝、全てを持たざるべし

――【暴食】を司りし神・ケルベロスさえも平伏(へいふく)

――偽りの財産に囚われるべからず


「「「「……?」」」」


スザンヌが書いた可能性が極めて高いものの、その複雑な暗号のような文章に、アデラ達はただ疑問符を頭上に浮かばせるのが関の山だった。


「『【暴食】を司りし神・ケルベロスさえも平伏(へいふく)す』……さっぱり意味が分からないけど……ここで何かをすれば、謎は解けそうだね」


4人は左右に鎮座している石像が怪しいと踏み、早速調べてみる事にした。

だが石像は非常に重く、人の力ではとても動かせそうに無い。どうやら石像自体に仕掛けがある訳では無いようだ。

また、何かを嵌め込む穴が開いている訳でも無いので、特殊なアイテムが必要という訳でも無さそうだ。

謎を解く鍵がなかなか見つからず、4人は頭を悩ませるばかりだ。


「……あれ?」


その時、アデラが何かを見つけたようだ。

台座の部分――石像の足元に、不可解な小さい溝が掘られているのだ。

その大きさから判断して入れられる物は――


「フィーベ貨……? それも1万フィーベ硬貨……?」


試しに彼女は、銭袋から1万フィーベ硬貨を1枚取り出し、溝に合わせてみる。

するとどうだろう、彼女の勘は見事に当たっていたのだ。


「これはつまり……そういう事……?」


一縷の望みを賭けて、アデラは銭袋にある1万フィーベ硬貨を、次々と溝の中へと落としていく。

3人は彼女の行為に目を丸くし、クレオに至っては咎めるような言葉を発する。それでもアデラは、気にも留めずに1万フィーベ硬貨を入れ続ける。

そして50枚程投入したところで溝が塞がり、それ以上投入出来なくなった。

するとアデラは、もう1つの石像の許に歩み寄る。何とその足元にも、同様の溝が存在していたのだ。

彼女はその溝にも1万フィーベ硬貨を次々と入れていく。

最早異常としか言えない行動に、3人は止める事すら諦めているようだ。

その後、こちらも50枚程投入したところで溝が塞がった。

すると次の瞬間、地鳴りのような音が周囲に轟き、一帯が揺れ始める。


「えっ……!? な、何……!?」


思いもよらない現象にアデラ達は困惑の色を隠せず、最早立っているのがやっとという感じであった。

その時、硬貨が詰められた台座がゆっくりと沈下し出したかと思うと、段丘の頂に宮殿のような大きな建築物が、隆起するように姿を現した。


「な、何あれっ……!?」


アデラが声を上げながら目を白黒させているのを尻目に、クレオは何か合点がいったのだろうか「そういう事だったのか」と声を上げる。


「な、何がですか、クレオさん?」

「さっきの暗号みたいな文章だよ。あれは、持ってるだけの【本物】の財産を全て供えろ、って意味だったんだよ」

「こんな仕掛けを施した隠し方をされたら、確かに見つけようは無いですね」

「それにしてもアデラ……お前あんな大金よく持ってたな」

「エヘヘ……実は資金集めの為に、毎晩魔物狩りをしては、採れた素材を鍛冶屋に買い取ってもらってたのよ。いざという時に大金が必要になるかな、って旅をしていてずっと感じてたから」

「フッ……まさか28にもなるあたしが、9つも年下のアデラに借りを作る事になるとはねぇ……」

「えっ? 何か言いました?」

「いいや……兎にも角にも、この中にきっとあいつがいる……行くよ、皆」


クレオを先頭に、アデラ達は宮殿の中へと進入していった。


――――――――――――――――――


宮殿の中は、色や大きさが様々な宝玉や大量の砂金で埋め尽くされていた。

幾千人――否、幾万人に分け与えたとしても有り余ってしまう程の財産が、宮殿内の其処彼処に眠っている。

貪欲なスペンサーが欲したのも、スザンヌの両親が巧妙に隠そうとしたのも、この異様な光景を見れば納得せざるを得ないだろう。

普段旅をしている中では決して目にする事の無い財の山に度肝を抜かれつつも、アデラ達は宮殿の更に奥へと歩を進めていく。

暫くすると、彼女達は突き当たりの空間に足を踏み入れていた。

そこにはこれまでとは量も質も桁違いの宝玉と砂金が眠っていた。

恐らくこの空間は、スペンサーが生涯で最も欲していた【本物】の【白金の泉】と呼ばれる場所だと思われた。


「ん……? あれって……」


するとクレオが、空間の奥の方に微かな影を見つける。

目を凝らしてみると、こちらに背を向けて佇み、宝玉と砂金の海を見詰める1人の女――【全てを貪り食いし者】スザンヌの姿が……

まるでアデラ達を待ち受けているかのように、ただただ無言でその煌びやかな光景を眺めている。

一瞬()()()のトラウマを思い出すクレオだったが、逃げる事はせず、意を決して3人と共にスザンヌの許へと歩み寄っていく。

そして目と鼻の先まで近付いたところで、スザンヌはアデラ達の存在に気付き、徐にその方へと視線を向ける。


「あら……まさか本当に来れるとはね……」

「這ってでも行くさ。あんたを止める為なら、何処へでも」

「ククククク……そう……」


一言だけ呟くと、スザンヌは再び宝玉と砂金の方へ視線を向ける。


「見てみなさい、この宝玉と砂金の海……全部両親の遺産よ……」


鼻に掛けたような口振りだが、その表情は硬く険しかった。


「両親は……善良な領主()()()……多くの財産を民と分け合って、街が幸福であるように()()()()()()……でも、頭の中は世に蔓延っている馬鹿と何一つ変わらなかった……! 民に与えていたのは端金(はしたがね)程度で、自分達は馬鹿みたいに貯め込んでたのよ……! 命よりも大事にしてね……」


死人に口無しと言わんばかりに、己を寵愛し多くを学ばせていた両親に対して、極まりない悪態を吐くスザンヌ。


「そして2人が私にくれたのは……一族の呪われた遺産――1つの指輪だった……」

「指輪?」

「そう……この指輪よ……」


そう言って彼女はアデラ達に視線を向け、右中指に嵌められた指輪を見せる。


「私はこれを自分の指に嵌めて生きてきたけど……ある目的の為に、あの馬鹿男に(わざ)と拾わせたの……」


言わずもがな、その馬鹿男こそ、後に強欲侯爵と呼ばれたエドガーである。


「遠目からも分かるあの欲深い目を見て確信したわ……指輪を重宝して、その力を最大限に引き出してくれるって……そして馬鹿男は……私が期待した通り、強欲な馬鹿侯爵となった……そして肥え切った時期を見計らって……私は彼を葬り去り、指輪を取り戻し……全財産を余す事無く貪り食った……全部私の計画通り……」

「お前……そんな事の為に、俺とアデラにエドガーを……!」

「利用した訳じゃないわ……私の思惑通りに、あんた達が勝手に動いただけ……」


自分達が駒のように扱われたと感じたショーンは怒りを露わにするが、スザンヌは飽くまでも知らず知らずの内に上手くいっていただけなのだと――自分に怒りの矛先を向けるのはとんだお門違いだと言わんばかりに軽く()なす。


「あの男を見つけた同じ頃……私はもう1人、気になる人間と出会った……それがあんただったのよ、クレオ……」


三白眼で睨み付けながら、スザンヌはその名の者を指差す。


「あんたは自らの能力で様々な物を作り、それを売って資金を得て……でも一切損得勘定で動こうとはせず……様々な形で世の中へ還元していった……私が描いていた()()の人間像とは、全く真逆の存在……そんな姿を見せられて、毎日毎日反吐が出たわ……! そして心に誓ったのよ……この馬鹿女の偽りの皮を剥ぎ取って、醜い本性を曝け出してやるってねぇ! だから、ずうぅっと傍に()()()()()の……」


自分の事を心から友だと思っていなかった。それどころか、親友の仮面を被りながら弱みを握らんと画策していた事実に、クレオはショックのあまり顔を歪ませる。


「なのにあんたは、いつまで経っても本性を現さなかった……ホント腹立つったらありゃしない……!」


スザンヌもまた、今日に至るまで(クレオ)が己の思惑通りにならなかった事に苛立ち、眉間に皺を寄せて悪態を吐く。


「まっ、でも別にいいわ……軍資金は有り余ってるし……もう1度出直し――」

「もうこんな真似は止めな、ペトロニラ……!」


その名を耳にすると、スザンヌは冷笑(せせらわら)いを漏らし――


「ペトロニラ……? 気さくで友達思いのペトロニラ!? 馬っ鹿じゃないの……偽りの皮なのに、いつまでもいつまでも……」


幼き頃の思い出から未だに抜け出し切れていないクレオを罵倒し、懐から短剣を取り出すや否や、アデラ達に刃先を向ける。


「そんなに過去が恋しいのなら……今この場で私が証明してあげる……死をも超える恐怖に晒された時……あんたはあんたでいられるのかを……」

「どんな状況でも……あたしはあたしだよ……!」

「ククククク……さっさと来なさいよ、馬鹿クレオ……」

「もう、戦う事でしか分かり合えないってか……」


クレオの言葉を皮切りに、アデラ達は一斉に各々の武器を構える。

次の瞬間、スザンヌは突然哄笑したかと思うと、クレオに更なる嫌味を浴びせる。


「クレオォ! あんたもどうせあれでしょ!? 財産の臭いを嗅ぎ付けて来たんでしょ!? この宝玉と砂金の山が欲しくて堪んないんでしょ、えぇっ!? これだけあれば、あんたも馬鹿みたいに大きな存在になれるもんねぇ!? 自分の欲望に素直になんなさいよ、クレオォ!」

「それはとんだ間違いだよ。あたしはあんたを止める……その為だけに来たんだ」

「止める……? この私を……?」


あんたは本っ当に学習しない大馬鹿者ね――最早そんな感情を隠そうともしない、軽蔑を込めた哄笑を発すると、その表情は一変して憤怒に満ち溢れる。


「自惚れてんじゃないわよぉ!! あんたのその反吐が出る偽りの皮も、今この場で剥ぎ取ってやるわよ、クレオォ!!」


怒鳴り散らしながら短剣に火の属性魔法を宿らせると、スザンヌは地面を強く蹴り、一気にクレオに接近し横薙ぎに斬り裂こうとする。

しかし素早さでは引けと取らないショーンが一瞬で間に入り、短剣同士の鍔迫り合いとなる。


「クレオを相手にしたかったら、俺達を倒してからにするんだな……!」

「馬鹿女の金魚の糞でしかないあんた達に用は無いの……さっさと消えて……!」

「随分と他人の事を馬鹿呼ばわりし続けてるようだがな……馬鹿は馬鹿なりに這い上がる術を身に付けるものなんだよ……!」


火属性魔法によって手に若干の火傷を負いつつも、ショーンは眉一つ動かさず、気力でスザンヌを押し返す。


「この世の人間は全員、欲している財産を目の前にしたら欲望を抑えられない馬鹿しかいないのよ……! そんな馬鹿がい続ける限り【本物】の平和なんか訪れはしない……! だから私が原初の世に変えてやるのよ……馬鹿なあんた達を灰燼(かいじん)に帰してねぇ!」


そう叫びながら短剣を真一文字に振り、いくつもの火の玉を浴びせようとする。


「風よ、掻き消せっ!」


しかしティアナが同数の風の塊で対抗する。


「そうまでして、その馬鹿女の肩を持つって言うの……!? 貧富の格差が生まれたせいで、喘ぎ苦しむ人間が大半を占めていると分かっていながら……!? 何処まで馬鹿の上塗りをすれば気が済む訳……!? 格差なんてこの世から消えて無くなった方が、圧倒的な早さで平和を実現出来るに決まってる!」

「確かに貧富の格差は小さいに越した事は無いでしょう。ですが格差があるからこそ、人々は足掻き這い上がる事を止めずに生きられるんです……! 格差が無い世界になれば、きっと人々は誰もが勤めを忘れ、学びを忘れ、(やが)て怠慢に慣れてしまい、何れは普通の生活を送る事すら(まま)ならなくなるでしょう。それが【本物】の平和な世界だとは、私達は思いません……!」

「馬鹿の一つ覚えみたいに……知ったような口を利くなぁ!」


怒りに狂ったかのように叫ぶと、地面を強く蹴って駆け出し、ティアナを突き刺さんと大きく短剣を振り上げる。

そうはさせまいと、透かさずアデラが棒を構え――


雷よ、彼の者を封じよ(シジルム・トニトルス)!」


先端から黄色い光の玉を放ち、格子状の巨大な球体に変化させ、スザンヌの全身を素早く包み込む。


「ぐぅ……っ!?」

「あんたは財産や蓄えは呪いだとか言って忌み嫌ってるけど、それを貪り食っているあんた自身が、実は呪いに魅入られているんじゃないの……!? そんな人が【本物】の平和な原初の世を創世出来る筈が無いわ……! だってあんたの理想郷には、人間の血が全く通っていないんだもの……!」

「フッ……そうだね。全く皆の言う通りだよ」


そんな声がした方へ、その場にいる全員が視線を向けると、クレオが両手から斬糸を生み出しながらスザンヌの許へと歩を進めている。


「生きている人間は皆、大なり小なり弱くて狡賢(ずるがしこ)くて危険な存在――それは別に否定しないよ。でもね、それを受け入れて向き合うからこそ、あたし達は分かり合えて共有し合えるもんなんだよ……!」

「クレオォ……馬鹿糸しか扱えない馬鹿正直な馬鹿女の分際でぇ……!」


身体の自由が利かないなりに、スザンヌは短剣を力の限り振り回す。

だがクレオも負けじと斬糸を鞭のように扱って抗戦する。


「馬鹿短剣を振る事しか能が無いあんたにだけは言われたくないねぇ……」

「……っ!?」


何の前触れも無く、自分の言い回しを他の人間の口から聞かれるとは努々(ゆめゆめ)思わず、スザンヌは(ひる)んだ表情を一瞬浮かべる。

その隙をクレオが見逃す筈が無かった。

両手から生み出した糸で、スザンヌの全身を雁字搦めにする。


「もう下手に動かない方が身の為だよ?」

「くっ……! 過ぎ物だらけの馬鹿クレオ……あんたが持ってるものを……全部貪り食ってやる……! こんな糸……私の火に掛かれば――痛っ!」


火属性魔法を発生させようと、僅かに両腕を動かしただけなのに、彼女の全身に凄まじい痛みが走り、(おびただ)しい血が染みとなって服に浮かび上がる。


「だから下手に動くなって言っただろ? それも斬糸なんだからさ」

「なっ……!?」

「まっ、動かなくても……あたしが動かすまでだけどねっ!」


クレオはそう叫ぶや否や、スザンヌを搦めている斬糸の締め付ける力を強める。彼女の服の上から糸が食い込んでいくと、次第に生地自体が損傷し、軈て皮膚をも傷付けたのだろう、斬り口から大量の血が湧き水の如く流れ出す。


「あ……アァッ……! アアアアァァァァ!」


鋭い痛みに耐えかねたスザンヌは、断末魔のような叫び声を上げる。

暫く締め上げると、クレオは糸を外して解放する。

文字通り血の気が引いた様子でその場に倒れ込むスザンヌ。

しかしまだ息はあるようで、身体を震わせながら僅かに顔を上げ、嫌悪感や憎悪の感情を露わにした目でクレオを睨み付けると――


「私は……絶対に死なない……! あんたの……人間としての底を……この目で見るまでは……!」


血みどろになりながらも徐に立ち上がり、絞り出すように声を上げると、指輪が嵌められた右手を徐々に上げていく。


「……っ!? ペトロニラ!」


透かさずクレオが制止するが、時既に遅し……


「【暴食】の力宿りし指輪よ……我の声を届け、真なる姿を……真の【暴食】を我に与えたまえ……我は【全てを貪り食いし者】なり……!」


スザンヌがそう唱えた瞬間、指輪が赤く発光し、彼女の身体が不気味な漆黒のオーラに包まれる。


「いつまで本性を隠すつもりなのよ、クレオ……? 自分の理想の為に、散々他人を利用してくれちゃってさぁ!」


彼女の恨み節を餌とするように、オーラはその体積を増大させていく。

そして激しい爆発音と共にオーラが霧散すると、そこにはスザンヌと同一だとは言い難い、身の毛が弥立(よだ)つような(おぞ)ましい姿をした巨大な化け物が、鋭い牙を剥いて4人を見下ろしていた――

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