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Question of JUSTICE ~8つの指輪物語~  作者: 瑠璃唐草
第5章 暴食を授かりし者
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告げられる貪戻

「今に思い知る事でしょう、己の罪深き愚行をっ!」


怒り狂うニネットの声を合図に、駆け付けた信者達が一斉に祈りを捧げるように、何かを小声で呟いている。所謂(いわゆる)詠唱である。


「させるかっ!」


すぐに察知したショーンが、阻止すべく隠しナイフを信者達目掛けて投げ付ける。


「……っ!?」


だが投げられたナイフは、信者達の目の前で、見えない壁のようなもので遮られ、そのまま床に落下する。


「馬鹿な……! あれ程の回避魔法(バリア)は、相当な詠唱を行わなければ作り出せない筈だぞ……!?」

「フフフフフ……主への厚き信仰心があれば、この力を引き出す事など造作もありませんよ」

「まさか、短縮詠唱を習得しているのか……!?」

「さぁ、見せて差し上げましょう。主が示したもうた道標をっ!」


ニネットは先端から白い光を発している杖を前に突き出し、いくつもの光線を次々と浴びせていく。


「闇よ、掻き消せっ!」

「風よ、散らせっ!」

「水龍よ、押し返せっ!」

火よ、彼の者を燃やせ(アルディエ・イグニス)!」


その強力且つ広範囲の連続攻撃に、アデラ達は己の属性魔法を只管(ひたすら)発動させて対抗するのが関の山だった。

程無くして攻撃の手は一旦収まったものの、かなりの気力を消耗してしまったのだろうか、アデラ達は皆、既に肩で息をしていた。


「フフフフフ……哀れな小鹿達よ……主に反逆する事が如何に愚かで無謀であるか、これで理解出来ましたでしょうか?」


余裕の笑みを浮かべながら、ニネットは主に降るよう唆すような口調で翻弄する。


「あなたの主への厚い信仰心は、確かに理解出来ました……」

「おや? もう降参の意を示すのですか? しかし残念ですが、あなた達の背信の大罪は未来永劫払拭する事は――」

「ですが……聖炎に対する信仰は、私には敵いませんよ……!」

「無論、私の【本物】への思いもね……!」


ティアナが杖を、アデラが棒を天に(かざ)すと――


「聖炎よ、我等に御加護を……!」

香よ、皆の者に蘇生を(レスタウロ・オドール)!」


回復魔法と強化(バフ)の香属性魔法を同時に繰り出す。


「むっ、あなた達も短縮詠唱の使いですか。しかし、所詮は主の声に耳を傾けぬ愚かな小鹿……敬虔な信徒である私に楯突くなど出来よう筈もありませんよ!」

「それはどうかしら?」

「何?」

「小鹿も信じるべきものの為なら、猛獣にだってなれるのよ!」


そう叫んだアデラが棒を力強く握り締めて構えると――


光よ、彼の者を眩ませ(フルグーレ・ルクス)!」


先端から複数の白い光の玉を一斉に放ち、ニネットと信者達の眼前で拡散させ、眩い閃光を放つ。

目眩ましに遭ったニネット達は、短い声を発して目元に手を翳す。


「くっ……この程度の光、主が授けてくださったものに比べればっ……! 雑念を滅却すれば、光もまた暗しっ!」


己を鼓舞するような強い口調と共に、邪気を振り払うかの如く首を大きく振って目を開けるニネット。

だがそこに映っていたのは、全く予想外の光景だった。

旅の初期よりも更に敏捷性に磨きが掛かったアデラの棒裁きよって、信者達が滅多打ちにされていたのだ。

そして……


「ティアナさん! アイザックさん! 今です!」

「風よ、斬り裂けっ!」

「水龍よ、飲み込めっ!」


2人の属性魔法によって、信者達は呆気無く倒されてしまった。

その光景を目の当たりにし、絶句するニネットは――


「主を侮辱するばかりか、信者をも邪険にするとは……やはりあなた達には、罰による死が相応しいようですねぇ……!」


目を大きく見開き、怒りの形相を浮かべ、再び杖の先端から白い光を発しようとするニネットだったが――


「あぁっ……! あぁぅ……」


突然短い声を上げるや否や、その場に立ち尽くしてしまう。

ショーンの短剣が彼女の腹部を貫いていたからだ。


「妄信は身の破滅を生む……冥土の土産として受け取るんだな」


死刑宣告を下し、短剣を一気に引き抜く。

ニネットは口から大量の血を吐きながら(ひざまず)くと――


「スザン……ヌ様……私は……信じて……す……あなた、様……が……必ずや……この……歪みし世……を……」


主に全てを託す言葉を漏らしながら、その場で絶命する。


「さぁ、行きましょう……!」


アデラ達は武器を仕舞うや否や、部屋の中へと入っていく。


「「「「……!」」」」


そこには、数多の短剣で滅多刺しにされた挙げ句に血みどろの肉塊と化したスペンサーと、それを蔑むような目で見詰め、口角を吊り上げるスザンヌの姿が……

駆け寄っていくと、程無くしてスザンヌが4人の存在に気付き、舌打ちをする。


「チッ……またあんた達……まぁいいわ、歓迎してあげる……改めて、私の故郷へようこそ……」

「あなたに聞きたい事があります」


若干声を震わせながら、ティアナが口を開く。


「あなたは何故クレオさんを殺そうとしたんですか!? 彼女とは同じ釜の飯を食べた、20年来の親友の筈ですよね!?」


普段の彼女からは想像も付かない形相で、強い口調で詰問する。

だがスザンヌは、そんな彼女を軽く()なすかのように、揶揄うような表情と共に「分からない」とでも言いたげな身振りを見せる。


「さぁね……()()()()()()からじゃない……?」

「何だ、その言い草は……!?」


ショーンは既に目を血走らせている。


「ペトロニラなんて人間……()()()()()()()()()のよ……」


だからクレオとなんて親友じゃない――とでも言いたげな挑戦的な発言。

それを尻目に、アデラ達は人の形を留めていないスペンサーの姿を一瞥する。

その事に気付いたスザンヌが、徐に()()に歩み寄り――


「その様子だと、もう読んだみたいね……この馬鹿豚の馬鹿手記を……」


そう言いながら、血の海に転がっている肉塊を足蹴にする。


「嘗て私は……()()()()()()()()の……あの日が来るまでは……」


すると突然彼女は、己の生い立ちを語り始めた。


ハーメネイ家の一人娘として生を受けた彼女は、その強さ・賢さ・美しさを買われ、当時の領主であった両親から寵愛されていた。無論、将来の家系を永く継いでいく存在として。

両親は彼女が幼き頃から、宝玉と砂金が財産を生み、財産が新たな民を生んでいく事、富める事――財を成す事は即ち、人類にとって幸福である事を教えていた。


――スザンヌ、財産は決して人を裏切らん


「両親の口癖だった……無論私も、そう信じてた……でも、全部嘘だった……!」


スペンサーによるクーデターが勃発し、一人娘の身の危険を察した両親は、彼女に家宝の指輪を託し逃亡させたのだった。


「何処までも遠くへと逃げたわ……私の顔を知っている人がいない所まで、何処までも……蓄えも財産も持たず、着の身着のまま――馬鹿家畜同然でね……!」


天涯孤独となった彼女の腹を満たしていたのは、(たま)に降る大雨が作り出した水溜まりのみ……


「誰も頼れず、泥水を飲み続ける毎日……そこで私は悟ったの……【財産】は人を裏切る……! 【財産】は全てを奪う……! 【財産】は人間を馬鹿みたいに醜くする……! この世は【財産】という呪いに縛られているって……! そして同時に誓ったの……私が全ての【財産】を消し去って、誰もが()()()()()()()()となる【本物】の平和な原初の世に変えてやるってね……!」


それが彼女なりの【正義】だという事なのだろう。

だがそれでも、行き過ぎた【正義】に同情の余地は無いだろう。

若しかしたら彼女自身、同情してもらうつもりなど毛頭無かったが為に、この場で生い立ちを語るに至ったのかもしれない。


兎にも角にも、スザンヌは己の持つ価値観を演説し終えると――


「さて……馬鹿みたいな思い出話はこれで終わり……」


吹っ切れたかのようにそう吐き捨て、部屋の裏口から出ていこうとする。


「何処行くのよ……!?」


透かさずアデラが制止させる。

振り向いたスザンヌの歪んだ笑みからは「何処へ行こうと私の勝手でしょ……」といった苛立ちに似た感情が滲み出ている。


「そろそろ始まる頃だからね……ずっと馬鹿笑い出来る、馬鹿面白い事が……それと、帰ってクレオに伝えておきなさい……ガーヴェックの結末を見届けたくなかったら、頭の一つでも下げに来い……ってね……」


そう言い残し、スザンヌは不気味な笑い声を漏らしながら立ち去る。


「何が結末だ……! 誰が頭を下げるって……!?」


怒髪衝天したアデラ達はすぐさま後を追おうとするが、部屋に残っていた信者達によって足止めされてしまう。

その後4人で信者達を一掃したものの、既にスザンヌの姿は無かった。


「くそっ……! また逃がした……!」

「しかし、彼女のあの言葉……まさか本当にガーヴェックを?」

「少なくとも脅しという感じではなかった……備えなくては」

「そうね……早く戻って、皆に知らせないと……!」


4人は足早に御殿を後にした。


――――――――――――――――――


アデラ達が帰路に就いている間、とある街では凄惨な光景が繰り広げられていた。

至る所から火の手が上がり、住民達が挙って血で血を洗っている。

更には、貧民達が強盗よろしく住居へ押し入り――


「金ならいくらでもくれてやる……! だから――」

「嬉しい事言ってくれるねぇ……だが分からないのか?」

「……?」

「最早用済みなんだよ……そんな馬鹿げた物!!」


何の躊躇も無く惨殺する。


時と共に灰と化していく街の様子を、スザンヌは信者達と共に、高台から北叟(ほくそ)笑みながら傍観していた。


「汝、全てを持たざるべし……蓄えこそ身を灰燼(かいじん)と帰す業火……末代まで祟る呪いに他ならぬ……」


呪詛の言葉を呟きながら……


「さて……愈々(いよいよ)次は憎きガーヴェックよ……」


信者達を引き連れてその場を離れるスザンヌ。

クレオの故郷の破滅は、寸秒を争うところまで近付いていた――

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