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Question of JUSTICE ~8つの指輪物語~  作者: 瑠璃唐草
第4章 傲慢を授かりし者
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絶望の終焉

「余は……余こそが……」


全身が焼け(ただ)れた上に両断された状態で、その場に立ち尽くすトラヴィス。

痙攣させながらも、なお悪足掻きのような声を漏らすが――


「お父様……もうここまでです……」


終焉を告げる呪文のような言葉がマーガレットから発せられると、巨大な悪魔は煙のように消失し、本来の人間としてのトラヴィスの姿に戻った。それと同時に彼の指から、赤い光を発する指輪が外れ、アデラの足元へと転がっていく。

彼女がそれを拾い上げると「トラヴィス(あいつ)には荷が重過ぎた」と言わんばかりに、指輪はその光を鎮める。

トラヴィスは苦悶の声を漏らしながら徐に立ち上がり、天を仰ぎ、神に縋るかのように両腕を広げる。


「余は……何者なのだ……? 己の強欲さに身を任せ、私腹を肥やす王か……? 憤怒や嫉妬に荒れ狂い、虚勢を張る王か……? 余は……」

「いいえ……どちらでもありません」

「あなたは、初めから何も無かった……ただの孤独な王です……」

「ぁ……ぁぁ……」


息女(マーガレット)子息(エルベルト)からの無情な宣告に、国王(トラヴィス)は言葉を失い、糸が切れたマリオネットのようにその場に倒れ息絶えた。


――――――――――――――――――


アデラ達が屋上に戻ると、そこでは何も知らないポスマーニ軍と連合軍の兵達が、未だに戦闘を繰り広げていた。

その群衆に向けてエルベルトが「皆さん!」と斬り裂くような声を上げると、その場にいる全員が手を止め、アデラ達の方へと顔を向ける。


「これ以上の争いは無意味です! 今し方、トラヴィス国王は討たれました!」

「この戦い、私達の勝利です!」


姉弟の高らかな勝利宣言に、連合軍の者達が全員勝鬨(かちどき)を上げた。


()くして(くだん)の戦は、マーガレット・タレス王率いる連合軍が勝利を収め、トラヴィスの長きに(わた)る独裁は幕を閉じたのである。

指輪の存在は、その危うさから人々に隠蔽され、争いを終息へ導いた【正義に選ばれし者達】もまた、ほんの一握りの王のみが知る存在となり、歴史の陰に紛れる事となった。


――――――――――――――――――


そして、時が流れ――


「姉さん……大丈夫?」

「何だか照れ臭いし……やっぱり緊張するわね……」

「まぁ、誰だってそうなるよ」


城の屋上にエルベルトとマーガレットの姿があった。その傍らには、アデラ達7人の姿も……

ただ、マーガレットは深紅の煌びやかな服に身を包んでいる。

そう……彼女は民衆からの支持により、ポスマーニの女王に就任したのだ。


「【正義に選ばれし者達】……あなた達無しでは、この日を迎える事は出来なかった。感謝するわ」


マーガレットはアデラ達に向けて、両手でスカートの裾を摘まんで、軽くスカートを持ち上げながらお辞儀をする。所謂カーテシーと呼ばれる挨拶だ。


「私達もあなたの【本物】の強さが無かったら、きっと途中で心が折れていたかもしれないわ。感謝するのは、寧ろ私達の方よ……有難う、マーガレット女王」


微笑みながら謙虚に感謝を述べるアデラ。


沈魚落雁(ちんぎょらくがん)の上に閨英闈秀(けいえいいしゅう)……ポスマーニが誇る才色兼備に感謝されるとは……俺も鼻が高いぜ、ヘッヘッヘ――痛って!」

「あんまり図に乗ってると、いつか鼻毛を読まれるぞ」


ショーンに脛を蹴られ、その場に屈んで悶えるジュノの姿に、アデラ・ティアナ・クレオ・ウルスラの4人は失笑しそうになる。


「まっ、調子外れのジュノ君は扨置(さてお)き……マーガレット女王、あなたは他に引けを取らない人望や仁徳、そして【本物】の芯の強さを兼ね備えていて、正に王国の長になるべくしてなった女性と言えるだろう。しかし、決してそれに胡坐を掻く事無く、常に国民への傾聴を心掛け、粉骨砕身の精神を忘れないように」

「えぇ。(しか)と肝に銘じておくわ」

「さぁ、そろそろ出番だよ姉さん――否……女王様」


エルベルトに促され、マーガレットは端の方へと歩いていき、城前の広場へと視線を向ける。

そこには、新たなポスマーニの長の誕生を喜ぶ国民達が一堂に会していた。その中には、先の争いで彼女と共闘した同志達の姿もある。

その群衆に向けて、マーガレットは慎ましくお辞儀(カーテシー)をする。


「この日を皆さんと共に迎えられた事、大変幸甚に存じます」


喜びに満ちた言葉で、彼女の演説は始まる。


「今から約200年程前、ある王族の諍いが勃発しました。その果てに、王孫によって崖の上に建てられた国――それこそが我がポスマーニです。ですが……人間の欲望とは、底無しの谷の如く深きものです。時が経ち、ポスマーニは多くの国と民を傷付け従えました。そして争いから生まれた国から、また新たな争いを生み続けました。ここにいる皆さんは、その歴史と経験から、大きな痛みと苦しみを分かち合った事でしょう……それでも私達は希望を捨てませんでした。如何なる時も……」


ポスマーニの歴史は、悲哀に満ちたものであった――その象徴を目の当たりにしてきた彼女だからこそ、語られる言葉に重みがあった。

そして同時に、今こそが転換の時である事も訴える。


「皆さんには、守るべきものはありますか? 私にはあります。それは……ポスマーニの未来です。亡き母と兄、そして……共に歩んでくれた弟と大切な者達から託された、希望の光です」


群衆のみならず、後ろで見守る8人の思いも一身に背負う覚悟が彼女にはあった。

自らが未来を照らす光となり、【本物】の平和を実現せんとする覚悟が……


「守りましょう、己が大切なものを……! 守りましょう、己が親と子の温もりを……! 守りましょう、己が家族との掛け替えの無い瞬間(とき)を……! 守りましょう、誰もが分け隔て無く与えられた日を……!」


誰にでも守るべきものが存在し、その為なら人は抗う事が出来る――力の籠った彼女の言葉に、誰もが感銘を受けている。

そして……


「そして、共に歩みましょう……! さすれば、その先に必ず、皆さんが望む未来があるのです……! クォージウスに光があらん事を!」


高らかな宣言に、群衆は万歳三唱を行い、歓喜の声を上げた。


そして、ポスマーニとマームストの二国間で再び不可侵条約が締結され、新たな女王の名前は大陸の各地に語り継がれたのだった。

クォージウスを照らす、新たな【光】として……


――――――――――――――――――


「本当に行くの?」

「うん。この国での僕の役目は、一先ず区切りが付いたからね」


演説終了後、エルベルトは城の前にマーガレットとハルマンを呼び出し、再びポスマーニを離れる事を伝える。無論、アデラ達の旅に同行する為である。


「そう……それじゃあ、一旦お別れね」

「また必ず顔を出すよ」

「えぇ、絶対よ?」


「うん」と短く声を発すると、別れを惜しむようにマーガレットと抱擁を交わす。


「ハルマン、姉さ――女王様をお願いします」

「お任せください、エルベルト様」


マーガレットの警護をハルマンに一任すると、エルベルトは2人に背を向け城を後にする。


城前の橋を渡り切った先では、アデラ達7人が待っていた。


「皆さん、お待たせしました」

「本当にもういいの?」

「えぇ。未練がましいものは、何もありませんから」

「まさかお前の方から、俺達に同行したいと言い出すとはな……」

「不束者の愚弟である事に変わりありませんが、また宜しくお願いします」

「いえ……こちらとしてはとても心強いです、エルベルトさん」

「ただその御蔭なのか、金魚の糞みてぇに他の奴等も……」


ジュノが流し目で見詰める先には、サポーターの3人の姿が……


「ちょいと、ジュノ……金魚の糞って、随分と失礼な言い回しをするねぇ」

「せめて『花も実もある同士』とか言ってほしかったわね……」

「まあまあ、以前と同様に上手くやっていこうじゃないか。武士は相身互いだよ」


そんなやり取りを傍目で見ていたアデラは――


「あの夢の通りに……本当に8人になるとはね……」


と、感慨深そうに呟く。


「えっ? 何ですか、アデラさん?」


近くでエルベルトが聞き耳を立てていた事に気付かず、思わず「へっ?」と間抜けな声を漏らしてしまうアデラだったが――


「あぁ、何でも無いの……! ただの独り言だから、気にしないで……!」


と、苦し紛れに取り繕う。

エルベルトも特に食い付く様子も無く、「そうですか」と引いた。


「じゃっ、改めて8人で次の【本物】を見つけに行きましょう……!」

「はいっ、アデラさん……!」

「これだけ人がいれば、益々賑やかになりますね……!」

「賑やかどころか騒がしくなりそうな気がしてならないがな……」

「そんな事言って、また同志が集まれて愁眉(しゅうび)を開いてるくせによぉ……!」

「いやはや、今回は前よりも少し長い付き合いになりそうだねぇ」

「ウフフ……私は大歓迎よ……? 刺激のある旅は……」

「新たな興味深いものを目の当たりに出来そうな予感もするしね」


8人の旅団は次なる【本物】を求め、ポスマーニの地から去って行く。

未来へと進む光の餞別を送られながら――

これにて【第4章 傲慢を授かりし者】終了です

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