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Question of JUSTICE ~8つの指輪物語~  作者: 瑠璃唐草
第4章 傲慢を授かりし者
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プライドルシファー・トラヴィス

「結局、こうなる運命なのね……!」


王の間を破壊してしまいかねない程に巨大化し、且つ人間としての原型が完全に崩れたトラヴィスの(おぞ)ましい容姿に、アデラを始めその場にいる全員が、目を皿のようにして見上げ立ち尽くす。

獅子(ライオン)のような見た目ながら、その腕は人鳥(ペンギン)を彷彿させる(フリッパー)状の屈強なものであり、全身に付いている数多の蠢く目は、孔雀の羽の模様を連想させる。そして背中から生えている4枚の羽は、(ふくろう)蝙蝠(こうもり)のそれに非常に似ている。

その姿は、合成獣(キメラ)ではない別の悪魔の一種であると言わざるを得ない。


「余こそが……クォージウスを統べる唯一にして絶対の王なり……この世の全ての頂は……余の物ぞ……!」


複数の人間の声が合わさったような重圧感のある低い声が、トラヴィスの心の内を具現化しているようにも聞こえる。


「あんたが何と言おうと、私達は前に進むだけ……新たな未来を作る為に!」


力の籠ったアデラの声に鼓舞されたかのように、全員が鋭い目でトラヴィスを睨みながら、再び各々の武器を構えて戦闘態勢に入る。


「余は間も無く【正義に選ばれし者】アデラが持つ指輪を手にする……その時、真の神が降臨する……その光景を見るが良い……!」


トラヴィスはそう叫ぶや否や、ふわりと宙に浮かんだかと思うと、背中の羽を強く羽撃(はばた)かせてアデラ達に突進していく。

それを上手く躱すと、こちらに背を向けている隙に、クレオが両手を前に突き出し、指先から糸を何本も出現させて拘束しようと試みる。


「学ばぬ小者が……」


だがトラヴィスは予見していたのであろう、一瞬で転回すると、屈強な腕で迫り来る糸を跡形も無く細断してしまう。


「ちっ……駄目だったか……!」

「なら、私が魔法で……!」


透かさずアデラが棒を構え――


雷よ、彼の者を封じよ(シジルム・トニトルス)!」


先端から黄色い光の玉を放ち、すぐさま格子状の巨大な球体に変化させ、トラヴィスの全身を包み込む。


「効かぬわ……!」

「……!?」


だが彼の動きは、封じられるどころか更に勢いを増している。

結果的に、アデラとクレオは大きく突き飛ばされ、壁に全身を叩き付けられた。


「アデラの魔法が通用しないだと……!?」

「魔法がというより、異常な状態にして有利に進める事が出来ないようです」

「それじゃあ、私の扇の殆どはただの物理的攻撃にしか使えない訳ね……」

「四の五の言ってても埒が明かねぇ……! 猪突猛進だぁ!」


想像だにしていなかったトラヴィスの強靭さに、アデラ達はある程度の手を封じられてしまった。それでも必ず(いとぐち)があると信じ、臆せずに立ち向かっていく。

ショーンの短剣、ジュノの弓や槍や斧、ティアナの風属性魔法、クレオの斬糸、ウルスラの鉄扇、アイザックの水属性魔法、エルベルトとマーガレットの光属性を纏った剣、そしてアデラの棒術と3つの属性魔法……

9人全員が各々の得意とする攻撃で、トラヴィスへ猛攻を仕掛けていった。

しかし複数人で同時に攻撃しようが、視界の外から奇襲を掛けようが、トラヴィスは全く付け入る隙を与えず、あらゆる攻撃を()なしては反撃を食らわせてくる。


「痛痒を感じぬ……」


そう漏らしてしまう程に余裕を見せているトラヴィスとは裏腹に、9人は体力を奪われ続け、挙げ句の果てに全員が肩で息をしている有様だ。

そして――


「これで終いだ……神の一撃を受けるがよい……!」


そう叫びながら天井近くまで浮遊し大口を開けると、そこから巨大化した火と闇の混合魔法が吐き出される。

それが床に着弾した瞬間、耳を(つんざ)く程の爆発音と共に、大量の砂埃が部屋全体に巻き上げられる。

暫くして静寂が訪れ、視界も徐々に晴れていく。

トラヴィスが改めて下の方へ視線を向けると、そこには満身創痍で倒れ、虫の息と化した9人の姿が……


「心悪しき者達よ……貴様等に【正義】を語る資格など無い……! この世を司る【本物】の【正義】は……神である余の手に……!」


完全なる勝利を確信したのだろう、己の【正義】が絶対であると檄を飛ばすかのように、天を仰ぎながら両腕を広げ、城の外まで聞こえる程の雄叫びを上げる。


「【本物】の……【正義】……?」


その言葉に反応したアデラは、徐に身体を起こし――


「何が【本物】の【正義】なのか……私にはまだ分からない……否、若しかしたら……マーガレットが言ってた通り……これが【正義】だと言えるものは、この世には無限にあるのかもしれないわ……」


近くに転がった棒をガシッと掴み、ぎこちなく立ち上がる。


「でも1つだけハッキリと言えるのは……少なくともあんたが【正義】と呼ぶものは、修正出来ない程に歪み切った、偽りのものだって事よ……! それを野放しにしない為にも……私達はここであんたを討つ……絶対に!」


荒々しく呼吸をしつつも、涙が溜まった目でキッと睨み付け、改めて棒を構える。だがその手は、体力の消耗から来ているのか、あるいは畏怖によるものなのか、僅かに震えていた。

しかし、そんな彼女に感化されるように、他の8人もまた、トラヴィスを睨みながら何とか立ち上がろうとしている。

片やトラヴィスは、アデラ達を諦めの悪い者だと苛立っているのか、蔑むような目で見下し「フンッ」と鼻息を漏らす。


「余の見立て通り、やはり貴様等は虚勢を張る非力な獣……付ける薬の無い心悪しき者達……【正義】とは常に、勝者にのみ使用を許される褒章ぞ……それをその身で思い知るがいい……!」


余に歯向かった事を、あの世で末代まで後悔せよ――そんな意味合いが込められた驕り高ぶった言葉を吐き捨て、トラヴィスは屈強な両腕で9人まとめて圧殺しようとする。

アデラはそれを、無謀にも1人で阻止しようとしている。


だがその時、アデラの指輪が一瞬青く発光すると――


「がはっ……! うぐっ……!」


何かがトラヴィスの鳩尾辺りに直撃したのだろうか、彼は短い声を上げて、腹部を押さえながら悶え始めたではないか。


「い……一体何が……?」


突然の彼の変わり様に、アデラは呆然と見上げている。

すると突然、彼女の目の前に、桃色に輝く光の玉が浮遊しながら出現した。その周りには芳しい靄のようなものが纏わり付いているようにも見える。


「何これ……? 妙にいい匂いがするけど……」

「あれって……!」

「そうだ、間違いない……!」

「私が授かったのと同じソウル……!」


そこにいる誰もが、その光の玉に心当たりがあるようだ。特にウルスラは、自分が授かった能力と同一の物であると確信していた。


「それは(オドール)のソウルですよ、アデラさん……!」

(オドール)のソウル?」

「香属性魔法を得る者にのみ与えられる、香属性の精霊です……!」

「香属性って……ウルスラさんも持っているもの?」

「何てこったぃ……4つも属性魔法を授かる奴がいるなんて、あたしは聞いた事も無いよ……!」

「あれ程の属性魔法を授かる人間は、そう現れるものでは無いのだが……まさか私達がその目撃者となるとは……!」

「まさかアデラには……本当に()()()が秘められているのか……!?」

「私に与えられた属性魔法が……もう4つも……」


そう呟くや否や、桃色の光の玉もとい(オドール)のソウルが、彼女の目の前で細かい粒子となって弾け、彼女が持つ棒が一瞬だけ仄かに桃色に発光した。

その力を受け入れるように、アデラは棒を見詰めながら強く握り締め、鋭い目でトラヴィスを見上げる。


「私達は私達の【正義】を貫くだけ……!」


そして、棒を天高く掲げ――


香よ、皆の者に蘇生を(レスタウロ・オドール)!」


頭に浮かんだ新たなる属性魔法の呪文を唱えると、棒の先端から桃色の光の玉が放たれ、すぐさま細かい粒子となってアデラ達9人に降り注がれる。

するとどうだろう、彼女達の身体が一瞬光に包まれ、全員の体力が回復して傷も完全に癒えたのだ。


「恩に着るぞ、アデラ……!」

「正に才媛って言葉がお似合いだぜ……!」

「聖炎のお導きに感謝です……!」

「このままやられてばかりじゃいられないもんね……!」

「ウフフ、これからが本当の勝負って感じね……」

「アデラ君がくれた絶好の機会、決して無駄にはしない……!」

「希望は捨てません……如何なる壁に阻まれようとも……!」

「私達で……終わらせる……!」


立ち上がる力すら殆ど残っていなかった8人は、水を得た魚の如くスクッと立ち上がって、各々の武器を再び手に取る。

トラヴィスは回復し切った9人を見て若干目を見開いたが、すぐさま口を歪ませて冷笑(せせらわら)いを漏らす。


「フンッ……! 貴様の覚え立ての魔法など、寿命を僅かに伸ばすだけの悪足掻きに過ぎぬ……余の前に(はだか)る者などこの世にはおらぬ……! 余の炎で再び焼き尽され、【本物】の絶望の闇に呑み込まれよ……!」


そう叫びながら再び大口を開き、火と闇の混合魔法を吐く。

透かさずティアナとアイザックが前に出ると――


「風よ、消し去れっ!」

「水龍よ、押し返せっ!」


各々の属性魔法で迎撃する。


「愚かな……貴様等如きに――」


対抗など出来るものか――そう言い掛けた瞬間、混合魔法は着弾する前に霧散してしまったではないか。愚者による水と風の属性魔法如きによって。


「なっ……!? 余の混合魔法を……掻き消しただと……!? 何故だ……!? 貴様等の何処にその力が……!?」


予想だにしなかった光景に、狼狽の表情を隠せないようだ。


「この力は……秘めていたというよりは、引き出してくれたんだ」

「えぇ、アデラさんによって」

「引き出した、だと……? まさか……!?」


2人の言葉でトラヴィスは初めて気付いた。

アデラの香属性魔法は単なる回復(ヒール)だけでなく、仲間達のステータスを格段に底上げする能力――所謂強化(バフ)をも兼ね備えている事を……


「小癪な真似をぉ……!」


一時的とはいえ、己の力を超された事に目を血走らせていると――


「隙ありっ!」


クレオの叫び声と共に、彼女が出現させた糸が、両腕に何重にも巻かれる。


「ぬっ……!?」

「これまで随分と、あたし達を可愛がってくれたじゃないか……たっぷりと御礼はさせてもらうよっ!」


次の瞬間、トラヴィスの足が地から離れると、クレオがハンマー投げの如くぶんぶんと振り回し続け――


「うぅおぉりゃあぁ!!」


その勢いのまま、彼を地面に叩き付ける。

衝撃で窪んだ床の上で、呻き声を漏らしながら、(うずくま)るようにして倒れているトラヴィス。

そこへショーンが、両手に短剣を持って駆け寄っていき――


「俺からも、僅かだが謝礼を支払おう。遠慮無く受け取れ……!」


全身に付いている蠢く目を次々と潰していく。

潰された箇所からは、(おびただ)しい血が絶え間なく流れ出ている。

するとそこへ――


「これこそが、戮力協心(りくりょくきょうしん)の集大成って奴だ!」


斧を持ったジュノが加わり、血みどろの肉片を絶え間無く抉っていく。


「2人とも、そこまでよ……!」


すると何を思ったのか、ウルスラが突然攻撃を止めるよう声を上げる。

だがこれは一種の()()である。

2人がそれに反応してトラヴィスから離れると、透かさずウルスラが大きめの扇を両手に持ち、何かを撒き散らすように大きく振るう。

その何かが傷口に触れた事から来る微かな痺れで、トラヴィスは飛び上がるように立ち上がり扇の持ち主を睨み付ける。


「貴様……今何をした……!?」

「何って……? これでほんの少~し、ほんわかする物を撒いただけよ……?」


手にしている扇を、挑発するようにひらひらと動かすウルスラ。


「それは……?」

精撒扇(せいさんせん)――本来は酒場の上客をいい感じに酔わせる、秘密の商売道具なんだけど……あなたは既に、自分の【正義】に酔い()れてるみたいだから……特別に強めの物を撒かせてもらったわ……それこそ大火傷しかねない程に、ね……」

「大火傷……まさかっ……! 待て……!」

「御免なさい……私、そこまで優しい踊子じゃなくてね……アデラ……!」

「はいっ!」


アデラは棒の先端をトラヴィスに向けて構え――


火よ、彼の者を燃やせ(アルディエ・イグニス)!」


灼熱の火を勢いよく放つ。

火は瞬く間にトラヴィスの全身に広がり、その皮膚を焼け(ただ)れさせていく。


「グオオオオァァァァ!!」


聞くに堪えない断末魔の叫び声を上げながら、火の中で藻掻き苦しむ中――


「エルベルト、マーガレット……後は任せるわ……!」

「分かりました……!」

「【正義に選ばれし者達】……本当に有難う……!」


止めをアデラから託された2人は、各々の剣を両手でしっかりと握り締める。


「父上……あなたは驢馬が旅に出ても馬になって帰りはしないと思っていたでしょう……確かに僕も姉さんも、馬まではなれなかったかもしれません……」

「ですが、馬になれない驢馬にも【正義】は存在します……あなたのような暴君に、蛸の糞で頭に上がっている事を自覚させるという【正義】を……!」


そして2人は、彼の頭上まで跳躍し――


「「光よ、我等に征する力を!」」


剣に光属性魔法を宿らせると――


「「はあああああぁぁぁぁぁ!!」」


その胴体を真っ二つにせんと、力強く剣を振り下ろした――

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