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Question of JUSTICE ~8つの指輪物語~  作者: 瑠璃唐草
第4章 傲慢を授かりし者
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目覚めし暴君

アデラ達が王の間に入室すると、トラヴィスは玉座で瞑想していた。そして7人の足音が止むと同時に、冷酷さを帯びた目を徐に開き、玉座から立ち上がる。


「やはり戻ったな、【正義に選ばれし者】アデラとその取り巻き……幾分、数が増えているようだが……恐るるに足らぬ……此度、貴様等は【本物】の絶望を知る事となろう……」


冷酷に満ちた声が響き重苦しい空気が流れる中、マーガレットがエルベルトの肩を借り、若干足を引き摺りながら入室してきた。ハルマンも同行している。


「父上……」

「お父様……」


鋭い視線を浴びせてくる2人を目にし、トラヴィスは眉を顰める。


「エルベルトか……それと、マーガレットか? まさか生きていたとはな……余の血を分けておきながら、こんな愚か者に育ったという事か……長い間、外の世界を見てきたようだが……そんな貴様等が今、余の前に立っている……やはり、全ては過ちだった……そこに立つ者は、何人たりとも容赦はせん……」


トラヴィスは玉座の傍らに立て掛けられている、自分の背丈ほどある長剣を手にして10人の許に歩み寄る。


「エルベルト、マーガレット……2度は言わぬぞ……この場で共に自害せよ……貴様等に拒否権など無いのだ……」

「「……」」


2人を見せしめに、他の者を黙らせようとしているようだ。王の命令は絶対だと言わんばかりに……

だが当然、2人は従う素振りなど一切見せない。


「ほう……そうかそうか……貴様等を産んだ女と同じ運命を辿りたいのだな? 彼女の最期を知っているか? その光を失った目で、余に憐みを乞うていた……余が剣を振り上げると、それは一瞬にして絶望へと変わった……エルベルト、マーガレット……貴様等もあの時と同じ顔を浮かべ、苦しみ死ぬがいい……!」


自ら手を下すまでだと言わんばかりに、トラヴィスは剣を持つ手に力を込める。


「あなたはいつから、そんな風にいけしゃあしゃあと嘘が()けるようになったんですか? お母様は、希望を抱いて最期を迎えた筈です。自らの意志を、必ず誰かが受け継いでくれると……」

「えぇ……母上はそれを最期まで捨てずに信じていた……僕にも姉さんにも分かります……!」

豚児犬子(とんじけんし)が、揃いも揃って戯言(たわごと)を……希望など死へ(いざな)う毒に他ならぬ……その身を以て知れ、愚かな餓鬼共よ……余が安らかな死を与えてくれようぞ……!」


その長剣が、今にも振り上げられようとしていた。

だがそれでも、エルベルトもマーガレットも――そしてアデラ達も誰一人として怯む様子は無い。


「あなたは誰の声にも耳を傾けようとしなかった……! 民の声にも、お兄様の苦痛に藻掻く声にも、お母様の悲痛な叫びにも……!」

「姉さんに至っては、今日(こんにち)まで声を上げる事さえ許さなかった……一体どれ程犠牲を払えば気が済むんですか……!? どれだけ無駄な血が流れれば満足するんですか……!? こんな事で……これ以上不要な悲しみを増やさせはしない……!」

「そして私達も、私達の守るべき者の為に戦い続ける……そう決めたのよ……!」


目の前の者達が、皆自分の言葉に平伏しない事にトラヴィスは閉口し、冷めた表情で中空を見上げる。


「いくら言っても分からぬ愚か者ばかり……」


再び10人に視線を戻したその目は、己に反旗を翻した愚者に対する苛立ちにも似た感情に支配されていた。


「国と民とは、即ち王なり……全ては王の配下であり、駒である……王への服従こそが【本物】の幸福ぞ……! 学んだか、この無力な駒共がっ!!」


余が必要、余が正義、余が絶対、余が全て……それが理解出来ぬ者は、何人であろうと殲滅してくれよう――そんな怒りに任せたようなニュアンスの言葉に、アデラ達は眉間に皺を寄せ、更なる反骨心を滾らせる。


「国も民も世の全ても……その悲しみすらも、余が統べてやろうぞ……! 余は、この世の全ての頂を極めし王なり……余こそが【本物】の神ぞ!!」


そう叫び長剣を振り上げるトラヴィス。

その瞬間、彼の指に嵌められている指輪から赤い光が発せられ、同時に彼の身体を不気味なオーラが包み込む。

だがその直後、それをさせまいと言わんばかりに、アデラが嵌めている指輪から青い光が発せられる。

するとどうだろう、彼を包んでいたオーラが跡形も無く消失したのだ。


「忌々しい光……!」


恐らくそのオーラは、全ての攻撃を無力化させる為のものだったのだろうが、思わぬ形で絶対的な守備を崩され、トラヴィスは顔を顰める。

だがすぐさま態勢を立て直すと、己の剣に火と闇の属性魔法を宿らせる。


「複数の属性魔法を同時に1つの剣に……!?」

「僕や姉さんでさえ、光属性魔法1つを宿らせるのがやっとだったのに……!」

「彼の実力は口先だけでは無いって事ね……皆、気を付けて……!」


アデラ達は各々の武器を手にして攻撃に備える。

マーガレットも参戦しようとしたが、痛みがぶり返したのか、顔を顰めてその場に跪く。そんな彼女を気遣い、エルベルトとハルマンが彼女と共に隅の方へと避難し、一旦戦線を離脱する事となった。


「心悪しき者達よ……余の炎で焼き裁かれるがいい……!」


その間に、トラヴィスは剣に宿す属性魔法の力を更に強大化させていた。


「あんたこそ神妙にしな!」


透かさずクレオが両手を前に突き出し、指先から糸を何本も出現させ、動きを封じ込めようとする。


「甘いわ……!」

「……っ!?」


だが剣を一振りしただけで、糸は跡形も無く焼失し、その威力のままクレオ自身も吹き飛ばされてしまう。


「あ、あたしの糸が……通用しないなんて……!」

「何人たりとも、余の正しさを阻むものなど存在せぬ……貴様の糸さえもな……」


とんだ肩透かしだと言わんばかりにその脆弱さを見下すや否や、剣を水平に力強く振り払い、アデラ達に向けて2つの属性魔法を放つ。


「水龍よ、鎮めよ!」


すると今度はアイザックが魔導書を開いて、3体の水龍を操って対抗する。


「愚かな……!」

「何……!?」


しかし放たれた火炎は水龍を一瞬で蒸発させ、その威力にアイザックもまた大きく吹き飛ばされる。


「うっ……ぐぅ……!」

「その貧弱な水属性如きで、余の炎を鎮静化出来ると思うてたとは……下賤の民にも劣る思考ぞ……」


学者の面汚しが、という風な貶し言葉を浴びせる。


「あの混合魔法が何かと厄介ね……それなら……!」


このまま正攻法に則ったところで、トラヴィスには掠り傷すら付ける事など出来ないだろうと踏んだウルスラは、1つの扇を取り出し――


「香よ、皆の者に護りを!」


その場にいる全員に香属性魔法が行き渡るように、天へ向けて力強く振るう。


「これで幾分あの混合魔法には耐えられる筈よ……!」

「有難う御座います、ウルスラさん……!」

「これで奴に接近しやすくなったって訳だ……目に物を言わせてやる……!」

「驕る者久しからずっていうのを教えてやらねぇとな……!」

「しかし、深追いは禁物です……! 皆さん、彼の術中に嵌らないように……!」


アデラ達が戦闘態勢に入る中、ウルスラは微笑を浮かべながら後方を一瞥する。


「クレオ、アイザック……休息はそのくらいにしておいたら……?」

「言われなくったって、あたしはもう()うに立ち上がってるさ……!」

「私のタフさと諦めの悪さを甘く見ないでくれたまえ……!」


臨戦態勢が整い、7人は一斉にトラヴィスへ攻撃を仕掛ける。


「はあぁー!」

「うおぉー!」


アデラとショーンが棒と短剣でトラヴィスを攻め――


「うおりゃぁー!」

「ふぅんっ!」


クレオとウルスラも斬糸と鉄扇でサポートし――


「オラオラオラァ!」


ジュノが遠距離から矢を乱発し――


「風よっ!」

「水龍よっ!」


そしてティアナとアイザックは、己の属性魔法を駆使して攻撃を繰り返す。

だがアデラ達が何度攻撃を仕掛けても、トラヴィスは全てを剣で()なし続け、殆どダメージを受けていない。それどころか、その表情には余裕とも侮蔑とも取れる笑みを浮かべているようにすら見える。

一方で、アデラ達は長期戦によって気力を大幅に消耗し、誰もが肩で息をしている状態であり、常人であれば立っている事すら困難な程までに追い込まれていた。


「【正義に選ばれし者達】……ここまで余と渡り合えるとはな……褒めて遣わしてやりたいところだが……そこまでぞ……!」


そう宣告するや否や、トラヴィスは剣に混合魔法を宿らせ、真一文字に振り切る。

これまでとは比べ物にならない程の巨大な火と闇の鎌鼬に、アデラ達は避ける事すら出来ず、断末魔のような声を上げながら大きく吹き飛ばされ、身体を壁に強く叩き付けられる。


「皆さんっ!」

「そんな……っ!」

「何という事……!」


エルベルトもマーガレットもハルマンも、絶句するあまり顔面蒼白となっている。

一方トラヴィスは、倒れ込んでいる7人を冷めた目で見詰め、その中で何とか立ち上がろうとするアデラの姿を捉えると、彼女の許へと歩み寄っていく。


「余に反逆の意を表した愚か者――【正義に選ばれし者達】よ……余の怒りの炎を以て、罰せられよ……貴様等は今こそ【本物】の主を知る事となろう……」


そして、彼女の傍らで足を止めると――


「【正義に選ばれし者】アデラよ……これが貴様が選んだ道の末路ぞ……!」


見せしめの為にアデラの首を斬り落とそうと、両手で剣を大きく振り被る。

そんな絶体絶命の中、「まだです……」と呟き、歯を食い縛りながら徐に立ち上がるティアナの姿が……

これまで見せた事の無い、鋭い目を帯びた表情でトラヴィスを見詰め――


「まだ、私達の【本物】を見つける旅路は……終わりません……!」


祈りを捧げるように両手を組むと――


「聖炎よ、我等に癒しの力を与えたまえ……!」


回復(ヒール)魔法を発動し、その場にいる全員の体力を回復させ傷を癒やす。

すると倒れていた者達は一斉に立ち上がり、再び戦闘態勢に入る。

アデラも傍らにトラヴィスがいた事を認識し、素早く距離を取って棒を構える。


「馬鹿な……まだそれ程の力を残していようとは……なれど貴様の魔法など、所詮は完全復活とは程遠い時間稼ぎ……【本物】の絶望の瞬間が、ほんの僅かに伸びただけに他ならぬ……」


焼け石に水だと言わんばかりの嘲笑を込めた言葉を発すると、左手を前に突き出して雄叫びを上げる。

次の瞬間、爆風のような強烈な闇の波動が、王の間全体に広がる。

その場にいる誰もが必死に堪える中、トラヴィスは再びアデラの許へと近付き、剣を大きく振り被る。


「【正義に選ばれし者】アデラよ……貴様が持つ4つの指輪とその首を、今こそ余の手に……!」

「し、しまったっ……!」


アデラが気付いた時には、剣は既に振り下ろされ、目の前まで迫っていた。


ガキンッ!


金属同士が交錯したような鋭く乾いた音が、王の間全体に響き渡る。


「エルベルト……!? マーガレット……!?」


何という事だろう、ここまでただ見ている事しか出来ずにいた2人が、各々の剣で、彼女を守るように刃を受け止めているではないか。マーガレットに至っては、まだ腿の痛みが完全に引いていないにも(かかわ)らず、である。

決死の覚悟で立ち(はだか)る2人を、トラヴィスは冷酷な視線で睨み付ける。


「貴様等……やはり正しき道を外れるつもりか?」

「正しい道など1つとして存在しません。いいえ……正しい道は無限にあります。それが【正義】というものです。お父様もこれまで、お父様なりの【正義】を貫いてきた事でしょう」

「でも……僕達にも僕達の【正義】があります。貫き通すべき【正義】を……あなたをここで討つという【正義】を……!」

「貴様等の【正義】など、滅びへ(いざな)う悪そのもの……心正しく歩む余の手で、悪は常に裁かれるのみ……!」


2人の剣を圧し折ろうと、トラヴィスは剣に更なる力を入れる。

その隙を見て、アデラはすぐさま棒を構え――


光よ、彼の者を眩ませ(フルグーレ・ルクス)!」


先端から白い光の玉を放ち、トラヴィスの眼前で拡散させ、眩い閃光を放つ。


「うぐぅっ……!」


目を眩ませられたトラヴィスは、若干後退って短い声を発し、左手で目元を覆う。


「くっ……余を惑わす光など……この世には存在せぬ……!」


この世の全ての希望を否定するように、左手を振り払いながら声を荒らげるが――


「……っ!?」


彼の両腕に何かが幾重にも巻き付いて絡まり、手の自由が利かなくなっていた。

クレオの糸だ。


「貴様……っ!?」

「自分の正しさを阻むものなんて無いんじゃなかったっけ?」


彼女からの嫌味に、トラヴィスは青筋を立てている。


「ウルスラ、頼むよ!」

「任せて……! 香よ、皆の者を奮わせよ!」


先程とは異なる扇を取り出すと、ウルスラはその場にいる全員に香属性魔法が行き渡るように、天へ向けて力強く振るい、攻撃力を向上させる。


「行くぜっ! (いかずち)よ、貫け!」


刹那、ジュノが放った2本の矢がトラヴィスの肩を掠め、そこから強烈な電流を伝え、握られていた剣を落とし――


「闇よ、引き裂け!」

「風よ、斬り裂け!」


ショーンの闇属性とティアナの風属性の魔法攻撃で、身体中にいくつもの切り傷を負わせ――


「火よ、燃え広がれ!」

火よ、彼の者を燃やせ(アルディエ・イグニス)!」


相乗効果で強化されたクレオとアデラの火属性の魔法攻撃で、巻き付いていた糸ごと両腕を火達磨にし――


「水龍よ、襲え!」


アイザックが操る3体の水龍で壁際へと追いやる。

そして止めとして――


「「光よ、我等に征する力を!」」


エルベルトとマーガレットが、光属性魔法を宿らせた剣を力強く振り下ろし、彼の胴体に大きなバツ印の傷を負わせる。


「ぐおぁっ……! うぅ……!」


これまで誰にも見せた事の無い苦悶の表情を浮かべ、その場に跪くトラヴィス。肩で息をしながら、己を窮地に追い込んだ9人を睨み付ける。

エルベルトとマーガレットが降伏を迫るような目で見詰めているが、頑としてそれを受け入れるつもりなど無いようだ。


「まだだ……」


そう漏らしながら、酷く痛め付けられた全身に鞭打ち、徐に立ち上がると――


「余は……余は、クォージウスを統べる……絶対の王なり……!」


絞り出すように声を上げ、指輪が嵌められた右手を天高く突き上げる。


「【傲慢】の力宿りし指輪よ……我の声を届け、真なる姿を……真の【傲慢】を我に与えたまえ……」


そう唱えると、指輪が赤く発光し始める。


「くっ……させぬ……!」


指輪の力の発動を阻止せんと、ハルマンがすぐさま走り出す。

だがそれも空しく、トラヴィスの身体が一瞬で不気味な漆黒のオーラに包まれ、その体積を加速度的に増大させていくと、次の瞬間、激しい爆発音が部屋中に響き渡り、霧散するオーラと共にハルマンの身体は後方へ大きく吹き飛ばされる。


「「ハルマン!」」


全身を壁に強く叩き付けられ、その場に(うずくま)るハルマン。

残っている9人が見上げた先では、トラヴィスとはまるで違う、背筋が寒くなるような不気味な姿をした巨大な化け物が、鋭い牙を剥いて、その場にいる全員を見下ろしていた――

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